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サッカーマガジン 1985年12月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

日本リーグは今すごく面白い!
観客動員の増加は自主運営の成果だ

観客はなぜ増えたか
日本代表が強くなったからではない。自主運営の効果だ!

 「日本リーグの観客が増えてるそうじゃないか」
 と友人がいう。
 「確かにその通り」
 9月8日、今季の国立競技場での開幕試合、読売クラブ対全日空横浜クラブの試合は2万8000人という発表だった。スタンドに一握りの豆をばらまいたようだったひところの入りからみれば、見違えるばかりだ。
 そこで友人が知ったかぶりをしていう。
 「やっぱり日本代表チームが強いと人気がでるんだな」
 「なんだ、お前は」と、ぼくがたしなめた。「それは新聞にのってた話の受け売りじゃないか」
 ある新聞に、サッカーの観客の増えた理由がいろいろある中で「ワールドカップ予選で日本が勝ち進んだのがいちばん大きい」という話が載っていた。それが日本リーグの事務局の人の話だと書いてあったので、ぼくはあきれてしまったが、友人はこの記事を信じこんだらしい。
 「あれは見当違いもはなはだしいぜ」とぼくは説明した。
 そりゃ、日本代表チームが勝てばファンの気持は高ぶるだろうが、それがリーグの観客増加にすぐ結び付くなんて考えるのは単純過ぎる。
 そんな単純なものであれば、1968年のメキシコ・オリンピックで日本が銅メダルをとったあと日本リーグは大盛況になったはずだが、事実は日本リーグ創設当初に「サッカーブーム」といわれていたのが、メキシコの銅メダル後は下降線をたどったのだった。これは記録を調べでもらえば分かることだ。
 「ふーむ、それじゃあ、いまお客さんが増えてるのは、どういうわけだ」と友人。
 それはほかでもない。かねて十数年来ぼくの主張してきた「自主運営」が、ようやく軌道に乗りはじめたからである。
 一つひとつの試合はホームチームが責任を持って運営し、入場料などの収入も管理する。これは外国では、サッカーに限らずスポーツの常識だが、日本サッカーリーグは、数年前からこの自主運営を取り入れはじめだ。それが、いくつかのチームにやる気を起こさせ、観客動員のための工夫と努力がはじまった。新聞に社告や広告を出しているチームもあるし、少年サッカーチー厶をバスで招待しているチームもある。観客へのサービスも、それぞれのチームが独自の工夫をしている。
 「そういう努力がやっと実りはじめたんだよ。それをリーグの事務局が、第一番に認めないのはどうかしてるよ」とぼくは毒づいた。
 日本サッカーリーグの自主運営はまだ不完全なものだし、観客動員の成果をあげているチームも限られている。いまのやり方を、もっともっと徹底させていかなければならないと思う。
 しかし「代表チームが勝ってくれたおかけでお客さんがきた」と考えている人がリーグを運営しているようでは、いささか心細い。

