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サッカーマガジン 1983年4月号
ビバ!! サッカー!!

釜本選手の痛烈な一発
「サッカー医科学研究発表会」の異色シンポジウム!

 「サッカー医科学研究発表会」なるものが、2月11日に東京巣鴨の三菱養和スポーツクラブで開かれるというので、参加料3000円也を払って、のぞいてみた。われながら物好きだねえ。だいたいが、サッカーを研究対象にしている大学の体育の先生たちの集まりで、ジャーナリストは、ほかには誰もいない。
 だけど、内容はシロウトにもわかりやすくて、なかなか面白かった。
 午前9時から、20人の先生方の研究発表があった。質疑応答も含めて1人15分、あるいは30分の持ち時間。学会とは違って(多分違うんだろう)いろんな発表が、ごちゃまぜになっているのが面白い。
 都立大の先生の発表した「トラッピングテストの試作」という研究があった。ボール扱いの“すばやさ”を、客覬的にはかる方法を考えてみた、というのだが、このテストをテストしてみたデータでは、日本代表クラスの選手の中でも、都並敏史選手(読売クラブ)が、抜群に“すばやい”という結果が出ている。
 「ゲーム中のシュートのボールスピードについて」という上智大の先生の発表もあった。テレビの中継画像からシュート場面を選び出して分析したものだ。
 それによると昭和56年1月4日、駒沢競技場の高校選手権1回戦の西目農−北陽で小松晃選手(西目農、いまはヤンマー)の放った有名な“50メートルシュート”は、正確には51.5メートルで、滞空時間は2.55秒、ボールのスピードは秒速20.2メートルだそうだ。
 8カ月前のスペイン・ワールドカップを分析した発表もあった。大学の先生の仕事ぶりは、ジャーナリストより、ずっとすばやいようだ。
 香川大学の先生が、スペイン大会のテレビ中継から、イタリア、西ドイツ、ブラジル、アルゼンチンの4チームを選んで「ディフェンダーの攻撃参加について」調べた結果を報告した。これは、我々が記者席で見た印象と非常によく一致している。
 西ドイツは、サイドバックがよく前へ出るが、ムダが多くて得点に結びつかない。イタリアは出て行くのは少ないが効率はいい、といったぐあいである。
 「ESPANA82・全146ゴールの傾向分析と得点に貢献したプレー」というのもあった。これは北海道教育大函館分校の先生の発表である。タイトルからしてナウいやね。
 さて、研究発表会の最後には、釜本邦茂選手を招いて「ストライカーを育てるには!」というタイトルのシンポジウムがあった。
 ぼくは、ストライカーを「育てる」という発想が、そもそも間違っていると思うが、それはともかく、釜本選手の発言は、いろいろ面白かった。
 その一つ。
 「子供たちは、点をいれて喜んで遊んでるんですから、どんどん点をとらせたら、いいんじゃないですか」
 少年サッカーの「教え過ぎ」に対する、痛烈な一発である。

外人選手の登録制限
前にも書いたことがあるが改められない不合理な規則

 日本サッカー協会には、世界の常識からはずれた変な規則や組織があってサッカーの進歩を妨げている。日本のサッカーが、なかなか発展しない原因は、たくさんあって、協会の力だけでは、どうにもならないこともあるけれど、日本サッカー協会の規則は、自分で変えればいいのだから、いつまでも、ほったらかして自分の手足を自分でしばっているのは、実に奇妙である。
 その一つが、外人選手の移籍登録に、ほかの国にはない制限をつけていることだ。
 日本サッカー協会の「選手移籍規程」(外国籍及び外国において競技者であった者)の第六条では、外人選手は、登録してから少なくとも6カ月(長い場合は1年)は、試合に出られないことになっている。
 また日本サッカー協会のアマチュア規程第四条によれば、プロ選手であった者は「職業競技者であることをやめたと認められた日から満1年以上を経過」してからでないと申請できない。
 しかも「選手移籍規程」の第五条によれば、登録するときには「本人がすでに日本に入国定住していること」が必要である。
 つまり、外国から日本に来てサッカーをしようとすれば、アマチュアの選手でも最低6カ月、プロの選手については1年以上、日本で“寝かせて”おかなければならない、というわけだ。
 これは「外国人」に限ったことではなくて「外国でプレーしている日本人」にも当てはまる。
 たとえば西ドイツでプロとして活躍している奥寺康彦選手が、日本に戻ってプレーしようと思ったら、少なくとも1年以上遊んでからでなければ、日本の公式戦には出られないわけである。奥寺選手は、日本に戻ってくるころには、相当の年輩であろうから、この1年のブランクは、相当にこたえるだろうと思う。もったいない話である。
 問題は、この半年ないし1年の登録制限には、なんの意味もないばかりか、国際サッカー連盟(FIFA)の規則の精神にも反していることにある。
 「いつでも、どこでも、誰とでも」というのが、サッカーの精神である。
 「いかなるレベル」(プロでもアマチュアでも)のサッカー選手も、国際サッカー連盟の仲間として、各国のサッカー協会が「いつでも」受け入れなければならないはずである。
 もとの国のサッカー協会から「すでに、その国では登録していない」という証明が出ていれば、すぐに登録を受け付けるように、日本の規則を、すぐ改めて欲しい。この証明書が本物かどうかを確かめるには、1週間もかからないはずである。


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