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サッカーマガジン 1986年2月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

「ノンアマチュア規定」のあり方
いまや時代の流れにそぐわない分類だ

ノンアマってなあに
「契約選手」をノンアマに分類するには無理がある!

 トヨタカップの事前取材で、11月にイタリアのトリノとアルゼンチンのブエノスアイレスをまわってきた。オリンピックなんかと違って気楽な一人旅だし、サッカーだけ取材すればいいのだから楽しいね。久しぶりに、のんびりと地球を一周してきた。
 さて、本場の活気にあふれる試合とスポーツクラブの運営ぶりに接して「やっぱり、プロがなくては日本のサッカーは伸びないな」と改めて感じて、日本に帰って来て驚いた。新聞を広げてみると「日本サッカー協会がノンアマチュアの登録を認めることを検討」という記事が、大見出しで踊っている。
 誤解のないように、まず最初に申し上げると、この日本サッカー協会の方針に、ぼくは反対するつもりはまったくない。
 世界各国と同じような方向に、半歩でも進めようという協会首脳部の苦心のほどが察せられて、胸が痛くなるほどである。
 しかし一方で、本場の事情を目のあたりにして帰ったばかりだったから「いまごろ何を」と、日本サッカーの進歩の遅さに、驚いたわけである。
 まず「ノンアマチュア」という言葉である。
 新聞を読んだだけでは「ノンアマチュアって何だろう」と思った人もたくさんいたに違いない。
 新聞に出ている日本リーグ関係者の話を見ると、リーグ当局は、この「ノンアマチュア」のカテゴリーをいわゆる「契約選手」にあてはめたらしい。
 いま日本リーグのトップクラスの会社チームには、ふつうの社員(被雇用者)でない選手がいる。一定期間、サッカー・チームのために働く契約をして、通常の社員がもらう給料よりも、かなり多い報酬をもらっている。
 これはもう公然の秘密になっている。これが、いわゆる「契約選手」である。
 さて、この「契約選手」を「ノンアマチュア」として分類するつもりだとすると、これは相当の無理がある。
 かりに、この選手がサッカーをするためだけに契約していて、その他の点では、たとえば従業員規則のようなものに、しばられないのだとすると、これは「プロ」だと、はっきりさせた方がいい。つまり「請負契約」をしているのであれば、プロである。
 しかし、現在の日本のサッカーの契約選手が「請負契約」をしていると認められるかどうかは、法律の専門家からみると、かなり問題があるようだ。
 契約の内容が他の従業員と違うにしても、やはり「雇用契約」だろうという。
 そういう法律的なことは、専門家にお任せするにしても、現在、日本リーグで活躍している選手たちを、アマチュアとノンアマチュアに分類しなければならない理由は考えにくい。
 雇用契約の内容、あるいは形態が違うにしても、これは、その個人と会社の問題、あるいは会社内の問題であって、サッカーの競技会に出る資格とは、あまり関係がないからである。

