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サッカーマガジン 1984年11月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

オリンピックはプロ化した!!
プロの登録を認めないのは、バカげている

観客数で金メダル
ロス五輪最大の奇跡は、サッカー場を埋めた大観衆だ

 ロサンゼルス・オリンピックの取材に出かけて、1カ月余り、日本を留守にした。そのために、先月号は「ビバ!サッカー!」を、お休みにしてしまった。すみません。
 編集長は、オリンピックのサッカーの報告をあてにしてたらしいのだけれど、実は、この前にも書いたように、オリンピックに行っても、悲しいかな、サッカーを見に行くわけには、いかない。ぼくの勤めている新聞社は、忙しいオリンピックのさいちゅうに、個人の趣味で行きたいところに行かせてくれるほど、おおらかではない。
 そういうわけで、オリンピックに行ったけれどサッカーの試合はプレスセンターのテレビで見ただけだった。
 それはさておき――。
 大会のなかばごろに、大会運営の責任者である組織委員会のピーター・ユベロス会長が、プレスセンターで記者会見をして、運営の中間報告をした。そのとき、いちばん印象的だったのはサッカーの話だった。
 「ロサンゼルス・オリンピックは驚くべき成功を収めつつある。びっくりすることがたくさん起きているが、最大の奇跡は、サッカーのスタジアムが、毎試合満員になっていることだ」
 ご存知のように、アメリカではサッカーは、それほど盛んなスポーツではない。大会がはじまる前には、サッカーの切符の売れ行きは、あまりよくなかった。ところが、はじまってみると、地元アメリカの試合ぶりは、それほどパッとしないのにスタンドは超満員である。
 大会が終わってみると、サッカーの観客動員数(有料入場者数)は、陸上競技を抜いて、24のスポーツの中でトップだった(別表)。
 なぜ、こんな奇跡が起きたかについては、いろいろ説がある。
 一つは、いまアメリカでは、子供たちのスポーツとして、サッカーがどんどん広まってきているので、そういう子供たちを連れて、お父さんやお母さんも見に来たからだ、という説である。
 もう一つは、アメリカは、もともと移民の国で、サッカーの盛んな国から来た人たちが、たくさんいるからだ、という意見である。
 また、アメリカ人はお祭り好きだから「オリンピックならなんでもいいや」と、切符の手にはいりやすいサッカーに集まったのだという見方もある。
 どの説も一理はある。
 ともあれ、アメリカで行われたオリンピックで、サッカーが観客動員数の金メダルをとったのは、すばらしいことだった。

加藤久君の感想
予想以上のレベルにびっくりしたロス五輪のサッカー

 「オリンピックは、プロフェッショナルの世界ですね」
 ロサンゼルス・オリンピックのサッカーを見てきた加藤久君が、こう言っていた。日本代表チームと読売クラブで、守りのエースになっている、あの加藤選手である。
 加藤君は、日本体育協会から派遣されて、視察員としでロサンゼルスに行き、サッカーを11試合見てきたそうだ。ぼくは1試合も見なかったので、ぼく自身の感想の代わりに、加藤君からきいた話を少し紹介しておこう。
 「オリンピックの本番のサッカーを見たのは、はじめてですからね。かなりレベルが高いのに、びっくりしました」
 と、加藤君は言う。
 実をいうと、ぼくはプレスセンターでテレビを見ていて、それほどレベルが高いとは思わなかった。「ワールドカップとは、だいぶ違うな」と思っていた。しかし、オリンピックとワールドカップをくらべるのは間違っている。
 ワールドカップに出てくるチームは、経験充分なプロの最高レベルの選手を集めている。大会のための準備も充分にしてきている。
 オリンピックに出てくるチームは そうではない。今回のロサンゼルスには、プロレベルの選手も出場したが、欧州南米では、ワールドカップの試合(予選も含む)でプレーしたことのある選手は除外されているし、プロレベルといっても、主として24歳未満の若い選手に限られている。また大会前にチームとして、まとまって練習する期間を長くとることは、ワールドカップと違って、なかなかむつかしい。日本とは違って欧州や南米では、オリンピックに対する熱意や関心が、それほど高くないからである。
 以上のようなわけで、オリンピックとワールドカップをくらべることはできないのだが、それでも加藤君は「ユーゴスラビアなんか、ほんとにタレントの宝庫ですね。みんなすごくうまい。文句のつけようがないですよ」という。つまり、個人的な技術や体力では、ワールドカップに劣らないというわけである。ユーゴスラビアの場合などは「そうだろうな」と、ぼくも思う。
 加藤君は、さらに、こう付け加えた。
 「モロッコやエジプトあたりでも技術的な面では、ワールドクラスですねえ」
 それも、そうだろうと思う。アフリカの選手のテクニックや運動能力がすぐれているのは、かねてから知られている。
 さて、加藤君の見た試合の中で、いちばん良かったのは、延長戦になったフランス対ユーゴだったそうだ。ぼくがテレビで見た限りでも、ユーゴとフランスが、いちばん、まとまっているようだった。
 加藤君の意見では、オリンピックに出てくるほどのチームは、みな技術的にはうまいが、結局、戦術的にボールを早く動かし、外をえぐって攻められるかどうかで、差がついているという。モロッコやエジプトの選手も、うまいのだが、戦術的にひとつ余計なことをし過ぎるらしい。
 「いつも森さん(日本代表の森孝慈監督)の言っていることが、やっぱり正しいなと、いまさらながら思いました」というのが、加藤君の話だった。

