ポーランド戦の収穫
戸塚を軸にして新しい芽を伸ばそうとしたのは正解!
2月1日に東京の国立競技場で行なわれた日本−ポーランドの最終戦のあとの記者会見で、東京12チャンネルの金子アナウンサーが、ポーランドのオブレブスキ監督に、こんな質問をした。
「あなたが、もし、日本代表チームの監督になってくれといわれたらどうしますか?」
オブレブスキ監督は、ニヤッと笑って冗談をいった。
「まず、はい、といいますね」
日本代表チームの監督を引き受けるという意味である。
「なぜなら、日本の選手の一人ひとりはなかなかいい。テクニックがあるし、センスもいい。今度の試合では作戦、特に守リが良くなかったけれども、いい作戦ができるようになれば、強いチームになる。このチームの監督をやれば成功のチャンスが大きいから……」
日本チームの作戦を批判しているくらいだから、必ずしも外交辞令ばかりとは思われない。これは、なかなかの賞め言葉と受けとっていい。
ところで「日本の作戦が良くなかった」というオブレブスキ監督の話は、確かにそのとおりではあるけれども「だから困ったものだ」とは、ぼくは思わない。というのは、川淵三郎監督、森孝慈コーチが、最終戦で特に守りの作戦を工夫しなかったのは、考えあってのことだろうからである。
1月25日の第1戦で、ポーランドの選手の個人的なスピード(走る速さ、状況判断の速さ、ボール扱いの速さ)が決定的に日本と違うことは、明白にわかった。
したがって、最終戦で、あくまで勝ち星にこだわるのであれば、スピードによる攻めを防ぐための守備策をとることは、できたはずである。
しかし日本チームは、そういう守備作戦はとらなかった。
かりに守備策をとっても、2点くらいは失ったかもしれないが、それでも、これがタイトルマッチだったら勝機を求めて守備策をとるのが常道だろう。
しかし、このシリーズは若いチームの強化のためのスタートであってタイトルマッチではない。だから、勝ちにこだわる守備作戦をとることによって、新しいチームがめざしている方向に、わずかながら出かかっている小さな芽を踏みにじってしまっては、なんにもならない。
その小さな芽とは、中盤の戸塚哲也君(読売ク)を軸にした、フレッシュなセンスの攻撃的サッカーであると、ぼくは思う。
川淵監督と森コーチが、最終戦で「絶対に勝て!」と選手たちに気合いを入れながらも、冷静に先を見通した試合をしたのは、逆説的ないい方だが、収獲だったとぼくは考えている。
小松君の幻のゴール
新聞報道では不明確なところもあった名古屋のケース
1月30日に名古屋で行われた日本−ポーランドの第3戦で、高校生の日本代表、小松晃君(西目農高)の“幻のゴール”があった。
ぼくは現場で見ていたわけではなく、新聞記事では不明確なところもあったので、行った人に話を聞いてみた。これはルールと審判の知識を試すには、かっこうの問題だったようだ。
右サイド寄り、ペナルティーエリアのちょっと外側くらいで日本のフリーキックがあり、戸塚君がけった。それを小松君がヘディング・シュートして、ボールはゴールにはいったのだが、主審は得点を認めなかった。つまり“幻のゴール”である。
なぜ認められなかったかというと主審が10ヤードオフ(相手の選手を10ヤード=9メートル15以上離れさせる)を命じているさいちゅうで、まだフリーキックの合図をしていなかったかららしい。
さて「この場合の主審の処置は適切だったかどうかを論ぜよ」というのが“試験問題”である。
フリーキックのときの要件は
@ボールが静止していること
A主審が合図をすること
B相手が10ヤード以上離れること
の三つである。
ただしBの10ヤードオフは、必ずしも必要な要件ではない。相手が10ヤード離れていなくても、主審が合図をすれば攻撃側は、ボールをけることができる。
また、ふつう主審は、すばやく合図をして、フリーキックの遅れによって攻撃側が不利にならないようにするものだ。合図をするのに、笛を吹かなければならないということはない。手でゼスチュアをするだけのことが多い。しかし、攻撃側が10ヤードオフを守らせるように要求すれば、主審は、けるのを待たせて、守りの壁を下がらせる。
ゴール近くのフリーキックの場合に、主審がすぐボールのところにかけ寄って、10ヤードオフを命じているのを、よく見かけるが、これは守備側がフリーキックの妨害をするのを防いで、攻撃側に早くける機会を与えるための処置である。
聞くところによると、名古屋の試合の場合は、攻撃側(日本)の要求で主審が10ヤードオフをさせたが守備側(ポーランド)が、なおフリーキックを妨害したため、警告(イエローカード)を出した。その警告を主審がメモしている間に、戸塚君がボールをけったのだという。
そうであれば、主審がすぐに合図をしなかったのは当然で、合図の前にけったボールのゴールは、もちろん認められない。フリーキックを選手が勝手にけらないように、主審がボールのそばに立ったり、ボールを抑えて指示をすることがある。
ただし、これは審判技術上の問題であって、主審がそうしなかったからといって、勝手にけることを正当化できるわけではない。
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