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サッカーマガジン 1983年1月号
ビバ!! サッカー!!

水たまりの中での技術
コスモスと比べて、日本選手はインステップが不正確

 東京の国立競技場で行われたゼロックススーパー・サッカーの最終戦(11月10日)は、かなりの雨で、芝生はひどいものだった。フィールドのメーンスタンドよりのところには、大きな水たまりが、いくつもできていた。日本を代表するスタジアムがこれでは情ないね。
 芝生がしっかりしていれば、雨で濡れても、足もとはそうぐらつかないし、ボールは走りやすくはなって、水たまりで止まるなんてことはない。だから、ちゃんとサッカーの試合はできる。
 ところが、いまの国立競技場のフィールドは、そうじゃない。地盤そのものがダメになっているらしいし芝生もひどい。国際試合をやるスタジアムは、それらしく管理してもらいたいものだ。
 それは、さておき――。
 試合のあとの記者会見で、これが本当に最後の試合だったというベッケンバウアーが、日本と韓国の代表チームを比べて、こんなことを言った。
 「韓国は体力的によくがんばるし、日本はテクニックがいい。どちらが勝つかはコンディションによるね」
 ベッケンバウアーは、日本に来る前に韓国で試合をしてきたから、アジア大会での対戦について予想を求められて、こう答えたのだが、ぼくは「日本はテクニックがいい」という言葉を聞いて、隔世の感にうたれた。
 6、7年前までは「日本選手は、よくがんばる」と言われることはあっても「テクニックがいい」と賞められるなんてことは、外交辞令にしても考えられなかった。日本のサッカーが、変わりつつあることは確かである。
 しかし、だ。
 ぼくは泥んこの「サヨナラ・ベッケンバウアー」の試合を見て、テクニックについて別の感想を持った。だから、やはり試合後のインタビューで、日本代表チームの森孝慈監督に、こんな質問をした。
 「この水たまりのフィールドで、日本の選手とコスモスの選手のプレーを比べて、どう思ったか?」
 さすが森チン。こちらの質問の魂胆をすぐ見抜いたね。答はこうだ。
 「ご覧になって、お気付きでしょうが、コスモスの選手は、悪い状態を苦にしてないかのように、しっかりした技術を示しました。とくにポギチェビッチ(元ユーゴ代表)のしっかりしたプレーには感心しました」。
 その通り。
 足もとが悪くても、足腰がしっかりしていて、的確にボールを扱い、中長距離の浮き球のパスをインステップ(足の甲)で正確にける。その点で日本選手との違いは大きい。
 日本のサッカーも、インステップキックが、しっかり、正確にできるようになって欲しい。

ロシア選抜の好プレー
パッとしないチームでも部分的には見どころがある

 ソ連のロシア共和国選抜と日本選抜との第2戦、11月12日に西が丘サッカー場のナイターで行われた試合で、こんな得点場面があった。
 後半のおわりごろ、日本の先取点にロシア共和国選抜が追いつき、終了8分前に逆転した。その逆転ゴールである(図参照)。
 中盤、ハーフラインからかなりはいったところを、ブラソフKがドリブルで進んだ。日本の中盤プレーヤーとディフェンダーの2人が、後退しながら向かいあって、その進路を抑えた。
 そのとき、ブラソフの背後にいたスミルノフGが、右外側をまわり、オーバーラップで走り出た。
 ブラソフからのパスが、右外のスミルノフに出て、ノーマークで右すみへ走り抜けられるのをおそれて、ブラソフの前面を抑えていた日本のAは、本能的に、自分の左側、つまりスミルノフの方に動いた。
 ところが、オーバーラップしたスミルノフは、右外のオープンスペースに出ずに、内側に切れ込んで、ブラソフの前に出た。
 Aは逆をとられ、もう1人のディフェンダーBとの間に、すき間ができた。
 そのすき間をパスが抜け、スミルノフはドリブルで持ち込んで、ゴール前へ送り、ムラシキンツェフがヘディングを決めた。
 これは実に巧い攻めである。試合のあとで日本選抜の宮本征勝監督は「どうも、ああいう場合の守り方がまだわかっていない」と、守りが悪かったことを反省していたが、ぼくの見るところ、これは攻めの方がうまかった。
 ロシア選抜はソ連国内リーグ2部のファッケル・ボロネジが主力で単独チームみたいなもの。このプレーを演じた12番は30歳、8番は27歳で、どうみても未来のワールドカップのスターではない。
 あまりパッとしたチームでも、試合でもなかったが、それでも部分的には見どころがあるものだ。


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