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サッカーマガジン 1983年10月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

盛り上げた個性派集団
選抜FCと互角に戦った単独小学校チーム

ビバ! 高槻松原!
今年の少年大会の良さを象微した小さな個性派集団!

 ことしの夏も、東京郊外のよみうりランドで、全日本少年サッカー大会を見た。少年サッカーの中味は、年ごとに、ぐんぐん良くなっている。そのことが、この大会を見ればよくわかる。
 すべてのチームを見ることはできなかったが、ぼくの見た限りでは、ことしのぼくの特別推薦チームは、大阪府代表の高槻松原フットボールクラブだ。この高槻松原は、ことしの少年年大会の良さを象徴しているようなチームだった。
 まず、すばらしかったのは、一人ひとりの個性的な個人技だ。「技の松原」とか「小さな個性派」とか、新聞の見出しになっていたのは、まさにぴったりである。
 もちろん、とびきりテクニックのいい選手もいるし、技術はそれほどでない選手もいるのだが、それぞれいい特徴を持っている。そして、どの子も、ドリブルすることを恐れない。ドリブルしたら相手に体当りされるんじゃないだろうかとか、「早くパスしろ」と先生に叱られるんじゃないだろうかとか、そんな気配は少しもない。平気でどんどんドリブルをして相手を抜こうとする。
 とくに目についたのは、引き技が得意な子が目立ったことだ。足の裏でボールを引いてかわし、すぐ相手の裏側へ出る。ツバメ返しである。チビッ子マラドーナという評判だったが、ぼくはペレのイメージを思い浮かべた。新潟代表の真砂小学校のチームが「真砂ペレ集団」と名乗っていたが、こちらは“ペレ・マラドーナ集団”である。
 高槻松原は、個性的なテクニックの選手がいただけでなく、チームとしても、なかなか、よくまとまっていた。
 準決勝の清水FC(静岡)との試合は、事実上の決勝戦だったといっていいと思うが、高槻松原は、前半の8分、14分に得点して、2−0とリードした。清水FCは、今回は無失点優勝を狙っていて、ベンチにつるしてある千羽鶴に「無失点V」とスローガンを書いていたぐらいだったが、高槻松原の先制ゴールは、その清水FCの夢を打ち砕いたものだった。
 清水FCは、サッカーの町清水の全部の小学校の中から、優秀な素材を学年別に集めて、長期計画で育てているクラブだから、タレントぞろいである。一方、高槻松原は単独小学校のチームで、しかもチビっ子が多い(平均身長1メートル39)。高槻松原は、はじめから劣勢だった。押されていた。
 そこで、中盤の選手がしっかり守って、逆襲でゴールを狙う作戦をたてていた。先制の2点は、それが実ったものである。
 テクニシャンぞろいで、しかも、それまで攻撃的サッカーで勝ち進んできたチームだから、しっかり守って逆襲を狙うのは、なかなかむつかしいだろうと思うのだが、高槻松原の少年たちは、それを見事にやっていた。感心したのは、逆襲のとき、やはり得意の足わざで相手を1人抜き、抜きながら次の手をちゃんと読んで、攻めの速さを失わないようにプレーしていたことである。
 体力的には、とても清水FCにかなわなかったので、後半に逆転されて5−2で敗れたが、実に気持のいいチームで、目標にしていたフェアプレー賞をもらった。
 ぼくも誌上で「ビバ!サッカー!賞」を贈りたい。