五輪はプロ化した
日本のサッカーがプロ登録を認めないのはナンセンス

 「将来、オリンピックにプロを出すべきかどうかだって? もう出てるじゃありませんか。はっはっは」
 アメリカ・オリンピック委員会のサイモン会長にインタビューしたとき、オリンピックのオープン化について質問したら、こう笑いとばされた――と同僚が報告した。ロサンゼルス大会のさいちゅうの話である。
 「テニスの選手は完全なプロだし、サッカーのチームには、プロのコスモスの選手がはいっているじゃないかと言っていた。これは、どうなってるのかね」
 インタビューした同僚は、ワシントン支局駐在の外報部記者で、スポーツの専門家ではない。だから「オリンピックはアマチュアの大会だったはずだのに変だな」と、けげんに思ったわけである。
 実をいうとスポーツ専門記者であるはずのぼくにも、筋道は、よくわからない。ただ、はっきりしていることは、多くの人がオリンピックのプロ化を当然だと思っていることである。
 ロサンゼルス・オリンピックの陸上競技で4つの金メダルをとったアメリカのカール・ルイスは、陸上競技に出ることによって、億の単位の稼ぎがあるはずである。オリンピックの期間中は、ハリウッドのプール付きの豪邸に、両親、兄、妹と住んでいた(ちなみに兄のクリープはサッカーの選手である)。
 こういう選手を、これまでの「ママチュア」の枠に入れることは、とてもできない。
 テニスの場合は、はっきりしていて、オリンピック出場資格を20歳以下に限り、世界の地域割りを考慮しながら、ATP(男子)、WTA (女子)のランキング上位から順に選んだ。ATPもWTAも、世界のプロテニス選手会というべき組織である。
 「ロス五輪のテニスは、デモンストレーションだから、プロが出ても問題にしないんだ」という説明を聞いたが、4年後のソウル大会でテニスが正式競技になったとき、アマチュアだけを出すかといえば、そうはなりそうにない。
 サッカーの場合はテニスほど明確ではないが、今回は.欧州と南米については、ワールドカップの試合でプレーしたことのない者に限り、19歳から23歳までの選手でチームを作るようにさせていた。サッカーの場合、今後どうなるかといえば、オリンピックに出場するチームは23歳までの若い選手で構成するナショナルチーム、ということになるだろう。少なくとも国際サッカー連盟(FIFA)は、そうしたいとはっきり言っている。
 これは、アマプロに関係なく、ワールドカップを「おとなの大会」、オリンピックを「ジュニアの大会」とし、その下に、ユース、ジュニアユースの大会を置いて、年齢別の世界選手権の体系を作ろうという考えから出ている。
 こういうことを考えれば、日本のサッカーが、いまなお、プロの登録を認めていないのは、実にバカげている。


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