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サッカーマガジン 1985年6月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

日本の水たまりが勝利を呼ぶ
キリンカップの出場問題に不手際

日本の雨が味方した
日本のゴールは幸運だったが、地元有利は当然なのだ

 目を覚ましたら窓の外でぴちゃぴちゃと雨の音がした。3月21日、ワールドカップ予選の日本対朝鮮民主主義人民共和国の試合の日だ。
 国立競技場に行くために、千駄ヶ谷の駅で降りたら、友人とばったり出会った。         
 傘をさして歩きながら話をする。
 「この雨で、どちらが有利になるかね」
 とぼくがきく。
 「そりゃ。向こうだろう。朝鮮のサッカーは足腰が強くて、伝統的に雨の泥んこ試合には強いよ」
 と友人。
 「そうかな。ぼくは日本が有利だと思う。これは日本の雨だからな」
 ぼくの考えは、こうだった。
 雨で「嫌だな」と思うのは、どちらも同じである。しかし「嫌だな」と思う度合いは、地元のチームよりも、遠征して来たチームの方が強いはずである。
 その上、朝鮮の方には二つのプレッシャーがある。
 一つは、シンガポールと引き分けているため「この敵地での試合にぜひ勝たなければならない」というプレッシャーである。雨で「嫌だな」という気持を押し包んで戦おうとすれば、このプレッシャーが、ますます重く感じられるに違いない。
 もう一つのプレッシャーは、在日朝鮮人の熱烈な応援である。まことに情ないことに、この日の国立競技場は、在日朝鮮人の応援の方が、日の丸の応援を圧倒していた。快適なコンディションであれば、熱狂的な応援が闘志をかき立ててくれるはずだろうが、雨になると、雨の中をスタンドを埋めてくれた在外同胞のために負けられない、という気持がかえって朝鮮のチームの負担になるのではないか、とぼくは想像した。
 結果は、ご存知の通りである。
 国立競技場のフィールドは、至るところ水たまりで、これが日本のスポーツの迎賓館かと思うと、これまた情ない気持だった。そんな悪条件の中でも、中盤は朝鮮の方が優勢だった。技術的に朝鮮の選手の方が上だったと思う。しかし、それを水たまりが、かなり減殺してくれた。
 日本の勝因は、守りの集中力が最後まで続いたことである。
 守りの集中力が最後まで続いた原因はいろいろある。地元の日本選手の方が体力的にも、心理的にも、コンディションが良かったこと、中盤にディフェンシブなプレーヤーを2人置いた作戦が当たったこと、それに、なによりもチームが一つにまとまっていて「森ファミリー」のムードが良かったこと、である。
 とはいえ、日本の決勝点は、実に幸運だった。前半の20分、相手のけったボールをとった西村がゴール前へ通したボールは、水たまりのおかげで、相手のゴールキーパーとディフェンダーの中間で止まり、走り込んだ原に、おあつらえむきのパスになった。
 「当然だよ」
 とぼくは言った。
 「あれは、日本の水たまりだからな」

キリンカップの怪
日本代表と天皇杯優勝チームが一緒に出場する矛盾!