FIFAの分類
ノンアマチュアは、国際的にはもう死語になっている

 「それじゃ、ノンアマチュアってなんなんだ」
 と友人が聞く。
 読売サッカークラブのルディ・グーテンドルフ監督は、こう答えた。
 「ヨーロッパじゃ、そんな言葉はもう死んでるよ。日本みたいに、言葉のごまかしをやろうとする国のためにある分類じゃないのか」
 実は、この「ノンアマチュア」という言葉は、国際サッカー連盟(FIFA)のアマチュア規則の中にある。
 しかし、この言葉は、グーテンドルフのいうように、まったく意味のないものになっている。それどころか、FIFAのアマチュア規則自体が、もう無意味になりつつある。なぜなら、もともとFIFAのアマチュア規則は、主としてオリンピックに参加する選手のために作られたものであり、オリンピック自体が、もうプロの参加を認めようということになって来ているからだ。
 とはいえ、FIFAの規則から、まず説明しよう。
 FIFAのアマチュア規則では、フットボーラー(サッカー選手)を「アマチュア」と「プロフェッショナル」に分けて登録することになっている。
 プロフェッショナルは、サッカーによって報酬を得る選手であって、パートタイムであろうとフルタイムであろうと、サッカーでお金をもらえばプロである。
 アマチュアは、所定の経費以外には、サッカーによってお金をもらうことのない選手である。所定の経費については、こまかい規則があるけれども、これも事実上、無意味になっている。先に述べたように、この規則は主としてオリンピックとの関係を念頭に置いたものであり、オリンピックの方の規則が、すでに変わってしまったからである。
 それでは「ノンアマチュア」とは何なのか。
 これは厳密にいえば、FIFAのカテゴリーではない。FIFAでは「プロ」と「アマチュア」を分類するだけである。
 ただ、この規則が出来た時点で、各国のサッカー協会の「プロ」あるいは「アマチュア」の定義に食い違いがあったので、その国の規則でプロと定義していないが、アマチュア(オリンピックなどに出場できるもの)に当てはまらない選手を「ノンアマチュア」として登録させることにしたものである。従ってFIFAでは「ノンアマチュア」は「プロフェッショナル」と同じに扱われる。
 さらに付け加えれば、こういう選手の分類(資格の定義)は、もともと、競技会に参加する資格を定めるためのものである。
 つまり、オリンピックのようなアマチュアだけの競技会に参加する者の範囲を決めるために、アマチュア規則があり、アマチュアの定義があるわけである。しかし、そのオリンピックでも、もはやアマチュアの定義は、無用の長物になりつつある。
 以上の説明で、日本のいわゆる契約選手を「ノンアマチュア」に分類しても意味のないことが、お分かりいただけるだろうか。
 今月は、どうも固苦しい話で申し訳ないが、日本のサッカーの将来のために、ここは重要な分かれ目だと思うので、お許しいただきたい。

サッカー協会の苦心
体協の古い規則と大企業のプロアレルギーに挟まれて

 さて、話はますます、くどくなるのだが「それでは日本サッカー協会は、どういう規則を作ればいいか」について、ぼくの考えを述べよう。
  @日本サッカー協会は(FIFAと同じに)選手の登録資格を「プロフェッショナル」「ノンアマチュア」「アマチュア」の三つに分類する。
  A「プロフェッショナル」の登録は、日本体育協会の新しい規則が発効するまで、受付けを停止する。
  B「ノンアマチュア」の登録は(FIFA憲章の趣旨に従って)外国でプロとして登録されていた選手を日本で登録する場合に受け付ける。
  とりあえず以上のようにしてはどうか――とぼくは思う。
 「なんだ。新聞に載っていた日本サッカー協会の考えとたいして違わないじゃないか、なまぬるいぞ」と思う人がいるに違いない。
 その通り。確かになまぬるいのだが、そこはそれ、いちばん最初に書いたように、日本サッカー協会の苦心のほどを察しているわけである。
 聞くところによると、日本サッカー協会の苦労のタネは二つある。
 一つは、日本体育協会の現在のアマチュア規則では、加盟団体の登録選手が「アマチュア」に限られていることである。日本サッカー協会は体協の加盟団体であるから、この規則に従わなければならない。
 しかし、この体協の規則は、いま全面的に書き換える作業を進められていて、1986年夏には、新しいものになるはずである。新しい規則では、それぞれのスポーツ(競技)の国際連盟(サッカーの場合はFIFA)の規則が、最大限に尊重されることになっている。
 従って、日本サッカー協会の規則は、本来のあり方であるFIFAの規則によるものとし、体協の新しい規則が発効するまでは、いちじるしく食い違う部分は、とりあえず効力停止にして、つじつまを合わせようというわけである。
 日本サッカー協会のもう一つの苦労のタネは、有力チームを抱えている大会社の「プロアレルギー」だそうだ。協会のある首脳役員によるとこっちの方が大きな問題だという。
 ノンアマチュアの記事が新聞に出たとき、ある大企業の首脳部が「おい、サッカーの日本リーグはプロになるのか」と心配したという話を聞いた。
 ご心配なく。
 いまのところ、リーグ全体をプロ野球みたいにしようという案が出ているわけではない。
 またノンアマチュアやプロの登録制度を設けても、プロ選手の登録を全チームに強制するわけではない。どういう登録をするかは、それぞれの自由である。
 ただ、FIFAのモットーは「いつでも、どこでも、誰とでも」サッカーができるようにすることである。
 だから、外国でプロであった選手でも、日本に来れば、すぐ日本でプレーできるようにしてやりたい。
 そのときに「プロ」の登録がまだできないのであれば「ノンアマチュア」のカテゴリーを活用したらどうか、と思うわけである。


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