NYで連日テレビ中継
エクアドルやコロンビアの予選の活躍も見ることが出来た
ニューヨークにいたら、欧州や南米のサッカーは見られないだろうと思うと大間違い。いろんな国から、いろんな民族がやってきて雑然と住んでいるこの大都会では、世界中のあらゆるものを楽しむことが出来る。サッカーだって例外ではない。
それというのもケーブルテレビが発達していて、ぼくの住んでいるマンハッタンには30近くのチャンネルがあり、その中のイタリア語やスペイン語のチャンネルで毎日曜日にサッカーの中継をやるからである。
7月になって、ブラジルで南米選手権コパ・アメリカが始まると、スペイン語のチャンネルが、予選リーグから毎日1試合、中継をした。その他にマジソン・スクエア・ガーデンの劇場では、別の試合のテレビ電波を受けて公開したから、ほとんど全部の試合をニューヨークで、見ようと思えば見ることが出来た。
今回の大会は、南米の10力国が参加し、A、B2グループに分かれて、最初の10日間に総当たりの予選リーグをする。会場はリオデジャネイロの北1690キロのサルバドールと北東1400キロのゴイアニアという地方都市である。
予選リーグは毎日、なかなかの熱戦だった。2年前にアルゼンチンで見たコパ・アメリカよりもずっと内容があるように思えた。
予選リーグでは、優勝候補でないチームの戦いぶりが面白い。たとえばコロンビア、パラグアイ、エクアドルである。
こういう国はワールドカップには、なかなか出てこないので、ぼくたちは見る機会が少ないが、南米選手権では相当の頑張りを見せる。ブラジルやアルゼンチンでは代表に選ばれないようなユニークなタイプの選手が活躍し、プレーのスタイルも、それぞれ独特なものがある。
2年前のコパ・アメリカで旋風を起こしたコロンビアは、金髪をたなびかせたライオン丸のようなエースと、むやみにペナルティーエリアの外まで飛び出すゴールキーパーが今回も活躍して、ブラジルと引き分けた。
今回のセンセーションは、エクアドルで、初戦で南米チャンピオンのウルグアイと当たって終了寸前の決勝点で歴史的な勝利を記録し、さらに世界チャンピオンのアルゼンチンにも引き分けた。
こういう国の選手の運動能力は、びっくりするほど高い。足は速いし、ジャンプ力はあるし、相手を抜いて出る足技も、サッカー大国の選手たち以上である。
ただ、試合ぶりにむらがあるし、チームとしての戦術が必ずしもまとまっていないから、上位進出は難しいが、展開に恵まれれば番狂わせを起こす力は十分にある。
こういうチームの試合ぶりを楽しめたのも、ニューヨークに移り住んだおかげだった。
初戦は良かったブラジル
欧州帰りのスターを加え。多彩な攻撃を試みたが……?
とはいえ、コパ・アメリカの主役は、やはりブラジルとアルゼンチンだ。ワールドカップの優勝候補でもあるから、その戦いぶりは来年を占うためにも見逃せない。ブラジルもアルゼンチンも、欧州に行っているスターたちが帰ってきて、代表チームに加わることに第一のポイントがあった。
南米の国では、トップクラスの選手は、ほとんどヨーロッパに出ているから、通常の国際試合のときは、主として国内に残っている選手で代表チームを編成するほかはない。しかし、来年のイタリアでのワールドカップでは、海外流出組を呼び戻して最強チームを編成することになるので、監督としては海外組のプレーぶりをできるだけ見ておきたいし、また国内組といっしょにプレーする機会を出来るだけ多く作って、コンビネーションを確認しておく必要がある。
そういう意味で、コパ・アメリカは、ワールドカップへの準備の実質的なスタートでもある。
予選リーグの戦いぶりを、まずブラジルからみてみよう。
ブラジルは第1戦、ベネズエラに3−1で勝った。プレーの内容はスコア以上に良いように見えた。なによりも攻撃の方法に変化が多いのがよかった。
まず、両翼を使ったオープン攻撃がある。
テレビ観戦だから、布陣はよく分からないが、ロマーリオがトップで左寄りにベベットがいる。ベベットは、すばしっこく、得点感覚がありそうである。右のオープンスペースには、守備ラインからDFの選手が上がって来る。こうした両翼のスペースを使った攻めが、チャンスを作った。
