アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1984年1月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

外から吹き込む風に期待
グーテンドルフ氏は新風を吹き込むか?

外からの風を入れよう
読売クラブが招いたグーテンドルフ・コーチヘの期待

 読売サッカークラブに、西ドイツから、ルーディ・グーテンドルフ氏が特別コーチとして来ている。83年度の後期は、ベンチにはいらないで、試合をスタンドから見ているが、84年度からは監督として指揮をとる予定だそうだ。
 「なぜ、外国のコーチを呼んだのかね」
 と友人がきく。
 ぼくだって、事情のすべてを知っているわけではないが、グーテンドルフ氏が来ることになった、いきさつには、多少からんでいたので、ぼくなりの見方はある。
 「第一にだね。チームを強くするためには、外の空気をいれなきや、ダメなんだよ」
 日本のスポーツは、学校、企業が中心だから、監督がやめると、同じ学校のOBの中から、あるいは同じ企業の社員の中から、後任を“昇格”させることが多い。そのために、監督が変わっても、練習の仕方、チームの作り方、スポーツに対する考え方などが、大きく変わることはない。いい面では、それがチームの「伝統」を作っていくことになるが、進歩を妨げる弊害もある。「変わりばえがしない」というヤツである。
 ぼくは、サッカーのような国際的なスポーツでは、外の風を入れることを怠ったら、世界のレベルから遅れていくばかりだと思っている。
 そういうわけで、82年のシーズンの終わりに読売クラブの相川監督が突然、自分から辞任したとき、後任について意見を求められたから、外国から監督を「雇う」ことを、ぼくが提案した。
 「へえ、なるほどね。でも、どうして西ドイツから?」
 と友人。
 実は、これには、ちょっとした偶然がからんでいる。
 読売クラブには、ブラジル出身の選手がいるから、ブラジル人のコーチを探そうという話もあった。ヤマハがオランダのハンス・オフト氏の指導を受けて成功した例があるのでオランダ人はどうか、という声もあった。日本の選手には、英語が通じやすいから、英語のできる人がいいという意見もあった。西ドイツのサッカーは日本になじみ深いし、コーチの組織がしっかりしているから安心して呼べるのは西ドイツからだろう、という考えもあった。
 そういう話が出ていたころ、ぼくは西ドイツのデトマール・クラーマーさんに手紙を書いた。
 「ぼくの考えでは、日本のサッカーにプロフェッショナリズムを導入すべき時期が来ていると思う。正月には天皇杯の決勝があるし、高校選手権もあるから、ブンデスリーガの休みの時期でもあるし、日本に来てみないか」という手紙である。
 これに対してクラーマーさんから、あいにく、その時期には行けない、という返事が来たことは、このページで前にも紹介したとおりである(6月号)。
 その後、3月に読売クラブの中学生チームが、西ドイツを親善訪問したとき、団長として同行した浅野誠也事務局長に向こうでクラーマーさんに会ってもらった。
 そのときに「クラーマーさんが日本に来て、読売クラブの監督になってもらえないか」という話が出たらしい。クラーマーさん自身は、非常に乗り気だったそうだ。
 しかし、クラーマーさんは、いまバイエル・レベルクーゼンの監督だし、家庭の事情もあって日本には行けない、ということだった。
 そして「自分の代わりに」と推薦してきたのが、グーテンドルフ氏である。
 グーテンドルフ氏は57歳。英語も達者である。個性が強く、世界をまたにかけて活躍した世界的に有名な人物だ。
 だからといって、日本で成功するかどうかは分からない。それは、これからのグーテンドルフ氏自身の仕事ぶりにもよるし、日本側の受け入れ体制にもよる。
 しかし、いずれにしても、外から吹き込んだ風が、日本のサッカーにショックを与えてくれることは、期待できるだろうと思う。

