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サッカーマガジン 1980年6月25日号

ビバ!! サッカー!!

もう一度、釜本賛歌
中盤でスペースを作り出した見事な頭脳的プレー

 この前の号に続いて、もう一度、すばらしい釜本について書かせてもらうことにする。
 この前は「生まれながらのストライカー」としての釜本のすばらしさを書いたが、今シーズンの釜本は、自分が点をとるだけでなく、後輩が点をとるための、おぜん立てでも、すばらしいプレーをみせている。その一つの例を5月1日に、横浜三ツ沢球技場で見た。
 ヤンマー対日産自動車の試合で、ヤンマーは日産のがんばりに手こずって意外に苦戦した。
 釜本をマークした日産のストッパーは、この3月に室蘭大谷高を出たばかりの新人の野上誠司君である。初めての大役で無我夢中だったのだろう。体当たりしたり、思わず手で押したり引っぱったり、かなり乱暴な守り方のように、記者席からは見えた。この勇ましい新人の密着マークに、釜本が相当に手を焼いたのは事実である。前半の釜本のシュート数は3本。そして、得点は0−0だった。
 均衡が破れたのは、後半もなかばを過ぎた74分である。右サイドの後方でヤンマーがボールを奪った。
 ヤンマーの選手たちが、いっせいに反撃に出る。ボールは右ラインぞいに出た上西に渡った。そのとき、釜本はハーフラインより後方に下がっていた。密着マークの野上君は、もちろん、くっついて前に出ていた。上西が右サイドを攻め上がる。今村、堀井もゴールへ向かってダッシュする。ストッパーの野上君も、ゴールを守るために戻らなければならない。
 そのとき、釜本だけは、ハーフラインの近くで、味方の攻め上がりをよそに、ぶらりと突っ立っていた。そのために、釜本の前に大きなスペースがぽっかりあいた。
 そこでボールは釜本のところへ戻った。釜本が前にあいたスペースをドリブルする。日産バックがあわてて寄ってくる。ボールは上西−堀井−上西とまわって決勝点となった。
 記者席に割り込んで観戦していたフジタの石井監督が
 「釜本に、あんなにスペースを与えちゃあ、やられるよ」と批評した。
 ぼくの見たところ、日産の守りが釜本にスペースを与えた、というよりも、ハーフラインで一瞬、立ち止まった釜本のさりげない動きが、スペースを作り出したというところである。

渡辺全日本の前途
モスクワ予選敗退の責任をうやむやにした新体制

 「いつも偉そうなことを書いとるが……」と友人がいう。「あまり視聴率は良くないようだな」
 「どうして?」
 「この間、日本サッカー協会の平木技術委員長の進退をどうのこうのと書いていたが、どうも、さっぱり反応はなかったじゃないか」
 話というのは、モスクワ・オリンピック予選で負けた日本代表チーム首脳陣の責任問題である。
 ぼくの意見は、監督、コーチの責任は別として、平木技術委員長は辞任すべきだ、というものだった。
 ところが、5月15日に発表された新体制をみると、平木氏は辞任するどころか、新たに強化副本部長に就任し、いよいよ“新しい協会の実力者”という感じである。友人が「お前の書いたものは読まれとらんな」とからかうのは、そのためである。
 しかし、これは友人が間違っているので、ぼくは自分の意見を自由に述べる権利があり、幸いにしてジャーナリストとして、その機会が与えられている。一方、サッカー協会にしろ、平木氏にしろ、ぼくの意見に従う義務はまったくない。ぼくは、書いたものが協会と読者の参考になればと、思うだけである。
 ところで、平木氏が技術委員長を辞任しなかったことについては、ぼくは、おかしいとは思っていない。
 というのは、協会はその後、組織変えをすることを発表し、代表チーム強化の仕事を技術委員会から切り離し、新たに強化本部を設けることを決めていたからである。
 そうなれば、新しい技術委員会は代表チームの強化と直接の関係はなくなり、普及面での技術指導の部門を、もっぱら引き受けることになるはずである。       
 平木氏は、この部門に特に情熱を注いでいたように見えたので、強化の責任から離れて、この仕事に、専念すれば、大いに成果が期待できるかもしれない、と思う。
 ところが、新しくできた強化本部の副本部長にも、平木氏が就任したので、ぼくは大いに驚いた。
 これでは、本質的に何も変わらないではないか。技術委員会と強化本部を分けた意味がないではないか。機構を複雑にし、ポストを多くしたのは、かえってマイナスである。
 日本代表チームの渡辺新監督の上には、川淵強化部長がいる。その上に平木副本部長がいる。さらにその上に、島田本部長(協会副会長)がいる。しゅうと、こじゅうとが多くなるのではないかと不安だし、平木副本部員が“法王”になって“院政”をしく結果にならないかと心配だ。
 渡辺全日本の前途は、多難だろうと、ぼくは思う。


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