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サッカーマガジン 1988年8月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

才能ある者の起用はもっと早く
2軍でも白熱戦を見せてくれたフラメンゴ

名取篤君おめでとう!
年齢的に遅すぎたけど、初の代表入りで才能を発揮した!

 先月号と先々月号で書いたように、畑違いの登山の仕事で海外をかけずり回っていたため、キリンカップは決勝戦しか見ることができなかった。そこでまず、友人たちに留守中の様子を聞いてみた。 「今度のキリンカップは、横山兼三新監督の率いる日本代表が一つの焦点だったんだろうな」 
 友人はたちまち反応した。 
 「だめだめ、●●●だよ」 
 なるほど、星取り表を見ると3連敗である。 
 「どんなつもりで、ああいう選手を起用し、ああいう作戦を取ったのか、さっぱり分からん。記者会見で質問しても、ヨーロッパ遠征の後でとかなんとか、何を言いたいのか分からない」 
 この友人は、愛国心が強すぎて、日本が負けると極端なことを言い出す傾向がある。それに、横山兼三君は人間的にはいい男だが、ジャーナリストに対する応対がへたくそだということで、昔から定評がある。 
 だから、この友人の発言は、割り引きして聞くことにして、試合の様子と評価は、公正無私なる「サッカーマガジン」が発売されたあと、そのレポートを読むことにした。 
 ところで、プログラムをめくって日本代表のページを見てみると、比較的新しい顔ぶれが多いことに気が付いた。そして、その新しい顔ぶれは年齢的に必ずしも若くない。 
 プログラムに載っている18人の中に23歳以下が6人いるが、その中で平川弘、堀池巧、前田治は、以前から日本代表の第一線とみなされていた若手である。 
 「3年後、4年後のために新しい顔ぶれを入れたというより、横山新監督の好みが反映されているとみるべきかな」 
 とぼくは思った。 
 さて、年齢的には若すぎるとはいえない新しい顔ぶれの中で、いちばんびっくりしたのは、三菱の名取篤が26歳で初の代表入りをしていたことだ。 
 名取は、帝京高校優勝の立役者だった当時から、ぼくの好みの選手だった。だから初の代表入りに「おめでとう」と言いたいのだが、同時に「なぜいまごろになって」という疑問もわいた。 
 「たしかに」 
 と友人が解説してくれた。 
 「名取はスピードがないからね。国際試合向きかどうかには疑問がある。だけど今回のキリンカップに関しては、名取がはいったんで良かった。最後の大宮でのレバーグーゼンとの試合にだけ出たんだけど、名取がはいってボールをキープできるようになったので日本代表もやっとさまになったんだ」 
 ぼくは試合を見ていないのでなんとも言えない。ただ、もともと才能とインテリジェンスのある選手だったのだから、26歳になって代表に起用するくらいなら、もっと若いころから、国際試合の経験をたくさん積ませておきたかった、というのが感想である。

迫力あった決勝戦
フラメンゴの主力が2軍だったから欧州側も意地で反撃?

