アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1988年5月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

代表チームの強化と日本リーグ
日本リーグの目的は代表強化のためではない

日本リーグに罪はない  
古河や読売クラブがアジアで勝つのに代表が勝てないのは

 日本リーグの運営に関係している友人が訪ねてきていう。 
 「リーグの運営がマンネリになっている。改革の必要があると思うのでご意見をうかがいにきた」 
 うむ、それはよい心がけだ――と思ったら、その後がいけない。 「日本代表チームがオリンピックにも出られない。これはリーグに責任がある、と思うんでね」 
 ばかを言っちゃいけない。日本代表チームが勝てないのは、日本サッカー協会の責任でリーグの責任じゃない。 
 「でも日本リーグの目的は日本の代表チームの強化にあるのに、日本のサッカーのレベルが上がらないんだからね。これはリーグの責任だと思うんだけど……」 
 電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな私が悪いのよ、という伝だが、これはとんでもない見当違いだ。物事の本当の姿を見極めないで、責任だけとっても解決にはならない。 
 この考えには三つ間違いがある。 
 第一に「日本のサッカー」を「日本代表チーム」と同じに考えているが、これが間違い。「日本のサッカー」といえば、子供のチームから町の草サッカーまでみな含めて考えなければならないが、「日本代表チーム」は協会が選抜して編成している一握りのチームのことである。「日本全体のサッカーが良くならなければ代表チームも勝てない」と言うのなら正しいけれど、逆は必ずしも真ならず、代表が負けたからって日本のサッカー全部がダメということにはならない。 
 第二の間違いは、日本リーグのレベルが低いと考えていることだ。「アジアの中で日本サッカーリーグのレベルが、そんなに低いとは思えないね。各国のリーグチャンピオンの出場するアジアクラブカップで古河電工が優勝したり、読売クラブが勝ち進んでるんだからね」 
 もちろん、欧州や南米のプロチームに比べれば日本リーグのレベルは低い。しかしアジアの中で連戦連敗するほど弱くはない。ところが日本代表チームの方は、ここ20年というもの目ぼしい成果がないではないか。これはリーグのレベルに比べて代表チームの成績がふるわないということである。 
 さて第三の、もっとも重大な間違いは「日本リーグの目的は日本代表の強化にある」という考えだ。 
 「リーグの目的は仲間同士でいい試合をやることだよ。日本リーグのレベルになれば、お客さんにいい試合を見せることも考えなければならないけど、代表チームの強化に役立つことは本来の目的じゃない」 
 「へえ、そうかねえ」  
 友人は意外だという顔をした。  
 たしかに日本リーグ発足当時、日本代表強化のためを旗印の一つに掲げたように記憶しているが、これは日本リーグを結成すれば代表チーム強化にも役立つということで、代表強化がリーグの唯一の目的だということではない。どうも根っこと枝を取り違えた議論が多いようである。 

プロができれば?
プロができればレベルアップになるという意見は本当か!

