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サッカーマガジン 1980年7月25日号

ビバ!! サッカー!!

埼玉選抜、ばんざい
オールド全日本のメンバーで、ワンダラーズに快勝!

 この前の号に「日本のサッカーには、ビバ! と言える材料がない」というような意見のことを書いたけれど、ここに喜んで訂正したい。というのは、あの号の原稿締め切り後に見たヤング全日本のプレーぶりが良かったからである。
 ジャパン・カップでの、新しい日本代表チームの第1戦を、ぼくは海外出張中のため見ることができなかった。そのために、前号の『ビバ!サッカー!』では、取り上げなかったのだが、6月1日に大宮で行われたエスパニョールとの0−0の試合を見て「この顔ぶれは悪くない」と思った。少しでもビバなところがあれば、悪口をいう前に、そこんところを取り上げたいものである。
 ヤング全日本の良かった点については、この前の号でも、他の方がいろいろ論評していたので、ここで詳しくは繰り返さない。ただ「テクニックとセンスのある選手を選ぶ」ことからスタートした点を評価しておきたい。
 新しい全日本のほうが、前の全日本より良いとか、強いとかいうつもりはない。新しい全日本は、まだスタートしたばかりで、メンバーもこれからどんどん変わるだろうし、チームとしても、まだまとまっていない。
 ヤング全日本が中国に遠征したあと、イギリスのミドルセックス・ワンダラーズが来て、6月11日に大宮で埼玉選抜と試合をした。埼玉選抜といっても、埼玉リーグ登録チームからの選抜ではなく、埼玉県出身選手のオールスターズで、落合(三菱)、永井(古河)、斉藤和(三菱)などオールド全日本の代表が顔を並べている。
 この試合も、ぼくは他の仕事があって見に行けなかったのだが、取材に行く同僚に、助言をした。
 「この埼玉選抜は、ちょっと強いと思うよ。ヤング全日本より強いんじゃないか。ひょっとしたらミドルセックス・ワンダラーズに勝つかもしれないから、そのつもりで見ていたほうがいいよ」
 おお! すばらしい目の確かさ! 洞察力の鋭さ!
 3−2で埼玉選抜が勝ったという結果を見て、ぼくの低い鼻が、せいいっぱい背伸びをして、うごめいた。
 埼玉選抜の落合君にしろ、永井君にしろ、みなすぐれたテクニックとセンスの持ち主である。気の合った仲間同士で、のびのびとプレーできれば、真剣勝負のタイトルマッチではないだけに、いい試合ができるのではないかと、ぼくは予想し、それが結果としては的中したのだった。
 ヤングだけを集めた新生全日本にあれほど技術のある選手がそろい、埼玉県出身者だけを集めたチームであれぐらいの試合ができる。日本のサッカーの層も厚くなったものである――あと足りないものは? それを考えなくてはいけない。

モスクワ五輪不参加
弱い日本のサッカーは出場しないのが当たり前だ

 日本オリンピック委員会(JOC)が「モスクワ不参加」を決める前に日本にいるソ連の人から「日本のサッカーは、モスクワ・オリンピックに参加しますか?」ときかれた。
 「参加しないと思いますよ。しかし、それは政治的理由によるものではありません」
 「どうして?」
 「日本のサッカーは、オリンピックのレベルに達していません。弱いチームはオリンピックに出るべきじゃないし、実際に日本は出ないだろうと思います」
 実は、この質問を受けたとき、日本のサッカーには出場権があった。
 ご承知のように、モスクワ・オリンピックのアジア予選第3組で、日本は、マレーシア、韓国についで3位に終わり、出場権を得られなかったのだが。マレーシアが権利を放棄し、韓国も繰り上げを辞退したので、日本が3番手から繰り上がって権利を与えられていた。5月15日にモスクワで行われた組み合わせ抽選会で、日本は東ドイツと同じCグループにはいり、キエフで試合をすることが決まっていた。
 しかし、その時点での、ぼくの見通しでは、日本オリンピック委員会がモスクワに選手団を派遣する可能性は、ほとんどなかった。
 昨年12月の、アフガニスタンに対するソ連軍の軍事介入に対する報復として、カーター米大統領がモスクワ・ボイコットを世界に呼びかけ、日本政府も、アメリカからの圧力を受けて、JOCに「不参加」を強く要求していた。JOCが、それをあくまではね返せるような状況ではなかったからである。
 かりにJOCが参加を決めたとしても、政府は国庫と競輪などの補助金約1億5千万円を打ち切ると言っていたから、選手団の規模を縮小するほかはなかった。そうなれば、アジア予選3位の弱いチームが、仲間に入れてもらえないのは、目に見えている。
 実際には「縮小参加」も無理で、競技団体がJOCを通さないで直接参加を申し込む「個別参加」だけがわずかに残された道であるように思われた。結果としては、それも甘い見通しで「個別参加」は認められなかった。
 しかし、かりに「個別参加」が可能であったにしても、それを利用できるのは、女子バレーボール、柔道、レスリングなどの金メダル候補組だけで、弱いサッカーは論外だっただろう。
 そういう状況だったから、予選3位に終わった時点で、日本サッカー協会は、すっぱりモスクワをあきらめてほしかった。「出場権を留保する」なんて言わないでほしかった。
 どうせ行かれないのだから、政治的問題に巻き込まれるのは避けて、実力で次の機会をねらったほうが賢明だと、ぼくは思ったわけである。


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