モスクワからの便り
意外な国に隠れた天才児がいて面白い五輪のサッカー
モスクワで、この原稿を書いている。日本不在のオリンピックだから仕事はそんなに忙しくないだろう、だから、サッカーをゆっくり見られるだろう、という思惑ははずれて、1試合も見に行くひまがない。
ただ、プレスセンター内の臨時支局にモニターテレビがあって、それでサッカーをちらちらと、のぞくことができる。このテレビは、モスクワ市民のために放映されている番組だけでなく、世界各国向けに送られる画像を自由に選べるようになっているから、その気になれば、どの試合でも、ほとんど見ることができる。ただ、こちらにサッカーのテレビ観戦に専念できる時間がないのは残念である。
ちらちら観戦ではあるが、気のついたことが一つある。それはこれまで、ぼくたちがあまり見る機会のなかった国のサッカーが、意外に面白いということである。
カーター米大統領のボイコット呼びかけのため不参加となったところの穴埋めに繰り上げ出場となったチームが予想以上に面白い。たとえば、南米のベネズエラである。
ベネズエラは1次リーグの第1戦でソ連と当たった。ソ連のチームワークとスピードの前に、はじき飛ばされてしまうだろうと見ていたら、どうして、どうして。ベネズエラの選手の足わざが、ソ連をほんろうしている。
それでいて結局は敗れたのは、いわば自滅である。
最初の失点は、ゴールキーパーがペナルテーエリアのはるか外まで飛び出して、ソ連の逆襲速攻を、身を挺して防いだところから始まった。
身を挺して防いだのはいいが、相手の足もとに頭から飛び込んで手で押えたから当然フリーキックとなった。
前に出ていた味方が戻ってきて守りの壁を作るまで多少時間がかかる。その時間をなんとかして稼いでいなければならないのに、ゴールキーパーは果敢な飛び出しが成功して、ソ連の絶対的なチャンスをつぶしたので有頂天となっていた。
訓練に訓練を積み重ねて来ているソ連チームが、それを見逃すはずはない。
主審の合図があるかないかのうちにフリーキックをけって逆サイドにまわし、簡単にゴールした。
要するにベネズエラには、驚くべき才能をもった選手が、たくさんいるが、チームとしての訓練がなく、国際試合の経験が乏しいようだった。
アフリカのザンビア、中米のキューバあたりにも、足わざのすばらしい選手がいて、局地戦ではサッカー先進国をきりきり舞いさせている。
世界の至るところに隠れた天才児がいるところが面白いし、チームとしては間の抜けたところがあるのもユーモラスで面白い。
名古屋88の準備を
有力になったオリンピック開催。だが準備には不安が
オリンピックの前に、モスクワで国際オリンピック委員会(IOC)の総会があった。ここで1988年のオリンピック開催地として、名古屋が最有力であることがわかった。1988年大会の開催地は来年9月西ドイツのバーデンバーデンで開かれるIOC総会で決めることとなったが、さし当たり強力なライバルはなさそうである。
さて、そうなると心配なのは、名古屋の準備、特にサッカーについての準備である。
開催地に立候補するに当たって、名古屋は準備計画書をつけてIOCに届け出なければならない。その期限は来年3月である。そのためにはことし中ぐらいには計画書ができ上かっていなければならない。
これには予算が伴うから政府などの了解を得るため、いまごろはすでに大筋の計画はできているはずである。それについて日本サッカー協会は相談にあずかっているのだろうか。いささか心配である。
名古屋オリンピックは、名古屋市だけでなく、岐阜、三重、それに場合によっては静岡県の西部(浜松)にまたがる広域開催になる予定である。これまでのオリンピックでも、サッカーだけは広域開催となっていたから、名古屋では当然、サッカー場が分散することになるだろう。
しかし、ぼくの考えではあまり多くの都市に分散するのは、得策でない。運営に支障を来たして不便なだけである。
モスクワ大会では、モスクワ市内にレーニン中央競技場とディナモ・スタジアムの2会場、地方ではキエフ、ミンスク、レニングラードの3都市でサッカーが行われた。これが非常な成功で、体操やバレーボールの体育館ですら空席があるのに、サッカー会場は連日超満員である。入場料収入にも大きく貢献していることは間違いない。
名古屋五輪のサッカーも、メーンスタジアムの他に名古屋市内に専用競技場が一つ、岐阜、四日市、浜松に一つずつ。これで充分である。
問題は一つ一つの競技場をコンパクトに、お客さんが試合を見やすいように造る(あるいは改修する)ことだ。東京オリンピックのときのサッカー会場は、その点でどの会場も失敗だった。見てくれのかっこうはいいが、雨の多い国なのにスタンドに屋根がなく、当時はナイター設備もつけてなかったから、その後の利用の効率が悪かった。
名古屋大会では、そんなことのないようにしてほしいが、それにつけても名古屋の関係者が誰もモスクワを見に来ていないのは残念だ。
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