代表強化に安全弁を
ヤング全日本が失敗したら元も子もない。そこで――
香港のワールドカップ予選に出場した日本代表チーム平均年齢は21.5歳だった。若いねえ。彼らが生まれたとき、ぼくはすでにサッカー記者稼業。「あと20年もしたら日本にもサッカーのプロができて代表チームはワールドカップに出ているだろう」と空想していたものだけど甘かった。世界は進み、日本は遅れ、その差は開くばかりである。
さて、21.5歳の日本代表チームは「ことし1年間に国際試合を30試合、うまくいけば35試合を経験させられる」という川淵三郎強化部長の話である。
ぼくは、このような代表チームの強化策に賛成できない。これは社会主義のいくつかの国でやろうとしてうまくいかなかったやり方である。しかし、日本サッカー協会の強化本部が「これまでと同じことをやってもジリ貧だから、新しいことを」と考えて、思い切って打った手なので当面は温かく見守ってやるほかはなさそうだ。
とはいえ、協会のヤング集中強化法が失敗して、元も子もなくなっては困るから、安全弁を考えておく必要がある。
ヤング集中強化法の一つの欠点は若い素質のある選手が、経験豊かなベテラン選手といっしょに、国際試合をするチャンスを失うことである。
若い者ばかりでバタバタやっているよりも、力のある先輩といっしょに仕事をしたほうが、伸びる人間は伸びるものだが、ヤング全日本には、そのチャンスがない。
そこで、ヤング日本代表に選ばれた選手はしょうがないとしても、それ以外の若いタレントを選んで全日本シニアの中に加えて国際試合のチャンスを与えて、伸ばしてみたらどうか。
つまり、全日本が二つ、あるいは三つできるわけで、正規軍ではない方には「ヤマト」とか「サクラ」とか別名をつけて競争させたら面白い。
もう一つ。
若い選手だけを日本代表に集めたのは、協会の強化部が自分自身で、手づくりでチームを育てるつもりだからだろう。
本来は、これは間違った考えで、選手を育てるのは、選手たちの母体の単独チーム(クラブ)の仕事だと思う。若いタレントを各チームから引き抜いて、協会が育てるのに失敗したら、それこそ元も子もない。
そこで今後は、単独チームが独自でヨーロッパのクラブなみに国際交流をやるのを、どんどん奨励して、各チームが別途に、国際的な選手を育てる道を開いてやる必要がある。
これは、お金のかかることだけれど、協会の財政で、そこまで面倒はみきれないから、そこは各チームの独立採算でやってもらわなければならない。
トヨタ・カップの内幕
ワールド・クラブ・カップ日本開催を思いついたのは?
3年ほど前に、ある大手の広告企業の人と懇談したことがある。話題はサッカーのジャパン・カップのことだった。
「外国のチームが、どうも一生けんめいやってくれない感じなんだ。テレビでみると、ワールドカップではすごい試合やってるのにねえ」
「そりゃ無理だよ。世界一のタイトルがかかっている試合と、シーズンオフに極東の島国に来てやる親善試合と比べるほうがどうかしている」
「それに有名なチームの有名なスターが来てくれないことには……」
「それは毎年来てるじゃないの。ヨーロッパのチームも南米のチームも、それぞれ世界的に名の通った超一流ばかりだよ。ワールドカップで活躍したスターたちも、ちゃんと来ている。みなさんの認識と宣伝が足りないだけじゃないの?」
「でもねえ。外国では知られているかもしれないけど、日本の一般大衆が知ってないとねえ。タイトルを持っているチームを呼ぶとか、日本でタイトルをかけた真剣勝負をするとか、そういうアイデアはないかねえ」
「それはむずかしい問題だな。ヨーロッパや南米タイトルをとったチームは、その次のシーズンには試合のスケジュールが込んでてね。日本に呼ぶひまがない。それにタイトルをかけた試合は、ホームアンドアウェーでやる習慣だしね」
こういう雑談のすえ、ぼくが一つアイデアを出した。
「欧州と南米のチャンピオン同士でやっているワールド・クラブ・カップを一発勝負で、日本に持ってくるというのなら可能性があるかもしれん。お金はかかるだろうけど、いまトラブル続きで、向こうでもうまくやれないでいるときだから……」
「ふーん」
大手広告企業の人は、たいして感心もしないで、聞き流したふうだった。
1年ほど前に、別の広告会社の人が遊びに来て「トヨタ自動車が、○億円ぐらい出して、スポーツのエベントをやりたいという話があるんですよ。広告業界に企画を出させているんですが、なにかアイデアはありませんか」と相談した。
ぼくは、前に話したのは、聞き流されたと思っていたものだから、前のときと同じアイデアを、その人に提供した。
結局、いわゆるワールド・クラブ・カップ(コンチネンタル・カップ)を日本でやろうというアイデアは、二つの広告会社からトヨタに提示されたらしい。
これが、2月11日のトヨタ・カップ、ノッティンガム・フォレスト対ナシオナル・モンテビデオの試合として実現するまでには、さらに複雑ないきさつがあったようだが、ぼくとしては、アイデア発案の名誉を留保しておきたい気持である。
|