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サッカーマガジン 1987年7月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

今季リーグで目を引いた面白戦法
光る読売クの新人起用と古河の集中守備

ラモスの奇策
オフサイドトラップを破るために場外に出るのは合法か?

 今季、つまり1986〜87年の日本リーグでは、オフサイドトラップによる守りを多用したチームが目立ったように思う。それを破るために、読売クラブのラモスが面白い策を使っていたので紹介しよう。  
 ぼくが気がついたのは、4月29日に静岡の草薙球技場で行われた松下との試合である。
  後半も終わりに近く、すでに読売クラブが3対1とリードしていたときだった。  
 後方で加藤久がボールをとって前線ヘパスを送ろうとした。そのとき松下の守備ラインがいっせいに前に出て読売クラブの選手をオフサイドの位置に取り残そうとした。  
 左タッチライン寄りの前線にラモスが出ていて、オフサイドの位置に取り残されたように見えた。本当のところ、ラモスをオフサイドにかけるために松下の守備ラインは前に出たわけである。  
 ここでラモスが奇想天外なことをした。 
 加藤久が前線にボールを送る直前にタッチラインの外に出てしゃがみこんで、プレーに関係しませんという意志表示をしたのである。 
 加藤久からのパスは、ラモスとは逆の右サイドにフィールドを横切って飛び、後方から走り出たエジソンに渡った。エジソンは完全に相手の裏側に出て独走で読売クラブの4点目を決めた。
 奇想天外と書いたけれど、ひょっとすると、これは最近、ときどき使われている手で、ぼくが不勉強で知らなかっただけかもしれない。しかし、ぼくには、これはなかなか問題のある策のように思われた。 
 加藤久がボールをプレーした時点では、ラモスはすでに場外に出ていて、はっきりとプレーに加わらない態度を示している。だからラモスに対してオフサイドの笛を吹くことは出来ない。なぜなら「オフサイドの位置にいる競技者であっても、プレーや相手競技者の妨害をせず、しかもオフサイドの位置にいることを利用していないと主審が判断した場合には罰則は適用しない」と競技規則に書いてあるからである。 
 ラモスが主審の承認を受けることなく勝手に競技進行中に場外に出たのは「警告」にあたる違反だ――とするのはちょっと無理である。というのは、ラインの外に出てしゃがみ込むのは、ずっと以前から認められていることだからである。サイドから攻め込んでセンタリングしたあと、オフサイドにならないようにゴールラインの外に出て、プレーに関係しない意志を示す場面はときどきある。ゴールラインの外なら良くて、タッチラインの外は良くないとは言えないように思う。  
 とはいえ、ラモスの奇策が合法的だとすると、オフサイドトラップをかけるのは、かなりむずかしいことになる。少なくとも、ラインの近くにいる攻撃側のプレーヤーを取り残そうとして守備ラインが前に出るのは、はなはだ危険である。   
 ルールと審判についての今後の研究課題だと思うがどうだろうか。

