野球の2リーグ制
競争で新しい運営を試みるところに、活気の源泉がある!
ニューヨークで暮らすようになって、もう3カ月以上たった。その間に出来るだけ、いろいろなスポーツを勉強しようとウロウロした。
実をいうとサッカーは、まだ取材の機会がない。しかし、米国で盛んな他のスポーツに接してみて、この国のスポーツの良さを感じ始めている。その良さは、日本のサッカーにとっても参考になるはずである。
米国の4大プロスポーツは、野球、フットボール、バスケットボール、アイスホッケーである。この4大プロスポーツが、自分たちのスポーツを盛んにするためにアイデアをこらして競争していることに、ぼくは感心している。
同じスポーツの中でも競争がある。たとえば、野球の大リーグは、アメリカン・リーグとナショナル・リーグが、それぞれ別に試合をし、優勝争いをしている。ぼくは米国にきてから、この2大リーグ制もよい点があることを改めて認識した。
日本のプロ野球もセントラルとパシフィックに分かれているから、ぼくたちは、2リーグ制をそれほど変だとは思わないが、ヨーロッパの人たちは、2リーグ制は不合理だと思うらしい。ヨーロッパのプロ・サッカーは1リーグ制だからである。
確かに2リーグ制には不合理なところがある。
レベルの高いチームが、二つのグループに分かれて、別々に試合をするから、好カードの数が少なくなる。たとえば、ヤンキース対ドジャースの試合、日本でいえば巨人対西武の試合は、両チームがともにリーグ優勝してワールドシリーズあるいは日本シリーズで顔を合わせない限り見ることができない。
1リーグ制なら、強いチーム同士の好カードが、いろいろ出来る。その方が、お客さんにとって面白いし、レベルの向上につながるはずである。
だが、1リーグ制にも欠点がある。それはリーグの運営に「競争がない」ことである。
日本サッカーリーグが出来てから、もう20年以上たつ。発足当時の人々は、新しい歴史を作り出す意気に燃えていたが、運営する人が2代目、3代目になると「前の年と同じことの大過なく」という仕事ぶりになった。そのうちに、レベルが停滞し、観客動員数が落ち「これはいかん」と、勝ち点制度を変えたり、キャッチフレーズを作ったり、いろいろ目先を変えたが、はかばかしくない。
それというのも、一握りの運営委員が仲間うちでアイデアを考え、うまくいかないと「仕方がない。次は別のやり方を」という調子で仕事をしているからだと思う。
プロ野球では2大リーグが、それぞれ知恵を絞り、競争でリーグの繁栄を計っている。米大リーグに活気があるのは。一つには2リーグの間の運営競争が厳しいからである。
サッカーの日本リーグを二つに分けるのは、良いチーム同士のカードを、ますます少なくすることになるから適当ではないが、何か別の方法で運営に競争を取り入れなければいけないのではないかと考えた。
フットボールの人気
有能なプロの会長に経営を任せて黄金時代を築き上げた!
