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サッカーマガジン 1984年7月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

単独チームの強化を重視せよ
代表監督には単独チームでの成功が必要

森孝慈監督の進退
男らしく辞めて単独チームで再出発して欲しかった

 「日本のサッカーに大革命を起こせ」と、でっかい声で叫びたい。ラウドスピーカーを100台並べて怒鳴りたい。全国のテレビのボリュームをいっぱいに上げてもらって、テレビに出て訴えたい。ラジオの深夜放送でも口説きたい。そんな気持だよ。まったく。
 シンガポールのオリンピック予選で4連敗。テレビの中継で3試合見たけど、情けなかった。悔しかった。駄目だったね。日本代表は。
 日本サッカー協会の指導者たちは全員総辞職すべきだ。そして、まっ白なところから出直すべきだ。いまそれをやらなければ、日本のサッカーは、今後20年は立ち直れない。
 ところが、惨敗の責任を感じて皆やめるかというと、そうはならないらしいね。
 日本サッカー協会の長沼健専務理事と日本代表チームの森孝慈監督は一応、辞意を表明したらしいけど、5月11日に協会の緊急委員会なるものが開かれて、長沼専務理事には今後の再建プランを練ってもらい、森監督には、そのままジャパン・カップで日本代表チームの指揮をとらせることを決めている。
 森監督の留任は「暫定的に」と報道された。だけど実は「もう1度チャンスを与えたい」というのが真意らしい。シンガポールで森監督が辞めたいという口ぶりだったところ、協会の実力者が厳重に口を封じて、留任のための根回しをした、という話である。
 さて、協会の役員たちの責任は別に論ずるとして、ぼくは森孝慈君個人には心から同情している。
 シンガポールの惨敗の基本的な原因は、日本サッカー協会の強化政策そのものにあって、この点について森監督にすべての責任を負わせるわけにはいかない。
 また、森監督は、サッカーについての見識も、勉強ぶりも、監督としての人柄も、みな一級品である。シンガポールの惨敗の結果を見たいまでも、ぼくはそう思っている。
 しかし、ナショナルチームの監督に問われるのは結果である。最終目標だったロサンゼルス・オリンピック出場を果たせなかったのだから、森孝慈は男らしく、すっぱり辞めるべきだった、とぼくは思う。
 森監督には、欠けていたものがあった。それは、きびしい修羅場をくぐり抜け、勝ち抜いてきたという、勝負師としての経験である。それがシンガポールでの失敗の大きな原因だったと、ぼくは思う。
 森監督だけでなく花岡コーチも、ユース代表の岡村監督も、経験と実績を欠いている。日本リーグなどの単独チームの監督として手腕を示し、すぐれた成績をあげたことがない。そこに問題がある。ずっと以前に、サッカーマガジン誌上で警告したことがあるが、代表チームの監督には、経験と実績が必要である。
 だから、森孝慈は、日本リーグのチームの監督になってタイトルをとりまくったうえで、もう1度、再登場して欲しかった。
 それにしても、ジャパン・カップに、あの打ちひしがれた日本代表が出てくるのは、シラけるね。
 大英断で日本代表は出場を辞退して、もともと天皇杯チャンピオンとして権利のあった日産に出てもらった方がよかった。日産に断わられたらスーパーカップに勝った読売クラブでもいいし、読売クと日産の連合チームでもよかった。そういう意見も提出されたが、協会は耳をかさなかったらしい。

