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サッカーマガジン 1985年1月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

なぜ、プロができないのか
日本協会は、体協に働きかけているのか

プロはなぜできないか
日本サッカー協会が、体協への働きかけをしていない

 このところ、よくサッカーの会合に招かれて、講演めいたことを、やらされる。そういう会合で必ず出る質問の一つは、
 「日本になぜ、プロサッカーを作らないんですか」
 というものである。
 質問するのは、無邪気な小学生や熱烈なサッカーファンはなくて、少年サッカーの指導者や学校の先生である。
 ぼくが読売新聞社でスポーツ記者として働いているものだから、 「プロ野球を作った読売新聞が、なぜプロサッカーをやらないんだ」
 と、プロ化は読売新聞の責任であり、ひいては、ぼくが悪いように追求されたりする。
 「小学校の男の子の5割はプロ野球選手にあこがれているが、2割はプロサッカー選手になりたい、と答えるようになっている。この子供たちの夢を作ってやらないのは、けしからん」
 と、数字をあげて社会問題、教育問題として、取り上げる先生もなかにいる。
 日本のサッカーにプロフェッショナリズムの導入が遅れているのは、なにも、ぼくの責任ではないが、追求されれば答えなければならない。
 「えー、読売新聞では、プロサッカーの実現をめざしていますけれども、これは一新聞社だけでできることではありませんので……」
 「しかし50年前にはプロ野球を作ったじゃないか」
 たしかに、読売新聞社の故正力松太郎社主が日本にプロ野球を創設して50年。いまや野球は日本の国技みたいなもんである。
 だが、野球とサッカーでは事情が違う。
 野球の場合は、アマチュア野球とは別にプロの組織を作って、これまたアマとは別の組織であるアメリカの大リーグと連係した。
 しかしサッカーの場合は、国際的にプロとアマは一つの組織でやらなければならないことになっていて、日本サッカー協会を離れてプロ組織を作っても、外国のチームと交流できない。
 世界のスポーツであるサッカーで、国際交流ができなければどうしようもない。
 「そういうわけで、これは日本サッカー協会がプロの登録を認めるようにしなければ、なかなか前へ進まないのです」
 「ほほう。じゃ日本サッカー協会はなぜ、プロの登録を認めないんですか」
 「日本サッカー協会は、日本体育協会に加盟しているんです。そして日本体育協会のアマチュア規定では体協加盟競技団体は、プロ選手を登録できないようになっているからです」
 こういうふうにして責任は、日本サッカー協会から、日本体育協会へとたらい回しにされた。
 ところがである。あるとき、その会合にサッカー関係者ではない体協のお偉方が出席していた。
 「牛木君はそういうけど、サッカー協会が、プロ登録を認めるよう規定の改正を提案してきたことなんぞ1度もないぞ。テニスでは便法を用いてプロも統轄できるようにしたんだから、サッカーも協会が積極的に働きかけてくれば、ちゃんとやってやるよ」
 プロ化を妨害している張本人は、日本サッカー協会なんだろうか?

ある町の大きな間違い
スポ少に登録したら少年サッカー大会に出られない?