集中守備とオフサイド
1974年のオランダの戦法を今季の古河はうまく使った

 ラモスの奇策が偶然でないことは5月7日に東京の国立競技場で行われた対古河の試合でラモスが同じことを試みたので分かった。
 このときは、後方から走り出た別の選手がオフサイドを取られたのでラモスの奇策は実らなかった。   
 この読売クラブ対古河の試合は、今季の優勝争いの大きなヤマ場で結果は1対1の引き分けだったが、実に内容のある好試合だったと思う。  
 戦力としては互角だが、試合運びは古河の方が優っていた。 
 前半、古河はしっかりと守りながらも力を抑えていた。そして後半に勝負に出た。そのやり方は集中守備とオフサイドトラップの組み合わせである。 
 読売クラブの選手がボールをキープしているところに、古河の選手が2人がかりで向かっていく。 
 読売クラブの選手は、2人がかりでこられても簡単にはボールを取られない。しかし後半は疲れで、すばやさが鈍ってきているから、2人を一気に抜き去るのはむずかしい。 
 味方が古河の2人に囲まれてボールをキープしながら苦戦しているのをみて、読売クラブの別の選手が助けに近づいていく。このサポートに来た選手に短いパスを渡して逃れようとするところを、古河の3人目の守備者が狙っていて横取りする。 
 こういうふうに、ボールをキープしている相手に2人がかり、3人がかりで向かっていくのが集中守備である。数匹の猟犬が獲物を囲い込んで追い詰めるような形になる。
 囲まれた方は苦しいから、味方が助けに近付いてくると、そこへ短いパスを渡して逃れたくなる。そこが狙い目である。 
 この守り方にも、もちろん弱点はある。一つの地域に人数を集めて守るわけだから他の地域は手薄になっている。そこへ長いパスを出されると、たちまちピンチになるのが弱点である。 
 このピンチを逃れる方法がオフサイドトラップだ。つまり守備ラインを浅くして、その裏側に長いパスが出たときにはオフサイドにするわけである。 
 この守り方では、浅い守備ラインとゴールの間に空いたスペースが広くできる。そこヘボールが出て、しかもオフサイドにならなかったときはどうするか。 
 その場合には、ゴールキーパーが思い切って飛び出して守る。だからこの集中守備とオフサイドトラップの組み合わせによる守りには、守備範囲の広い、出足の早いゴールキーパーが必要である。 
 多くの読者はご存じだろうが、この戦法は1974年のワールドカップのとき、オランダが使って評判になったものだ。 
 古河はその翌年のシーズンからすでにこれを試みていたように記憶しているが、今季はとくにうまく使っていた。オランダ人のハンス・オフトの指導するマツダも、この戦法が、お家芸である。
 ミニスカートみたいに流行が復活したのかもしれない。 

武田修宏の奇跡
才能を思い切って生かさなければ、幸運も舞い込まない!

 今季の日本リーグの大きなヤマ場だった読売クラブ対古河の試合は、前半は読売クラブがやや優勢だったが、後半に勝負を賭けた古河の作戦が成功して試合内容は古河の方が優っていた。 
 後半なかばの古河の先取点は、読売クラブのディフェンダーのハンドリングによるペナルティーキックだったから、得点そのものは古河にとって幸運だったどいえるけれども、後半の試合の形勢は古河のもので、1対0のスコアは試合の内容を示すものだった、と言ってもいい。 
 その試合を読売クラブが同点に持ち込んだのは試合終了寸前である。 
 読売クラブは、ゴールキーパーの菊池のほかはトレドだけを後方に残し、残り全員が前に出て最後の総攻撃をかけた。逆襲されて2対0にされて負けても仕方がない、うまくいけば同点に、という捨て身の反撃である。 
 最後のコーナーキックとなったとき、すでに時計はロスタイムにはいっていた。 
 戸塚のキックが高く飛ぶ。全員攻撃、全員守備で敵味方入り乱れて大混雑のゴール前で、ボールはジャンプした加藤久のヘッドに当たり、武田修宏の前に来た。ボレーシュートが突き刺さるようにゴールへ。読売クラブにとっては、実に貴重な引き分けだった。 
 サッカーは実に面白いと思う。 
 あれだけゴール前に敵味方が入り乱れている中で、やっぱりボールは武田の前に落ちたのである。 
 与那城監督の率いる今季の読売クラブが優勝を望むのは無理だ、とぼくは思っていた。与那城自身が選手の中から抜け、新人が完全な戦力になるのは、まだ無理だろう、と考えたからである。 
 ところが、武田、湯田、菊池の新人を思い切ってレギュラーに使い続けたのが成功し、優勝争いに加わる原動力となった。とくに武田の活躍は驚異だった。大事な場面で、その武田のところにちゃんとボールが来るのが、本当に面白い。 
 新人であろうが、旧人であろうが才能は惜しみなく生かして使わなければならない、そうでないと幸運も舞い込まない、というのが今季のぼくの感想である。 
 上位に出たチームは、結局のところ、その点で成功したのではないだろうか。 
 古河がシーズン当初のつまずきにもかかわらず、後半戦に快進撃を続けて優勝争いを盛り上げたのは、奥寺を生かせるようになったからである。体力的にピークを過ぎているとはいえ、奥寺康彦はいま日本のサッカーでもっとも優れた選手である。 
 日本鋼管の活躍も、浅岡、及川、藤代という特徴のある選手を生かしたサッカーをしたからである。 
 これに比べて、リーグでたくさん得点をあげた日産の攻撃力を、日本代表チームの中に生かせないのは奇妙である。アシストの新記録を作った水沼貴史を日本代表チームからはずしたのは、やはり間違いだったのではないだろうか。


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