 「プロができれば日本のサッカーも強くなるという説があるけど。これはどうだろう」  
 と友人が言う。  
 「それも根っこと枝を取り違えた議論だな」とぼく。  
 サッカーが盛んで、レベルが上がり、試合が面白く、お客さんが集まるようになればプロができる。  
 しかし、プロを名乗っても、人気がなく、レベルが低く、試合がつまらなく、お客さんがあくびをするようでは、強くなるなんてことは、ありっこない。
 強いからプロになるので、プロと名乗ったら強くなるわけではない。 
 ここでも逆は必ずしも真ならず、である。  
 「日本リーグがプロを名乗ろうという動きがあるのかい?」 
 ぼくの方から逆にきいてみた。 
 「いや、いまの日本リーグの中から有力なチームをいくつか集めて別にプロリーグを作りたい、と考えている人はいるらしい」 
 「その可能性は?」 
 「いまのところ、賛成するチームはほとんどないようだけど……」 
 友人の言い方は奥歯に物の挟まったようなところがあった。 
 そこで、ぼくが推測した。 
 現在の日本リーグは主として有力な企業のチームで構成されている。日立や三菱のような大会社は、プロを名乗って思い切った運営をする危険をおかしたがらないし、その必要もない。それに飽きたらない新興チームが同志を募って6チームか8チームで、日本リーグとは別にプロリーグを結成しようとしているのではないか。 
 「日立や三菱のような大会社のチームも考え方は変わってきているんだけどね。むかしのようにアマチュアリズムに凝り固まっているところはないんだが……」 
 そういえば大会社のチームでもプロ登録をした選手を使っているし、日立も有名な外人のプロ選手を入れることになったときいた。 「だけどプロリーグと名乗って試合をしなければ人気が出ないし、レベルも上がらない、と主張する人がいるんだよ」 
 「日本のサッカーのプロ化にぼくは賛成なんだ。その点は誤解してもらうと困るけど、ただプロになれば強くなるなんて議論は間違ってると思うね。プロと名乗っても恥ずかしくないように強くしよう、というなら分かるけど」 
 ぼくの考えでは、いまの日本リーグの運営は悪くない。改革のテンポは遅いけど、自主運営を進めて入場料収入などがホームチームのものになる方向に進んできたし、プロ選手の登録も一歩一歩だが前進した。態勢は整いつつあるので、あとは各チームの運営の努力次第である。 
 「いまの方向でもっとテンポを速くしていけば、日本リーグがいい意味のプロフェッショナリズムで運営できるようになるだろうな」 
 とぼくは持論を述べた。 
 「そうすれば、それがレベルアップにつながることは、あると思うよ」

リーグの日程を変えるな
代表チームのためにリーグを犠牲にすると元も子もなくす

 ぼくが意見を述べた。
 「長い目で見ればリーグが日本代表チームの強化に協力しないことによって、日本代表チームが強化されるんじゃないかな」 
 昨年、日本リーグの日程がくるくると変わった。日程が全部確定しなかったり、一度発表された日程が取り消されたりした。 
 これは日本代表チームがオリンピック予選を戦うための日程をあけるためだったが、逆説的にいえば、こういうふうに日本代表チームのためにリーグが犠牲を払うから、かえって日本代表チームは勝てないのかもしれない。 
 日本のサッカーの中核は日本リーグである。日本リーグの人気が高まることによって日本のサッカーが盛んになるはずである。また日本リーグのレベルが上がることによって日本代表によい選手を送り込むことが出来るはずである。 
 その日本のサッカーの中核が、いつも犠牲を強いられているのでは、やがて元も子もなくなってしまうと心配である。 
 日本のサッカーを樹木にたとえれば、全国の少年や学校のチームは根であり、日本リーグは幹であり、代表チームは枝に咲いた花である。花を大きく咲かせるつもりでも、幹をいじめれば、やがて木は弱って花も咲かなくなってしまう。 
 「そうは言っても」
 と友人が反論した。 
 「オリンピック予選は、相手のあることでね。日本のつごうばかりでは試合の日取りを決められない」
  それは、その通り。 
 「これはヨーロッパみたいに水曜ゲームをやるしかないね」 
 つまりリーグのシーズン中でも、国際試合を水曜日のナイターでやるわけである。 
 そのためには、オリンピック予選はホームアンドアウェーでやるしかない。 
 土曜日、日曜日にリーグの試合をやり、水曜日にオリンピック予選のホームゲームをやる。 
 では、アウェーの試合はどうするか。 
 相手が韓国、中国、香港、マカオあたりだったら1日で行くことが出来るから、これも水曜ゲームで消化できる。 
 しかし東南アジアや中東の国の場合は、むずかしい。 
 この場合は土曜日、日曜日をつぶさなければならないが、国際大会の予選は、だいたいが近隣の国と組み合わされるから、そういう事例は少ないはずである。したがって水曜ゲームに踏切れば日程問題のかなりの部分が解決する。 
 「そういうきつい日程では、日本は勝てないだろうなあ」 
 と友人は心配した。 
 「それが甘やかしだ」とぼく。 
 幹を犠牲にして花を大事にしようとしても長い目でみれば花を枯らすことになる。 
 つぼみのうちに苦労させた方が結局は大きな花を咲せることができると、ぼくは考えるわけである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