チーム編成の不公平
“選抜FC”の少年大会出場は考え直すべき時期だ…

 ことしの全日本少年サッカーの準決勝は、2試合とも、いわゆる“選抜FC”と単独小学校主体のチームの対戦だった。どちらも単独チームの方が先にリードを奪ったが、後半に“選抜FC”が力にものをいわせて逆転した。
 “選抜FC”は、多くの小学校の中から、すぐれた素材を集めて訓練しているチームだから、当然、選手のツブがそろっている。体格もいい。また、決勝に進出した清水FC(静岡)と山口サッカークラブ(山口)は、どちらも、すぐれた指導者が長期的にチームを育てているクラブだから、訓練もゆき届いている。単独小学校チームが、なかなか対抗できないのは、やむを得ない。
 それでも――。
 準決勝の試合を見ながら、ぼくは次のような奇妙なことを考えた。
 もし、これが猛暑の中の連戦でなかったら、もし、ひとまわり小さい少年用ゴールを使っていたら、そしてもし、フリーキックやコーナーキックがなかったら……。ひょっとして、高槻松原(大阪)か、若松サッカー少年団(福岡)の方が勝ったんじゃないだろうか――。
 全日本少年サッカー大会では、一つのチームが、午前と午後と1日に2試合をする。40分試合(20分ハーフ)だが、30度を超える暑さの中だから、かなりきつい。体力的にすぐれた選手をそろえられる“選抜FC”の方が、準決勝あたりになると、ずっと余力がある。後半に逆転勝ちできた一つの理由は、これである。
 全日本少年大会の決勝大会では、各地の小学校の校庭にあるような少年用ゴール(高さ2メートル15、横幅5メートル)ではなく、おとなと同じ正規のゴール(高さ2メートル44、横幅7メートル32)を使っている。
 これもいささか問題で、小学生のゴールキーパーが、おとなのゴールを守ると、ふつうはまず、高いところへきたシュートには、手が届かない。たまたま大型のゴールキーパーに恵まれればいいが、単独小学校チームでそんな長身の児童に恵まれるのは、よほどの幸運である。これが“選抜FC”だと、大型のゴールキーパーを探し出すことは、そうむつかしくない。
 ゴールが大きく、相手のゴールキーパーは小さいから、強いチームは状況が苦しくなると、ゴールの上すみをロングシュートで狙う。とくに中盤のフリーキックは、絶好のチャンスである。清水FCも、山ロクラブも、ともに、こういうロングシュートを反撃の武器にした。
 清水FCは、またコーナーキックをうまく使った。準決勝で後半、逆転のゴールを生んだのは、コーナーキックからだった。
 これは、技術と練習の成果で見事なものだったが、コーナーキックを生かせるような長身のフォワードと俊敏な選手を揃えることができたのは“選抜FC”だからだろう。
 清水FCなどの果たしてきた役割を、ぼくは充分に評価している。
 しかし、ここ数年の大会を見ると単独小学校に、いいチームやいい選手が増えてきているので、その良さを伸ばすために“選抜FC”のあり方を考え直すべき時期が来たのではないだろうか。
 単独小学校チームに限れ、というつもりはまったくないが、今回、東京で“選抜FC”を単独チームとして登録することをやめ、FC町田が出場しなかったのは、立派な見識である。

五輪予選は油断大敵
がんばれニッポン! 今秋は、大丈夫だと思うけど…

 編集長が電話をかけてきて「オリンピック予選の直前号だから、日本代表チームを激励するのも1本入れて下さいよ」と言う。
 「サッカーマガジン」の編集長は歴代みな愛国者だが、いまの編集長は、とくに「ガンバレ、ニッポン」のようだ。こっちとしては、少年サッカーのことも、いろいろ書きたいし、プロ問題も書かなきゃならないのだが、困っちゃうね。
 もとより、ぼくだって、日本代表チームに、がんばって欲しいと思っている。来年、ロサンゼルスに行って欲しいと思っている。だから大いに応援するつもりである。
 だけどまあ、この秋の予選のことは、そんなに心配していない。
 これまで、いろいろ悪口も書いたけど、日本のサッカーのレベルが、少しずつではあるが、上がっているのは確かだと思っている。釜本、杉山のような大物タレントがいないのは困ったものだけど、森監督のチーム作りの方針も、そう間違っていないと思う。森監督のチームをまとめる手腕と作戦能力の方は、今度初めて本格的に試されるわけで、これは大いに楽しみにしている。
 最初に当たるフィリピンにやられる心配はまずあるまい。1958年に東京で開かれた第3回アジア競技大会のとき、もっとも弱いと思われていたフィリピンに不覚の黒星を喫した苦い思い出があるけど、いまから考えれば、当時の日本のサッカーは、未開発同然だった。いまは、まがりなりにも発展途上である。25年前の二の舞は考えられない。
 フィリピンに勝てば、次は中国台北−パプアニューギニアの勝者が相手である。これは、どちらが出て来ても未知数の部分がある相手だ。ただ現在の国際的な評価は、まあ、低い方である。油断大敵ではあるが、恐るべき相手ではない。
 中国台北は、25年前の東京アジア大会では優勝した。当時は、アジアのサッカーではトップクラスの地位を保っていた。これは香港にいた中国人選手でチームを編成していたためで、台湾在住の人たちのサッカーのレベルは、もともと、そう高くはない。日本と対戦することになれば久しぶりのことになるが、いまでは日本のサッカーが格上だと思う。
 そこで、オリンピック予選のこの段階までは、日本代表チームにとって大切なことは「小敵といえども侮らず」である。
 具体的にいえば、相手についての事情の情報収集などの努力を怠らないこと(全体のレベルは低くても、個人的に飛び抜けたエースがいたりする可能性がある)、体調の維持に細心であること、慎重に、まじめに戦うこと、である。「子供にいうみたいなことをいうな」といわれるかもしれないが、なに、これまでに、子供みたいなしくじりをした例は、いくらもある。
 さて、その次の段階はニュージーランドが相手になる。これは強敵だが、日本のブロックから2チームが来春の2次予選に出られるので、おそらくニュージーランドには、勝っても負けても、2次予選に出られるということになる可能性が強い。
 そういう試合では、どうすればよいか――。それは、また改めて書くことにしよう。


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