 奇妙な話を聞いたので、ここに紹介して読者の皆さんのご意見を、うかがいたい。
 東京の近県のある市で、ある少年サッカーチームが、市体育協会のスポーツ少年団に登録したところ、市のサッカー協会の方から「サッカーチームとしての登録を認めない」といわれ、結局、少年サッカーの大会から締め出された――という話である。
 これは、まことに、おかしな話である。
 サッカー協会に登録しないと、サッカーの公式戦には出られない。だから、全日本少年サッカー大会の県大会にも出られない。つまり、この町のチームは、体協のスポーツ少年団に登録したために、全日本少年サッカー大会に出場できなくなったわけである。
 ところが、全日本少年サッカー大会は、日本サッカー協会とともに、体協の日本スポーツ少年団も主催者に加わっている。そして日本サッカー協会は、参加チームが「スポーツ少年団」にも登録するよう勧めている。
 ところが、東京近県のその町では「スポーツ少年団」に登録すると、逆に少年サッカー大会に出られないという矛盾したことになる。
 なぜ、こんなことになったかというと、これは、その市のサッカー協会の実力者が、次のような考えを持っているからだという。
 「サッカー協会でサッカーをやらせるのは、優秀な選手を育て、強いチームを作るためである。一方、スポーツ少年団は、みんなで仲良くスポーツを楽しむためのものだ。目的が違うのだから、いっしょにやらせることはできない」
 ぼくは、この実力者の考えには、間違っているところが、いくつもあると思う。
 @サッカー協会の目的は、優秀な選手を育て、強いチームを作ることだけではない。
 Aサッカーをする人たちを、すべて仲間にするのは、サッカー協会の義務である。
 Bみんなで仲良くスポーツをすることは、サッカー協会の目的に反するどころか、重要な目的の一つである。
 Cサッカー協会は、公共的な組織だから、1人の人物の偏った信念をみんなに押しつけるような運営をしてはいけない。
 Dサッカーチームには、それぞれ自分たちの考え方があり、運営の仕方がある。各チームの自主性をできるだけ広く認めてやるのが望ましい。
 E優秀な選手を育て、強いチームを作るためにも、底辺を広げ、いろいろなやり方のチームを競わせることが必要である。
 まだ、ほかにも、いろいろあるだろうが、こまかく説明していたら、きりがない。
 この話は、あるサッカーの会合で聞いたもので、一方的な訴えだったかもしれないが、本当だとしたら困ったものである。
 県のサッカー協会、あるいは日本サッカー協会が、適切な指導をしないのだろうか?

読売クと古河のトラブル
けんか両成敗は当然。規律部会で処理したのは進歩だ

 日本リーグの読売クラブ−古河電工の試合の最後に起きたトラブルは優勝の行方を左右しかねない大騒ぎとなった。
 このような、サッカーの評判にとってビバでない話は、この「ビバ!サッカー!」では、あまり取り上げたくないのだが、例によって友人どもがやってきて、いろいろ、もっともなことを言う。
 「日本リーグの処分は過酷じゃないか。読売クラブを優勝させたくないという陰謀じゃないのか」
 「そうだ、そうだ。ラモスが悪者にされているが、あの純情な熱血漢をしつこく挑発したヤツがいる。そいつが、いちばん悪質なんだ」
 「それだのに、ある新聞には、けんか両成敗で古河の選手も出場停止にしたのは、けしからんなんて書いてあったぞ。何があったのか、よく知らないで書いてんじゃないか」
 「だいたい、マスコミの扱い方は一方的だ。これから両方から事情をきこう、というときに“暴力事件”について処分する、なんていっている」
 「はじめから一方だけが悪いと偏見を持って記事を書いているから、自分の書いた記事と違って、両方が処分されたんで、けしからんときめつけるんだろう」
 「その方が、よっぽど、けしからん」
 まあ、まあ、そう興奮するな、とぼくが割ってはいる。
 マスコミがけしからんといっても全部じゃない。一部の青くさい記者が書いたものじゃないのか。
 サッカー記者の古ギツネであるぼくなんぞは、調べに出ていかなくたって、すべて、お見通しである。座っていても、たいていのことはわかる。名探偵シャーロック・ホームズみたいなもんだね。
 だが、真相はこうだ、などとここでほじくり返すつもりはない。そんなことは、ビバでない話をますますビバでなくするだけだ。
 日本リーグの規律部会は、実態をほぼ把握していただろうと、ぼくは信じている。
 リーグの中に規律部会があって、そこで処理をしたのは一つの進歩だった。規律部会のメンバーが、加盟チーム出身の常任運営委員だけ、というのは問題で、今後改善すべきだと思うが、今回の処理についてはとくに影響はなかっただろう。
 ほかに、いろいろ問題点がないわけではないが、一つだけ、今後のためにあげておこう。
 トラブルの処理が、古河側の提訴を受けた形で行われたのは、適当でない。子供同士がけんかをして「あいつが悪いんだよう」と訴えたのを、まともに取り上げたみたいである。
 これは、その試合を担当した競技インスペクター(コミッサージュ)が規律部会に報告して問題にすべきものである。
 古河が提訴したのはおかしいと思うが、規律部会は、提訴を却下しておいて、改めてインスペクターの報告をもとに(必要な場合は審判の報告もあわせて)自主的に検討すべきだった。


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