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サッカーマガジン 1981年8月号
ビバ!! サッカー!!

■ジャパン・カップの収穫
森新監督の日本代表チームは良い方向へ歩きはじめた

 郡山の準決勝は見に行けなかったけれども、第1戦のエバートンとの試合(国立競技場)、第2戦の中国との試合を見て「日本代表チームはいい方向に歩きはじめたな」と思った。
 いいと思ったこと――。その一。メンバーの選び方。
 中盤にテクニックのある若い選手を集めていた。これは、今回が初めてではないが、中盤の底に筑波大の風間八宏君を起用したのなんか、出色である。中盤から前線へ出る形で使われた国士館大の柱谷幸一君も良かった。大学生あるいは大学を出たばかりのプレーヤーが、ちゃんと使えるのは、いい傾向である。
 もう一つ。センターフォワードに身長190センチの松浦敏夫君を使ったこと。松浦君は日本リーグの2部の日本鋼管にいるが、2部のチームにもちゃんと目を配ったのは結構だ。松浦君は、背は高いけど、この日本代表の中に入ると、ボールコントロールは、いささか見劣りした。ボールを受けて、大きくはじき、相手にとられてしまった場面が、何度もあった。しかし、このジャパン・カップで勝つためにも、また、将来の日本代表チームのためにも、大型プレーヤーが少なくとも一人は必要である。
 松浦君が将来とも代表選手として活躍するかどうかは、ぼくにはわからないが、大型選手を使いたい、という意思を森監督が明確に示したのは、一つの見識である。
 いいと思ったこと――。その二。メンバーの使い方。
 エバートンとの試合の後半、中盤の軸になっていた読売クラブの戸塚哲也君のプレーが、おかしくなってきた。前半にひざをけられて痛そうだったので、森監督はハーフタイムに「いかんかったら手をあげろ。交代させてやる」といっておいたのだという。
 そのためもあっただろうが、それよりも、強い相手に気をはってプレーし続けていたので、心理的プレッシャーのために、集中力がとぎれてきたようにみえた。
 試合後のインタビューで、森監督に対して、当然、質問が出た。
 「戸塚を後半のなかばに代える気はなかったのか」      
 森監督は、戸塚がひざをけられていた事情を説明し、守りで無理をしなくてすむように、前の方の金田喜稔君とポジションを入れ替えて様子をみたのだと話した。
 「見ていて、よっぽど代えようかと思ったんですけどね。ひざの方はなんとかやれるようだし、これも経験だと思って………」
 正解だと思う。
 けがを無理して、こわしてしまうのは良くないが、心理的プレッシャーの限界に挑戦する経験は、若い戸塚君にとって貴重である。

■ジャパン・カップの問題点
せっかくの好カードを、もっと盛りあげてもらいたい

 ジャパン・カップの1次リーグ、ブルージュ(ベルギー)対インター・ミラノ(イタリア)の試合は、0対0の引き分けだった。
 「ひどい試合だったね。内容のない試合だったね」
 と同僚がいう。
 「ひどい試合だった」という点では、ぼくも、おおむね同意する。だが「内容のない試合だった」という点はどうか。ぼくの意見は、まったく違う。
 A組リーグの試合で、三菱がすでに2敗し、ブルージュとインター・ミラノは、ともに1勝をあげて準決勝進出が決まったあとだった。
 だから両チームにとっては、勝敗はどうでもよいわけである。
 ぼくの見るところ、両方とも明らかに引き分けを狙っていた。わざと負けるのは具合が悪い。といって無理して勝つことはない。「ここは仲良くいこうや」という感じである。
 入場料を払って見に来ているお客さんには、これは納得できない。スリリングな攻め合いを見せてもらいたいが、どうしようもない。そういう点では「ひどい試合」だった。
 「何か対策はないのかね」
 「1試合ごとに、勝った方に1人100万円くらいの賞金を出せば、懸命にやるかもね」
 しかし、賞金を出すことが表ザタになれば、また日本体育協会のお年寄りのアマチュアなんとかが目くじらたてるだろうし、それに、あの観客の入りでは、賞金出そうにも、もとでがないやね。
 この夜、西が丘サッカー場は七分の入り。スタンド両サイドの一般席は、かなりつまっていたが、中央の特別席は、がらがらだった。
 一生懸命やらないで、0対0の引き分けでは、お客が来なくても当たり前――と思われるかもしれないか、それは違う。一般のお客さんに受けるような試合ではなかったけれども、目のこえた通のファンや、自分でボールをけっている人たちには、技術的、戦術的に見どころのある試合だった。
 詳しいことは、このページでは説明しきれないが、ブルージュもインター・ミラノも、これまで日本にはあまりなじみのないタイプのサッカーをするチームであり、こういう外国チーム同士の対戦を見る機会は、なかなかない(結果的には決勝で再び顔を合わせたが)のだから、これは、サッカー通には見のがせない試合である。西が丘サッカー場の収容能力は1万人足らず。東京中に、これくらいのサッカー通はいるはずだ。
 それに、初日の国立競技場もそうだったが、中央の良い席があいているのは良くない。こういう席は協会関係者が、努力して売りさばくようにしてもらいたい。


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