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サッカーマガジン 1982年12月号
ビバ!! サッカー!!

中国のサッカー
広い底辺から業余学校で選手を育て、省対抗で戦う!

 北京から中国のスポーツ記者5人がやってきて、2週間にわたって日本のスポーツを見てまわった。ぼくは、その案内役を仰せつかって、いっしょに、ついてまわった。
 その間に聞いた中国のサッカーの話、いろいろ――。
 @中国は国が広いから、サッカーは地方によって、ずいぶん特色が違う。邃寧省の方は、朝鮮のサッカーに似ていて体力、気力に特色があり、南方の広東省は、東南アジアのサッカーに近くて足わざがいい。北京は全国の精鋭が集まっていて組織的なサッカーをし、上海はチームプレーに柔軟性がある。(これは、ぼくが自分の観察を述べたもの。よく知っている、そのとおり、と向こうが認めてくれた)
 A中国でもっとも大衆に人気のあるスポーツは、サッカーである。4年に一度の全国体育大会(日本の国体のようなもの。来年9月に上海で第5回大会がある)は、サッカーに始まって、サッカーに終わる。
 B中国の選手権は、22の省と5つの自治区、3つの特別市、それに解放軍の総計31チームで争われる。どこもチーム強化に対抗意識を燃やしており、軍でさえ、選手集めに躍起である。
 Cこの前のシーズンは、意外にも山東省のチームが優勝した。山東省は、ドイツ人のコーチを招いており、中国のサッカーは、コーチの面で遅れているのではないか、という意見が出ている。
 D全国選手権は、省や都市名で争われるので「北京」「上海」というような名前で日本へ来たチームを、臨時編成の北京市選抜、上海市選抜だというように考えると、ニュアンスが違う。むしろ「FC北京」「FC上海」というように考えた方が、実態に近いようだ。
 E中国では学校のスポーツは、あまりレベルは高くない。学校対抗のような形式の大会も、あまりない。したがって、単独の高校チーム同士の日中対抗試合をやれば、きっと日本の高校チームが圧勝するだろう。
 F中学生、高校生に相当する年齢層のスポーツのレベルを支えているのは「業余体育学校」である。学校の授業が終わると、サッカーの上手な生徒は、いったん帰宅したあと、その都市の業余体育学校に行って、サッカーをする。
 業余学校には、スポーツだけでなく、文化部のようなものもあって、いわば日本の学校の“クラブ活動”みたいなものだが、中学校単位、高校単位ではなく、サッカーの業余学校には、サッカーのうまい少年たちが、いろんな中学や高校から集まる。エリートのスポーツクラブだともいえる。
 ざっと以上のとおりである。
 中国のサッカーは、日本よりレベルが高い。なぜか? ということが多少は、わかるような気がする。

国体開会式を見て
松江少年サッカースクールの集団演技に大感激した!

 久しぶりに国民体育大会を見に行った。中国のスポーツ記者代表団が島根国体を視察したので、案内していっしょに行ったわけである。
 松江市の陸上競技場で行われた開会式のとき、すごく、うれしかったことが一つある。それは、入場行進の前に行われた、いろいろな集団演技の中に、松江少年サッカースクールによる「母子サッカー」があったことである。
 小学生の子供たちが、お母さんといっしょに出てきて、フィールドいっぱいに展開して、ドリブルをしたり、ミニサッカーをしたりする。試合ではなく、15分間に、サッカーをテーマにした運動のいろいろを見せようという集団演技である。
 これが、なぜ、うれしかったかというと、一つには、バレーボールとかテニスとか、大衆的なスポーツがたくさんあるなかで、とくにサッカーが国体開会式のエキジビションに“市民の健康のためのスポーツ”として組み込まれていたからだ。サッカーは、子供たちの健康的な活動にとても適している。その点が、よく出ていたのがいい。
 さらにいえば、これが島根県で取り上げられたのが、うれしい。15年あるいは20年前には、島根県は、日本でも、もっともサッカーの普及が遅れている地方の一つだったように思う。それがいまや、国体の開会式に登場するほどになっている。長い間、少年サッカーの普及に関心を持ってきた者の一人として、感慨無量である。松江少年サッカースクールを育ててきた方たちは、なおさらじゃないかと思った。
 もう一つ、この「母子サッカー」に出た何百人もの子供やお母さんたちの大部分が、それほどサッカーが上手でなかったのが良かった。ふつうの子供たちが、ふだん着のままを演技した感じだった。
 この点については、中国のスポーツ記者たちが、「中国だったら、本当に技術のすぐれた子供たちを選び抜いて、練習に練習を重ねて、完璧な演技を披露しようとするだろう。ところが松江では、大衆の日常のスポーツ活動のありのままを出そうとしている。こっちの方がいい」と感心していた。 
 中国のスポーツ記者たちは、トップの選手強化よりも、市民の健康のためのスポーツ活動に興味を持っていた。
 東京のよみうりランドや西武スポーツ館や国立競技場でやっている各種のスポーツ・スクールを見て「施設がいろいろあり、コーチがおり、スポーツをしたい人たちのために、いつも窓口が開かれている」と、ほめてくれた。
 そういわれれば「日本のスポーツは、たいしたものだな」と、改めて自分のまわりを見直したしだいだった。


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