サッカー列島改造論
10年前の記事を改めて評価されて、勇気がわいてきた
先日、西日本OBサッカー連盟の会合に招かれて、お話をうかがう機会があった。講演してくれ、と呼ばれたのだけれど、先方は、各地の名門校出身の名選手のOBの大先輩ばかりだから、ぼくなんぞが講演するなんて、とんでもないことで、意見を申し述べて、ご批判をいただくというのが実態である。
ただ、ぼくにとって、はなはだ光栄だったのは、話のテーマは「サッカー列島改造論にせよ」と、指定されたことである。
「サッカー列島改造論」というのは、10年前に、ぼくが『サッカー・マガジン』に上、下2回にわたって掲載した記事のタイトルである。
当時の田中角栄首相が「日本列島改造論」という本を出して話題になっていたのを、もじったものだが、その後、田中首相は、ちょっと具合の悪いことになり、地方工業都市振興の青写真だった「日本列島改造論」も、石油ショックのあおりでしぼんでしまった。
ぼくの「サッカー列島改造論」はタイトルをもじっただけだから別にしぼむ理由はないと思うのだが、どういうわけか、遅々として進まないまま、10年たった。そこのところへ、大先輩が、このタイトルを思い出して下さったのだから大感激である。
「サッカー列島改造論」は、簡単にいえば、地域を単位にしたスポーツクラブを育て、それを軸に日本のサッカーを発展させよう、という趣旨である。ヨーロッパや南米では当たり前のことを日本でもやろう、ということに過ぎない。
しかし、これがなかなか容易ならざることである。
地域のクラブ・サッカーを育てるには、まず、人口25万から100万ぐらいの都市を単位に、市民なら「誰でもはいれる」クラブの組織を作らなければならない。組織を作り、運営するのに必要なのは、まずマネージメントの才能のある人材である。
次に、クラブチームが試合をするサッカー場が必要である。ぼくは人口25万人について、少なくとも1万人収容のサッカー場が一つはあっていいと思う。
第三に、クラブを運営する財源が必要だ。その財源の基礎になるのは試合の入場料収入である。入場料をサッカー協会あるいはサッカー・リーグのものではなく、地元クラブのものにすること、つまり、“自主運営”が、サッカー列島改造論の根幹である。
十年一日の如く繰り返してきた以上のような意見に「耳を傾けてやろうじゃないか」という大先輩がおられるので、ぼくは、また少し勇気がわいてきた。
サッカーと英和辞典
「シュート数」を英語に訳したら、どうなるだろうか
たまたま本屋で「英和辞典うらおもて」(岩波新書)という本を見つけて買ってきた。読み進んでみるとところどころに、サッカーの話が出てきて面白い。
著者の忍足欣四郎(おしたり・きんしろう)という英文学の先生が、英和辞典を編集したときの苦労話を中心に、辞書作りのもろもろを書いた本だが、この忍足先生の「道楽の一つ」がサッカーだということで、用語や文章の例に、サッカー関係のものをひいている部分がある。
たとえば、ある英和辞典でサッカー用語をひいてみると、penalty area が「ラグビー用語」となっていたりすることがあるらしい。
「なるほど」と思って、ぼくも手近にあった小辞典でfootballをひいてみた。
そしたらだ。
「フットボール、蹴球(イギリスではおもにラグビー)」となっているではないか。
イギリスで、フットボールといえば、「おもにサッカーじゃないか」とちょっぴり腹立たしかった。
忍足先生編の辞典を念のため、ひいてみたら「((英))ではラグビーまたはサッカー」となっている。まあまあだけど、なんでラグビーの方が先なんだろうね。
(まじめな読者のために、お断りしておくと、こういう偏見で単語をひいて辞典のテストをするのは、よろしくないと書いてある)。
「英和辞典のうらおもて」には、ほかにも、サッカー・ファンが読んだらニヤリとするような例が、いくつかあがっているが、それは、本を読んでいただくとして、サッカー用語で、ぼくが一つ、気にしていることを、ここに書いておこう。
いま、日本で使われているサッカーの記録用紙の様式は、ぼくが工夫したもので、3年前のワールドユース大会のとき、外国の記者にほめられた話を、前に書いたことがある。
この用紙の中に「シュート数」という項目があるけど、これを英語に訳したらどうなるのだろうか。
ワールドユースのときに。日本サッカー協会で作った英文の用紙では確かnumber of shotsとなっていて、あまり、ぴったりこない感じがしたことを覚えている。
1966年にイングランドで開かれたワールドカップの報告書に、地元の新聞に載ったシュート数の統計が引用されているが、これには日本のサッカー用語の「シュート」のことをgoal attemptsと表記してあった。
直訳すれば「得点の試み」ということだろうか。こっちの方がぴったりのような気がするが、どうだろうか。忍足先生に教えていただきたいものである。
英語の偉い先生の中にも、サッカー好きの人がいることを知って、うれしくなり、思い出したことを書いてみたしだい。
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