読売クラブの快走
選手が良さを出して、スタンドが盛り上がれば最高だ

 日本リーグの後期、読売クラブが快走している。
 「外人コーチを招いた効果が早くも現れたか」と言いたいところだが、ぼくの見るところ、必ずしも、そうとはいえない。しいていえば、「外人コーチが来る」というのでこれはうかうかしてちゃクビになる」と、みんなが頑張りだした、というところだろうか。もともと持っていた力が、やっと出てきた、という感じである。
 一方、他のチームは、ほんとはもっと力が、いや技(わざ)があるはずだのに、それを出し切っていない。そのために、混戦の中で、ちょっと差がつきはじめた、というところである。
 先日、静岡県の磐田市でヤマハ−読売クラブの試合を見て、翌日、浜松市で本田技研−古河電工の試合を見た。天竜川をはさんで、すぐ隣同士の町だから、東京から出かけて1泊2日で2試合を見たわけである。
 ヤマハの試合ぶりは、悪くなかった。ここは外人選手を入れていない。また“有名ブランド”の選手を集めているわけでもない。
 しかし、中盤から攻め込む望月一仁はスピードがあり、前線では三輪昌弘が思い切りよくシュートを狙うこのチームは、持っている力をよく出している方である。
 ただ、前にこの磐田のグラウンドに行ったときにくらべて、スタンドのふんい気に活気がなかった。会社の経営状況がきびしいことが影響しているんだろうか。
 試合の結果は、久しぶりに戸塚哲也が2ゴールをあげ、2対1で読売クラブの勝ち。ヤマハにちょっと運がなかった。スタンドのふんい気がもっと盛り上がっていれば、運もヤマハに傾いていたんじゃないか、などと理屈にならないことを考えた。
 翌日の本田−古河。
 本田の都田グラウンドは、浜松の駅からは、かなりある。タクシーで行くと2600円。町のはずれである。
 ぼくは初めて行ったのだが、芝生のいいフィールドで、片側だけだけど、ちゃんとしたコンクリートのスタンドがある。2000人くらいの地元のお客さんで、ほぼいっぱいだった。こっちの方が盛り上がっている。1対0で本田が勝ったのも、応援のおかげじゃないか、と思った。
 ここでは、古河の試合ぶりに失望した。前田秀樹が頑張っている。永井良和も頑張っている。早稲田一男が頑張っている。
 だけど、チームとして盛り上がってないんだなあ。
 早稲田君なんか。帝京高校を出て6年目で、いちばん働き盛りのはずなんだけど、ぼくの好みからいえば高校を出たばかりの、まだ、ひ弱い感じのころの方が良かった。
 いまは足なんかもたくましく、いかにも日本のサッカー選手らしい頑張り屋になっていたが、ういういしかったころの感覚の良さが影をひそめている。
 「鍛えられすぎて、頭が悪くなったんじゃないの」と記者席で口さがないことを言っていた。
 読売クラブの良さは、この逆である。一人ひとりの選手をみれば、ラモスも、与那城も、戸塚も、以前からの欠点、弱点がそのままである。しかし、良さもまた、そのままで、チームが盛り上がっているために、良さも盛り上がっている。
 チームがいいとスタンドが盛り上がるのか、スタンドが盛り上がるからチームがよくなるのか。11月3日、国立競技場の読売クラブ−ヤンマーの試合は、久しぶりに万余の大観衆でわき立った。やっぱり、サッカーは。お客さんがたくさんいて興奮しなきゃあね。

サッカーのミニコミ
たのしい各地のサッカー新聞。作る苦労もたいへん……

 「サッカーあびこ」の創刊号を送っていただいた。週刊誌の倍の大きさの紙1枚、裏表2ページの小さな新聞である。
 千葉県の我孫子市サッカー後援会発行で、フジタの栗本直先生を迎えてゴールキーパーの講習会を開いたとか、セルジオ越後先生のジュニアサッカーコーチングスクールが行われたとか、地元のニュースがのっている。地域の大会の記録も、もちろん、のっている。それから下の方に町のおすしやさんや、おそばやさんや、本屋さんの広告もいくつか、のっている。「我孫子市内におけるサッカー人口は約2000人の多数になってきました」と、発行のあいさつに書いてある。
 楽しいねえ、ビバ!サッカー!だねえ。
 このようなサッカーのミニコミはほかにも、兵庫県神戸市の「神戸のサッカー」や静岡県清水市の「静岡ユースサッカー」を拝見している。ほかにも、各地にいろいろあるに違いない。
 こういうミニコミは、続けるのが苦労である。
 まず第一の苦労は労力。こういうものは、多勢で作ろうとしても、うまくいかない。相談したり、批評してもらったりするのはいいが、結局のところ、原稿を集め(これが一番たいへんだ)、レイアウトし、校正するのは、誰か1人が引き受けなくてはならない。
 第二にお金がかかる。印刷代くらいは広告でまかないたいが、続けて広告をつき合ってもらうのは、むずかしい。こまかく、たくさん集めるのでなく、一つの会社にだけ、お願いするのも手のようだ。
 清水の「ユースサッカー」は、以前はペプシだけがスポンサーだった。いまは「静岡第一テレビ」と「大塚製薬」もはいって三つになっている。しかし1業1種、少数精鋭の方針らしい。
 第三の苦労は配布である。せっかく作っても読んでもらわなければ意味がない。読んでもらうには、まず配らなければならない。これが、かんじんのところである。
 清水の「ユースサッカー」は、新聞販売店のご主人が中心になっているらしい。月に1回、その新聞に折り込みになって配られてくるという話である。
 ともあれ、こういうミニコミ・サッカー紙は、貴重な情報源であり、サッカーPRの効果的な手段であり、連帯のあかしである。
 全国の皆さん。皆さんのサッカー新聞を「サッカーマガジン編集部」あてに送って下さい。

※1984年の記事です。編集部あてに送るのはご遠慮ください。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