 「天皇杯に優勝して、われわれは、ジャパンカップに出場する権利を得た。次の目標は、世界のプロの一流チームにひけをとらないチームになることだ」
 元日の天皇杯決勝戦に勝ったあとのインタビューで、読売クラブのルディ・グーテンドルフ監督は、こんな意味の話をした。テレビで全国に中継されたから、お聞きになった方も多いに違いない。いわば「ジャパンカップ出場宣言」である。
 天皇杯優勝チームが5〜6月のジャパンカップに出ることは、3年前から決まっているから、グーテンドルフ監督でなくても、読売クラブのジャパンカップ出場は、当然だと思ったに違いない。それはそれで、どうということもなかった。
 しかし、ぼくは「大丈夫かな」とちょっと心配をした。
 というのは、ジャパンカップには日本代表チームも出場することになっている。その時点で、読売クラブのレギュラーが日本代表に含まれている。これはちょっと厄介な問題である。前年は、天皇杯優勝の日産が、ジャパンカップ出場を辞退することによって、つじつまを合わせたが、グーテンドルフ監督が、全国に出場宣言をしてしまったから、今度は、そうはいかなくなるだろうと、心配したわけである。
 しかし、天皇杯優勝チームの中に日本代表選手が含まれている場合は(その可能性は大きいわけだが)その選手は、所属クラブ(天皇杯優勝チーム)の方から出ることが、これも3年前から決まっている。そうでないと、単独クラブの方は、チームの体をなさなくなるおそれがあるからである。
 この件について、当事者の読売サッカークラブに対しては、何の通知もなかったということだ。協会としては3年前の方針通りやるので、改めて通知する必要はない、と考えていたのかもしれない。
 さて、そのまま時間がたって、4月1日に、日本サッカー協会の発表があった。従来のジャパンカップは名称をキリンカップに変えることになった。発表のときに、日本サッカー協会から配られた資料には、読売クラブに所属する日本代表選手(3人)は、読売サッカークラブから出場すると書いてあった。
 ところがである。
 発表が終わったあと、その席で、日本代表チームの森孝慈監督が記者たちの質問に答えて「読売クラブの3人が抜けたら、日本代表チームはとてもやれない」と話したのだそうである。
 これは森チンらしからぬ思慮の浅い発言だ。
 日本代表チームが、どういう構成でキリンカップに臨むかは、発表以前に、協会と森監督の間で調整しておかなければならない協会内部の問題である。それだのに発表のあとで外部に不満を公言するのは、立場をわきまえないもの、というほかはない。
 もう一つ驚いたことに、昨年までは1次リーグを2組に分けてやっていたのに、ことしは1リーグの総当たりになった。
 ということは、フルメンバーでない日本代表と読売クラブが、必ず対戦するということだ。これがいいことだとは、ぼくは思わない。
 ともあれ、以上のようなキリンカップの奇々怪々は、日本サッカー協会の大きなミスだったと思う。
 読売クラブに対しても、日本代表の森監督に対しても、事前にしっかり話をしていないで、自分たちの都合だけで、大会のやり方を決めて発表したとしか思えないからである。

ジャパンカップの怪
来年からジュニア代表強化の大会にするというのだが

 ジャパンカップをキリンカップに改称するについて、日本サッカー協会の長沼健専務理事は、こんな説明をした.
 「オリンピックが、23歳以下のチームの大会になるので、キリンカップは従来通り、ナショナルチーム強化の場として、ワールドカップをめざす代表チームを出場させ、ジャパンカップは、オリンピックをめざす23歳以下の代表チームのための大会として来年から再スタートさせたい」  
 つまり、ジャパンカップをなくすわけじゃない、二つに分けるんだというわけだが、どうもこれは、たまたまオリンピックが23歳以下になったのを口実に使った感じだ。
 日本サッカー協会の機関誌第35号に載っている協会の58年度決算と59年度予算を見ると、協会のお家の事情が、なんとなく分かるような気がする。
 58年度のジャパンカップ・キリンワールドサッカーの決算では、協賛金、つまりスポンサーからもらったお金が6272万円となっている。大会全体としては収支は約2500万円の赤字である.
 次の年度、つまり昨年の予算をみると、ジャパンカップの項目は収入1億9000万円。支出2億1000万円で、予算の段階から、2000万円の赤字を予定している。これは、ぼくのようなシロートには理解しかねる経営感覚である。
 そこでシロートなりに推理すると、2000万円の赤字を毎年続けるわけにはいかないから、スポンサーに、それ以上の協賛金を出してもらうよう画策したんじゃないか、そのために大会の名称を変えて、いわゆる冠大会にする必要があったんじゃないかと思う。
 これは、別に悪いことではなくて立派なビジネスであり、スポーツのために、より多くお金を出してもらえるのに遠慮する必要はない。したがって名称を変えるのに、もってまわった言い訳は必要ないと思う。
 ところで、事情がそういうことであれば、来年から新たに23歳以下のジャパンカップをはじめるのは財政的に難しいかもしれない。日本代表の1軍が出る大会も赤字だのに、ジュニアの大会が黒字になるとは思えないからである。
 とすると、来年のキリンカップには、日本代表と日本ジュニア代表が出て、天皇杯優勝チームの出場はなくなるのではないか。ただし、これをジャパンカップと呼べるかどうかはスポンサーの意向しだいだろう。
 以上は、ぼくの推理である。
 ただし、このような大会が日本代表チームの強化のために有益かどうかについては、ぼくは別の考えを持っている。


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