試合内容の向上ぶり
2万3000人をエキサイトさせた体育の日の名古屋の2試合

 いくら自主運営で観客動員に工夫をこらしても、試合が面白くなければ、長続きするはずはない。お金を払って見にきたお客はもちろん、招待券をもらってきたお客だって、その次からはもうスタンドに足を運ばないに決まっている。
 では日本リーグの試合はどうかというに、これがなかなか面白い。
 10月10日に名古屋の瑞穂競技場で古河−日産と本田−読売クラブの試合があった。この2試合は、名古屋市のナゴヤ・スポーツデーの行事の一環として行われ、スタンドは2万3000人で埋まっていた。この種のお客は、試合が面白くなければ2度とサッカーを見には来ないだろう。
 しかし、ご心配なく。試合は実にエキサイティングだった。
 第1試合、前半32分に、日産の木村和司がみごとなシュートを決める。ゴール正面からドリブルで突っこんでシュート。ゴールキーパーが果敢に前へ出てはじいたが、ボールが左へこぼれると、木村はツバメ返しに身をひるがえしてボールに追いつき、左から食い込んで、ゴールキーパーとゴールポストの間を抜いて、カーブをかけたシュートを決めた。和司のわざとスピードが、一瞬の連続プレーに集約されたゴールだった。このプレーを見ただけでも、スタンドに足を運んだ価値はあった。
 古河がその1分後に同点、後半にも終了間ぎわの1分間に点の入れあいがあり、そのどれもが、みごとなゴールだった。
 第2試合は、さらに内容が濃かった。本田は、メキシコ銅メダルの宮本征勝監督(元古河)が就任して3年目。すばらしいチームになっている。よく動くチームだが、ただ労働量が多いだけでなく、動きの質がいい。中盤から前線へ、入れかわり立ちかわり、スピードにのって飛びだしてくる選手にメシアスからいいパスが出る。メシアスを抑えれば防げそうだが、まわりにいる他のプレーヤーが、よく動いてサポー卜するので、なかなか抑えきれない。立ちあがりは、その本田の赤いスポーツカーの動きがフィールドを圧して、読売クラブはたちまち2点を先行された。
 このまま終われば、読売クラブのふがいなさが試合をスポイルするところだったが、読売クラブも前半36分にパターソンが1点を返してから立ち直り、前半終了間ぎわに上島のゴールで同点にした。
 この試合は、得点シーンもさることながら、互いに無得点だった後半の激しい攻め合いが見応えのあるものだった。これから長く続きそうな混戦の首位争いを考えれば、最後はもう引き分けでいいと考えてもおかしくない状況だったのだが、チームとも、最後の最後まで攻撃に力を尽くした。難をいえば主審の出来が悪かったために試合が荒れぎみだったことだが、スタンドのお客さんは、十分、満足して帰っただろうと思う。
 「日本のサッカーは面白くない」という決まり文句は、こういう試合についてはもう通用しない。

名門日立がんばれ
なかなか勝てないでいるが、長岡新監督の狙いは面白い!

 日本リーグの第7節までに日立の試合をたまたま4試合も見た。ご承知のように、実業団チームきっての名門もここのところ、成績は振るわない。
 しかし今季の日立の試合ぶりは悪くない。一つひとつの試合でやろうとしていることが、見ている者にぴんとくる。だから続けて見ていると、ベンチの考えていることをスタンドで推測できたりして面白い。
 「長岡義一新監督はいろいろ考えているようだな」と今後が楽しみである。
 9月12日に西が丘サッカー場のナイターで行われた日産との試合は須藤、菅又のベテラン2人を守備ラインで余らせて日産の柱谷をマークし、前線には宇都宮農高出身で若手の荒川を立てて逆襲を狙うという守り重点の策だった。守りばかりでは見ていてつまらないようだが、上位チームの日産をなんとか封じこめようというアイデアがよく分かるから面白い。結果は0−0の引き分けで日立としてはまずまずだった。
 9月14日に国立競技場で行われた読売クラブとの試合も同じような狙いだったが、読売クラブに先行されたので守ってばかりはいられなくなり、反撃に出て2度リードされたのに2度追いついた。最後にコーナーキックからラモスに決勝点をとられたが、いいところまでいった。
 10月9日に西が丘のナイターで見た三菱との試合は、前半なんどかチャンスがありながらゴールキーパーにとっては見え見えの芸のないシュートを繰り返して、全体としては三菱のペースだった。
 後半、いらいらした日立の応援席から「碓井を出せ」と大声でヤジが飛んだ。
 かつての得点王、かつての日本代表のストライカーの碓井博行君は前にみた2試合では中盤をやっていだが、この日はベンチだった。ぼくは「これは持ちこたえられたら、最後に碓井で勝負かな」と見ていた。スタンドからヤジを飛ばした人も同じ考えだったのだろう。
 後半、三菱が1点あげてから碓井が出た。そしてなんと、試合終了間ぎわに、その碓井が同点ゴールをあげたのだった。予想通りになったのでぼくは大いに満足した。ヤジを飛ばした人は逆転を期待していただろうが、半分くらいは満足したに違いない。
 碓井君ももう32歳である。だからスタミナを考えてフル出場はさせないのだろうが、フィールドに出ている限り、日立の選手の中でいちばん頼りになりそうである。だれにも遠慮するところがないので、大きなフェイントをのびのびと使い、思い通りにプレーしている。「若いころに、こんなふうに、のびのびとやらせてやりたかったなあ」と思うくらいである。
 プログラムを見ると、日立には高校サッカーで評判だった選手が何人もいる。こういう選手を「もっともっと上手に使いこなせればなぁ」と思う。長岡新監督がんばれ、といいたい。


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