米国の4大プロスポーツの中で、どのスポーツが一番人気があるだろうか。
いろんな人に聞いてみたが「全米での人気はフットボールだろうね」という答えが多かった。
フットボールのプロを運営しているのはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)で、これは1リーグ制である。このNFLは、1月下旬の優勝決定戦、スーパーボウルを頂点に、いま人気絶頂の黄金時代を迎えている。
だが、プロのフットボールは、かつては、なかなか運営が大変だったらしい。
というのは、野球は米国では高校や大学では「見るスポーツ」としては、ほとんど成り立っていないので、大リーグに人気が集中しているが、フットボールは大学や高校の人気スポーツで、その人気をプロの方に向けさせるのが、なかなか難かしかったからである。 また、かつてはアメリカン・フットボール・リーグという別のプロ組織があって、これを吸収統合するまでは、双方とも経営が困難だったという話である。
いろいろな難しい問題を次々に解決して現在のNFLの繁栄をもたらしたのは、NFL会長(コミッショナー)のピート・ロゼールという人だった。この人は1964年に就任し、ことしまで25年間、NFLの経営を一手に引き受けてきた。
このロゼール会長が、この3月に引退を表明し、いまNFLはその後任探しに苦労している。
ロゼール会長は、ことし63歳である。
ということは、就任したときは38歳の若さだったことになる。
また、ロゼール会長が現在NFLからもらっている給料は、年間100万ドル(約1億3千万円)だということである。
つまりフットボールのプロ組織の会長は、チームの経営者の集まりであるオーナー会議の決定でリーグに雇われて、リーグの運営を任されている。
有能だと思われれば若くても会長に選ばれて、全権を委ねられる。そして、リーグの経営に成功すれば25年間も、会長を続けることが出来る。もちろん、実績をあげなければオーナーたちから、すぐに首にされたはずである。
リーグの経営に成功して、リーグがもうかれば、会長の給料も上がる。ロゼール会長が、年間1億円以上の給料がもらえるのは、それだけの仕事をし、NFLがもうかっているからである。
日本のスポーツ団体の会長は、功なり名とげた老人が多い。そして実務で腕をふるうわけでなく、いわば名誉職として重しになっているだけである。
サッカーの日本リーグをプロ化するつもりなら、まずリーグの会長に若くて有能なプロフェッショナルを迎え、経営を任せたらどうだろうか。成功したら高い給料を払うが、成績をあげられなければ、もちろん1年で首である。
バスケットの経営
観客収容数の少ない体育館のプロスポーツの成功の秘密?
マンハッタン島の西側、ハドソン川対岸のニュージャージー州イーストラザフォードのメドウランドに大きなスポーツ施設がある。
大阪からボストン・マラソンを取材にきた同僚が「米国のスポーツの様子を知りたい」というので、案内と称していっしょに行ってみた。ニューヨーク市の中心部から車で1時間足らずである。
豪華な競馬場やフットボールのジャイアンツの本拠地になっているスタジアムを見た後、パスケットボールのネッツとアイスホッケーのジェッツが本拠地にしているアリーナ(体育館)に案内された。
このメドウランドには野球場はないが、近い将来に作る計画で、出来たら大リーグのチームを誘致したい、という話だった。そうすれば、4大プロスポーツが全部そろうわけである。
四つのプロスポーツが、激しく競争しながら、それぞれみな成功していて、メドウランドのような施設が運営できるのが面白い。
アリーナでは、プロ・バスケットボール組織のNBAのゲイリー・ベットマン副会長が、いっしょに食事をしながら説明してくれた。
米国のプロスポーツの中で、選手の収入がもっとも高いのは、バスケットボールである。
観客収容数の少ない体育館でやるスポーツがなぜ、高いお金を選手に払えるのか、かねがね不思議に思っていたのでこの機会に聞いてみた。
「それにはいくつも理由がある」とベットマン副会長は、説明してくれた。
まず、バスケットボールは、レギュラーシーズンのテレビの視聴率が、他のスポーツよりもずっといい。だから放映権収入が多い。次に選手数が1チーム12人と少ないので、1人あたりの収入は多くなる。
また、プロ野球の大リーグは、選手を養成するためにマイナーリーグのファームチームを抱えているが、バスケットボールは、高校や大学で非常に盛んなスポーツなので、選手養成をプロ組織が自分でやる必要がない。だから経費が掛からない。その分、選手の給料を高くできる。
とまあ、こういう話だった。
以上の話を、日本サッカーリーグの運営に当てはめたらどうだろう。
米国では4大プロスポーツが共存しているのだから、プロ野球が盛んなために、サッカーは成功しないという言い訳は成り立たない。
また米国ではフットボールはフットボール、バスケットボールはバスケットボールと、それぞれ独自の経営法で成功しているのだから、日本のサッカーも、日本の実状にあった経営の工夫をしなければならない。
NBAの運営に学ぶとすれば、テレビの視聴率をあげる工夫をすること、登録選手数を制限すること、学校サッカーとの関係を研究することが必要ではないかと考えた。
どれをとっても簡単ではないが、米国のやり方を参考にして、日本独自のアイデアをひねる必要がありそうである。
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