次に中盤の壁パスによる突破からタイミングのよいスルーパスにつながる崩しがある。中盤のチッタが開始10分で負傷退場したが、代わって出てきた選手が、攻めの組み立て役として活躍した。
さらに後方からの長いタテパスによる逆襲がある。
3点目は、後方からの長いパスが中盤の底から左寄りに進出していた選手に渡り、そこからドリブルで突進して逆サイドに振り、右から進出してきた選手が走り込んでダイレクト・シュートで決めたものだった。逆襲の長いタテパスに始まりながら単純な速攻でないところがいい。
このように、第1戦はすばらしかったブラジルだが、第2戦はペルーと0−0の引き分け、第3戦もコロンビアに0−0と引き分けで、苦しいことになった。
この2試合では、メンバーを第1戦とはかなり変え、なかなか点が取れないのに焦ってレナトをトップにいれて、しきりにドリブルで攻めた。ラザローニ監督は、来年のワールドカップのことを考えて、いろいろな選手を使い、いろいろなやり方を試みたのかもしれない。しかし結果は良くなかった。
そういうテストをしながら、やはり勝たないと、地元開催だけに批判は厳しい。この国の監督稼業はなかなか大変である。
マラドーナ一本やり
来年のW杯をめざし、アルゼンチンは苦戦を覚悟の戦い!
アルゼンチンの第1戦の相手はチリだった。ナポリでプレーしているマラドーナは、イタリア・カップの決勝戦が終わって飛んで来ての出場で、いささか疲れている様子だったが、終始チームの先頭に立って頑張っていた。ビラルド監督が、あくまでもマラドーナを中心に戦おうとしている姿勢がうかがわれた。おそらく来年のワールドカップもマラドーナを中心に戦うことになるだろう。だからいま、その戦い方を変えたくないということではないか。
後方にバチスタ、中盤にブルチャガ、そしてトップにマラドーナ。この3人をつなぐ線で攻める。変化をつけるのはマラドーナの「ひらめき」だけである。多彩な攻めを試みていたブラジルとは対照的だった。
ボールは、ほとんどアルゼンチンが支配していたが、得点はなかなか生まれなかった。マラドーナは疲れているうえ、しっかりマークされている。それでも、あくまでアラドーナにボールを集めてから展開しようという方針だから、チリの方は守りやすいわけである。
後半10分、ロングシュートをゴールキーパーがはじいたのを、カニーヒアが押し込んで決勝点をあげたが、苦戦の印象は免れなかった。
第2戦はエクアドルを相手に0−0の引き分けだった。決定的な場面は逆襲速攻のエクアドルにも同じくらい多かった。苦戦の原因は、やはりマラドーナだけに頼った攻めにあったと思う。
第3戦は、さらに薄氷を踏む思いだった。相手は第2戦から立ち直って調子をあげているウルグアイで、しかも前半15分に1人退場になり、試合の大半を10人で戦わなければならなかった。
ここでは、マラドーナに頼る攻めが有効だった。負けでは決勝リーグ進出の望みがなくなるから、少なくとも引き分けを狙って守りを固めなくてはならない。そのため前線は手薄になるが、マラドーナがいるのでウルグアイも、むやみに攻めにばかりは出られないし、マラドーナが持ちこたえてくれるので、アルゼンチンは攻めに出るための時間を稼ぐこともできた。
後半24分に人数の少ないアルゼンチンの方が決勝点をあげた。中盤のマラドーナが起点になり、見事なスルーパスが相手守備の裏側に抜けてカニーヒアが決めた。
予選リーグを通じて、アルゼンチンは、あまりメンバーを変えなかった。この大会は1日おきに試合をするので、同じメンバーで戦い抜くのは苦しいが、ビラルド監督としては来年のワールドカップをめざし、マラドーナを中心としたチームを維持していこうと狙ったのだろう。
――というふうに、ニューヨークでテレビを見ながら考えた。しかし本当のところ、ブラウン管ではもの足りない。これは、やっぱり現場で確かめなくっちゃ――。決勝リーグを見にリオデジャネイロに飛ぶことにしよう。 |