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サッカーマガジン 1988年3月号

昭和62年度第67回天皇杯全日本選手権レポート
与那城監督とともに
          読売ク、天皇杯連覇 (2/2)    

クラブ組織の勝利!
新しいものを取り入れようとしているチームの進出は何を示唆しているか!

  決勝戦のあと、読売クラブの選手たちは、国立競技場の中のレストランで、非公式の祝勝会をした。実はクラブの首脳部は、選手たちが非常に疲れていたこともあって、すぐに解散したかったようだが、選手たちが「ジョージさんを囲んでビールぐらいは」と希望してパーティーを開いたのだった。
 こういうところに、ジョージを中心にした読売クラブの良さがあると思う。
 祝勝パーティーは陽気でにぎやかだった。
 ラモスが中心になって座を取り持ち、今回は出番のなかった控えの選手たちや、裏方を勤めた事務局の人たちにも、スポットを当てるように気を配っていた。仲間が集まっているという雰囲気が非常にいい。
 ブラジルから来ているジノ・サニ特別コーチは、選手たちの明るい騒ぎを見ながら日本酒の盃を片手に「私にとって、これはコーチ生活でちょうど30回目のタイトルだ」とご機嫌だった。
 ジノ・サニは、ブラジルでもっとも多くのタイトルを取った指導者として有名である。その自分の指導力が日本でも役に立ってタイトルをまた一つ加えたことに、誇りを感じている口ぶりだった。
 ただし、今回の優勝は、ジノの功績はもちろん大きいけれども、与那城監督のカラーがさらに濃かったと思う。
 守備ラインはクラブ育ちの松木、都並と早大出身の加藤久が並ぶ本来の布陣だった。クラブの中で日本代表クラスの選手を育て、さらに加藤久のようなすぐれた選手を加えて、クラブに融けこませることができたのは、読売クラブの誇りである。 
 ラモス、トレドの中盤はブラジル勢。これも読売クラブの特徴だが、外国から既成のプロ選手を連れて来たのではなく、外国の若者が自由にはいってきてクラブの中で育った。そこにも与那城カラーがある。 
 戸塚が調子を取りもどして気持よく働いていたのも良かった。 
 ミルトンが負傷、人気の新人王武田が不調だったが、その後をクラブ育ちの上島がよく埋めた。若いゴールキーパーの菊池の伸びも目覚ましかった。
 「読売クラブは選手層が厚い」と新聞に書かれていたけれども、既成の選手をかき集めて厚くなったのではない。クラブの中で選手を育て、また出番のなかった選手たちをつぶさないできたところに特徴がある。 
 高校や大学のスター選手を集めて、育てるどころか、つぶしてしまうチームが少なくないことを思うと、こういうクラブの良さを、日本のサッカーはもっと取り入れて欲しいものである。 
 ところで――。 
 読売クラブは、ブラジルのサッカーを取り入れ、一方、マツダは、オランダのハンス・オフト監督を招いている。この対戦を「南米と欧州の対決」というのはオーバーだが、外国人コーチの指導を受けている両チームが決勝に出たのは偶然だろうか。 
 両チームの力が飛び抜けていたわけではなく、上位の力は互角だった。準々決勝の4試合が全部延長のすえ引き分け、PK戦だったことがそれを示している。 
 ただ、その中から、外国人コーチを受けいれているチームが、PK戦で幸運に恵まれたためとはいえ抜け出たのは示唆的である。新しいものを外部から取り入れようとする姿勢に幸運が微笑んだという感じがする。
 そういう点で、東洋工業の名前で輝かしい過去を持つマツダが、蘇ったことに敬意を表したい。とくに伝統や面子にとらわれずに新しい試みを推進している今西和男総監督の功績を評価したい。

天皇杯改革の3つの提案
日本最高のタイトルとして盛り上げるために協会の積極的な姿勢を望みたい

 大学勢は1回戦で大商大がヤンマーにPK戦で勝ったのが唯一の健闘だった。 
 日本リーグの1部勢と2部勢の間にあまり差がないのが目についたが、これは日本リーグが以前に入れ替え戦を廃止した英断が、ようやく効果を見せはじめたのかもしれない。 
 その他の点では、あまり変わり映えのしない天皇杯だった。 
 天皇杯は日本サッカー協会の最高のタイトルのはずである。したがって、その権威を守り、最高の運営をするために、サッカー協会は最大の努力を払わなければならないと思うが、どうも毎年、変わり映えしないようである。 
 ソウル・オリンピックにも出られなかったこのあたりで、どうか天皇杯の運営の思い切った改革に踏み切って欲しいと思う。そのために、すぐにやって欲しいことを三つ提案しよう(別掲)。 
 元日の国立競技場を満員にすること。 
 これはアイデアと実行力しだいである。アイデアはいくつもあるが、ここには述べないでサッカー協会自身が内部から、あるいは大衆の中から引き出すことを期待しよう。とにかく、いますぐ「元日の国立競技場を満員にする実行委員会」をスタートさせて欲しい。
 準決勝の日程繰り上げも、ぜひ検討する必要がある。現在は暮れの30日に東京と神戸で準決勝があり、1日置いて元日に東京で決勝だが、東京のチームが東京−神戸をこの日程で往復するのはかなり厳しい。元日の決勝をいい状態でやってもらうために、準決勝の日程を少し繰り上げてはどうか。また、これにともなっていま20分で行われている延長戦を30分に伸ばすことができると思う。そうすれば、今回のようなPK戦ばかりということは避けられよう。 
 そして最後に、天皇杯の権威を守るためにも、優勝チームに出すカップは天皇杯ひとつにしてもらいたい。そしてワールドカップやFAカップを見習って表彰式はすっきりと印象深くやってもらいたい。NHK杯や竹腰重丸杯は、関係者に趣旨をご了解願って、もっと相応しいことに転用してはどうか。 
 最高のタイトルに冠がいくつもあるのはおかしいし、日本国の象微から賜ったカップが不十分だとして、さらにカップを加えるのは非礼なことではないだろうか。

        天皇杯を盛り上げるための3つの提案!
1.元日の国立競技場を満員にしよう。(そのための実行組織をすぐ作れ)
2.準決勝の日程を繰り上げよう。(選手に休養を与え延長は30分に)
3.カップの権威を守ろう。(天皇抔以外の授与は取りやめる)

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