グーテンドルフの意見
日本の協会も監督も、準備の仕方がアマチュア過ぎる

 シンガポールのロサンゼルス・オリンピック予選で日本が惨敗したことについて、読売クラブのルディ・グーテンドルフ監督が、いろいろ面白い感想と意見を聞かせてくれたので、ここに紹介しておきたい。
 グーテンドルフ監督は言う。
 「いろいろ敗因はあるが、シンガポールに5日前に乗り込んだ理由がわからない。あれが直接の敗因だった」
 グーテンドルフ監督は、東南アジアでサッカーを指導した経験を持っている。シンガポールの暑さも知っている。
 「着いて5日目から1週間目ぐらいに、暑さに慣れるための疲れが出るもんなんだ。そのころに、いちばん大事なタイとの試合を第1戦として、やらなければならなかった。実にバカげている。おれなら少なくとも2週間前に行かせるように要求するね。それが出来ないのなら、第1戦の前日に乗り込むね」
 相手のタイの方は、実は前日に乗り込んできたらしい。タイの選手は暑さには慣れている。だから、これは暑さ対策ではないが、地元でいいコンディションを作っておいて、それをそのまま第1戦にぶつけるという狙いである。バンコクとシンガポールは近いということもある。早ばやと乗り込んで、練習試合などを偵察されるよりは、自国で秘密練習をした方がいい。
 「それに日本は情報不足で、タイを過小評価していたんじゃないか。テレビで見ていても、守り方などまるでおかしい。ブラジルのコリンチャンスとの試合結果を参考にしていたんだとすれば、まったくの見当違いだが……」
 タイとの試合での試合運びと守り方がおかしいのは、ぼくも実にびっくりした。これは選手の失敗ではなく、ベンチの作戦ミスだと、ぼくは見た。結果的に、この作戦ミスが今回の予選のすべてとなった。
 向こうには一発屋がいるはずだと、ぼくが前にこのページで警告したはずである。もちろん、日本側は足の速いタイのエース、ピヤポンの情報を、あらかじめ充分に分析していただろうとは思う。しかし、それが生かされてはいなかった。
 前に1度でも対戦した経験があれば、あるいは国際大会でのタイの試合ぶりを選手たちが直接見たことがあれば、対応はまったく違っていただろう。しかし、これまでのアジア軽視のツケがここに回ってきて、選手はピヤポンと初対面だった。
 それにしても、タイにしろ、主力が出場停止になっていたマレーシアにしろ、東南アジアの代表チームは試合ぶりの水準は、ずいぶん上がっている。これは予想以上だった。
 グーテンドルフ監督の感想は、ほかにもいろいろあるが、結局のところ「日本の協会や代表チームのコーチたちの準備の仕方は、いかにもアマチュアくさい。欧州のプロのやり方を学ぶべきだ」ということに、いきついた。
 最後にグーテンドルフ監督の批判は、ぼくの方に向けられた。
 「それにしても、日本のジャーナリズムは、まったくいくじがない。西ドイツでナショナルチームがあんなだらしのない試合をしたら、新聞もテレビも、毎日大キャンペーンを張って、協会の役員とチームの監督を、みな追っ払っちゃうよ。日本の新聞ときたら、試合の結果をちょろっと載せるだけじゃないか。いったい、お前は何やってるんだ」

単独チームを重視せよ
中央集中強化主義で犠牲を強いた愚策を繰り返すな

 「日本はスピードと体力をつけなければならない」
 シンガポールの敗因について、またぞろ、こんな意見が出ているらしい。結果だけを論ずるジャーナリストが言うのならまだしもである。日本サッカー協会の強化スタッフの中から出た自己批判の結論だという。あきれたね。失敗した人が、つべこべ言うことはない。
 こういう意見は「日本の松の木よりタイのヤシの木の方が青かった」というようなものである。
 より青い松を作りたいのなら、どんなタネをまけばよいか、どんな肥料をやるべきかが問題だったのに、そこには目をつぶっている。いや、その前に、青けりゃそれでいいのかも疑問である。
 こういうことだから日本のサッカーに、いま、大革命を起こさなければならない。
 この大革命は、強化本部を解散したり、代表チームのコーチングスタッフを手直ししたりすることだけではない。
 やるべきことは、たくさんあってとてもここには論じ尽くせないが、一つだけまず取り上げておこう。それは「中央集中強化方式を反省し」「単独チームを重視せよ」ということである。
 これは緊急に必要なことであり、誰にも面倒をかけないで、いますぐできることである。
 これまでは「日本代表チームの強化を、あらゆることに優先する」という政策がとられてきた。そのために、日本リーグをはじめとする国内スケジュールの編成や単独チームの海外遠征など、いろいろな方面で実に理不尽な犠牲を強いていた。もう過ぎたことだから、具体例をあげて非難するつもりはないが、そういう犠牲が、結局は日本代表チームの強化にも結びつかないことが、今回、シンガポールで証明された。犠牲を強いた人たちは、頭をまるめて退場しなければならない。
 日本リーグに所属しているトップクラスのチームだけでなく、どの単独チームでも、自分のチームを強くしたいと努力している。自分のチームからよい選手を出したいと希望している。
 そういう単独チームの自主的な努力と要求を最大限に満たしてやることが、結局は日本代表チームの強化にもつながってくる。
 単独チームに国際試合の経験を積む機会を充分に与えて、単独チームがよい選手を育てれば、それが報われるような仕組みを作る必要がある。
 スピードが大事だと思うチームはスピードを生かし、体力が大事だと思うチームは体力を鍛えればいい。サッカーには、もっと他に大事な要素があると思うチームは、それを生かせばいい。
 各チームの努力の結果で、それが正しいかがわかる。
 だから、日本のサッカーの再出発にあたって、ジャパン・カップには、日本代表にかえて単独チームを出して、単独チーム重視をスタートラインにすべきだったと、ぼくは思う。


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