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サッカーマガジン 1980年8月10日号

ビバ!! サッカー!!

モスクワ五輪展望
ボイコット騒ぎでも、サッカーのレベルは劣らない!

 勤務先の新聞社の特派員として、モスクワ・オリンピックの取材に行くことになった。
 「なんだ、日本の選手団は参加しないのに、新聞社は参加するのか?」
 と友人が、からかう。
 「日の丸のないオリンピックが、どんなものであるかを読者に知らせるのも重要な仕事だ」
 と、これはぼくのへ理屈。本当はせっかく出かけても働きがいがなくて内心寂しい思いをするだろうと、覚悟しているが「その代わり、ひまだから、モスクワ・オリンピックのサッカーを、できるだけ見てくるんだ」と友人には答えておいた。
 4年前のモントリオール・オリンピックに行ったときは、目がまわるように忙しくて、サッカーは、確か準決勝1試合を、ちらっとのぞいただけだったが、今度は、少しはじっくり見られるんじゃないかと思っている。
 いわゆるボイコット騒ぎで、モスクワ・オリンピックの競技レベルは低下するだろうという人がいるけれども、サッカーに関しては、そんなことはない。
 各地の予選を経て出場権を得た国の中から、半数の7カ国が不参加になったから、数の上では影響が大きいように思われるが、この7カ国の代わりに、それぞれ他の国が繰り上げ出場になって、地元のソ連と前回優勝の東ドイツを加えて16チームがちゃんとそろった。しかも、一つ一つを比べてみると、新たに加えられたチームが、不参加チームより劣るとは決して言えない。やはり、サッカーは世界のスポーツ、大衆のスポーツ。層が厚いからアマチュア・レベルでは各国実力伯仲である。
 オリンピックにはプロは出られないから、いつの大会でも社会主義国が上位を占める。前回は東ドイツとポーランドが決勝を争った。今回も地元のソ連を中心に、東ドイツ、ユーゴスラビア、チェコスロバキアが進出するだろう。
 ただし、今回は社会主義国でもワールドカップの試合(予選を含む)に出場した選手は、オリンピックには出られない。したがって、社会主義国の側からはワールドカップのスーパースターが出て来て、西側のユースを相手にするような、おとなげないことはなくなる。ネームバリューでは劣るが、未来のスター同士の活気ある試合が増えるだろう。昨年日本で開かれたワールドユースに出場した選手たちの成長した姿が見られるのではないか。ソ連、スペイン、アルジェリア、ユーゴの顔ぶれが楽しみである。
 もう一つ、キューバの試合ぶりものぞいてみたい。革命後、野球好きになったといわれている国だが、ラテン系の民族だから、サッカーのほうにも、向いているはずである。

少年サッカー変革期
多くのタイプのチームが競い合うところに面白さが…

 モスクワに行くについて、一つだけ心残りなことがある。
 それは、全日本少年サッカー大会の決勝大会を、ことしは見られないことである。7月28日から8月2日までだから、オリンピックの後半と完全に重なってしまう。
 夏の暑い盛りに、緑さわやかな東京郊外の“よみうりランド”に泊まりこんで、少年たちの元気いっぱいのプレーにつき合う。これは近年の夏の楽しみの一つだった。残念ながら、ことしは、それができない。
 しかも、ことしの大会は、これまで以上に面白くなりそうな徴候が出ている。どうも、日本の少年サッカーに変革期が来つつあるようにも、思われるのだが、この大事な時期の大会を見落とすのは、大きな損をするような気持である。
 ことしの全日本少年サッカー大会には3812チームが参加した。昨年より448チームの増である。まだ、増え方はもの足りないと思うが、それでも毎年増加の一途をたどっているのは喜ばしい。
 東京は128チームで、前年より34チームの増である。人口の割合からみれば、他の府県に比べて少ないが。この数年間のチームの増え方は爆発的だ。
 さて、この128チームが参加した東京都大会でベスト4に残ったチームは、それぞれ違うタイプだった。
 小金井SSは、東京近郊の小金井市の第三小学校と第四小学校の連合クラブである。あまり少年サッカーが盛んでなかった市から、地域単位のクラブが育ってきたのがいい。
 梨花サッカー・スポーツ少年団は幼稚園でサッカーをやった子供たちのチームだという。何年か前に、幼稚園の園児にサッカーをやらせているという話が新聞に載ったことがあったけれど、その園児たちが、もう小学校の高学年にまで育ったのだろうか。
 FC町田は、東京でもっとも少年サッカーが盛んな町田市の“選抜FC”だ。町田市には、町田SSSなど小学校単位のサッカー少年団がたくさんあるが、静岡の清水FCの成功に刺激されて、昨年、各小学校の素質のありそうな子供たちを集めて別に一つのクラブをつくった。そのチームである。
 東京都で優勝したのは、鹿西レグルスだ。これは足立区の鹿浜西小学校の先生が育てている少年団で、単一の小学校の児童ばかりで構成している。
 このように、いろいろなタイプが混じり合って競っている。そこに変革期の少年サッカーの問題点もあるし面白さもある、とぼくは思う。


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