 ことしのキリンカップは6月7日の決勝戦しか見ることができなかった。カトマンズと北京を旅行していて、来日チームの記者会見も出られなかったし、予選リーグの試合も見ることができなかった。そこで予備知識なしに、いきなり決勝戦だけを見ることになった。たまに先入観なしに見るのもいい。 
 そうやってみると、決勝戦は、なかなか迫力があったし面白かった。前半の攻め合いは、それぞれ持ち味を出した味わいのあるものだった。また後半はじまって間もなくのフラメンゴの得点はチャンスにたたみかけるブラジルのサッカーらしい良さがあった。得点したのが看板のジーコだったのも面白かった。そのあとのレバーグーゼンの必死の反撃は、さながらワールドカップの欧州対南米の試合のミェチュア版である。ふだん口の悪い友人も、さすがに面白さを認めた。 
 「まあ、キリンカップにしては出色の決勝戦だったよ」 
 そういう言い方はよくない。日本のサッカーのために大金を出してくれているスポンサーに申し訳がない。面白かったら、素直に面白かったと言えばいい。 
 「だけどフラメンゴは2軍だったからな。素直に良かったとはいえないよ」 
 そうだったのか。そういえば同じ時期に他の試合があるので、チームを二つに分けて、日本へはその片割れが来る、という話を聞いたおぼえがある。 
 なるほどメンバーを見ると、世界的に著名な選手は、ジーコとレアンドロぐらいで、あとはだいたいが若手である。 
 ただ、ぼくに言わせると、ジーコが来てれば看板としては十分だ。本当は2軍なのにベストメンバーだと宣伝したのだったら詐欺だからけしからんと言わなければならないが、そうでなければ、ちゃんとしたプレーを見せてくれさえすれば、看板以外の顔ぶれが1軍だろうが2軍だろうが、こっちの知ったことじゃない。 
 問題は、ちゃんとしたプレーを見せて、しかも看板のジーコを盛り立ててくれるかどうかだが、決勝戦に関する限り、十分に我々を楽しませてくれたと思う。 
 「南米側の大半が2軍だったから、かえって迫力のある試合になったんじゃないのか」
  とぼくは逆説的な意見を出した。 
 「それは欧州のレベルが低いから、南米は2軍でちょうどいいということかね」 
 友人は、ちょっと解しかねるといった顔つきである。
 「そうじゃない。フラメンゴの若手選手は1軍に上がれるかどうかの境目だから、認められようと思って一生懸命プレーした。一方、レバーグーゼンの方は、1点リードされたあと、2軍にやられたら恥だと思って必死に反撃した。だから迫力のある試合になったというわけだ」 
 まあ、これは一つの推測に過ぎない。

日本の観客は世界一だ!
マナーが良く、くろうと好みのプレーもよく分かっている

 かねがね、日本のサッカーの観客は世界一だと思っていたが、今回のキリンカップの決勝戦を見てますますそう思った。おとなしすぎることを皮肉っているわけではない。まじめな話、マナーもいいし、サッカーをよく知っている。 
 キリンカップ決勝戦の前半、フラメンゴのレアンドロがみごとなタックルで相手のボールを奪った。激しいタックルでボールをけり出したのではなく、タイミングのいいフェアな飛び込みで相手の足元のボールを自分のものにし、すぐ起き上がってドリブルした。そうしたらスタンドから拍手が起きた。 
 相手のボールを確実に奪い取って自分のものにし、すぐに攻撃に移るのが最善の守りである。しかし、えてして、こういう地味なプレーはスタンドの喝采を浴びることが少ないものである。レアンドロの好プレーを見逃さなかった日本の観客のレベルの高さにぼくは驚嘆した。 
 ジーコがみごとなドリブルで相手をごぼう抜きにした場面でも、もちろん拍手が起きた。いまやこれは当り前で取り立てて書くまでもない。 
 前半20分過ぎにレバーグーゼンのラインハルトが中盤、左のタッチライン沿いから逆サイドのタッチライン沿いにいたバースに60メートル余りの長いサイドチェンジのパスを送った。これに対してもすぐに拍手が起きた。これはたいしたものである。 
 長いパスを送ったキック力に対して拍手したのではないことは明らかだった。遠くにいる味方が良い位置にいることを認め、けったボールが正確に味方に届き、それが的確な戦術効果を持ったことをスタンドが認めたのだった。こういうプレーのすばらしさ、面白さを楽しめるようなら、サッカーファンとしてもう一流である。 
 4年間貯金をしてワールドカップを見に行くファンなら、これくらいサッカーを見る目があってもおかしくはない。 
 しかし国立競技場を埋めた大観衆が、期せずして拍手を送るのだから、日本のサッカーの観衆のレベルは高い。 
 日本のスポーツファンのお行儀の良さは定評があるが、テニスなどでプレーの合間に儀礼的に拍手をして、いいプレーにも悪いプレーにも同じように反応しているのを見ると、いささかお行儀が良すぎて、スポーツを楽しんでいるようには見えないときがある。しかしサッカーの観客の場合は明らかにゲームを楽しんでいて、しかもマナーがいい。 
 「サッカーの場合は、もう少し騒いでもいいんじゃないか」という意見もないではないし、ぼく自身そう思っていたこともあるが、最近、外国でサッカーをめぐる騒ぎが続出しているニュースを聞くと、日本の観客の楽しみ方で、十分だという気持になってきた。


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