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サッカーマガジン 1980年6月10日号

ビバ!! サッカー!!

すばらしい釜本!
90分間ゴールをねらう、生まれながらのストライカー 

 4月27日に東京の西が丘サッカー場で行われた読売クラブとヤンマーの試合は、最近の日本リーグでは珍しい好試合だった。この試合が数万人の観衆で埋まったスタンドに囲まれて、とどろくような歓声の中で行われたら、ヨーロッパや南米のサッカーと同じくらいのスリルと興奮を味わうことが、できただろうと思う。
 なんたって、すばらしかったのは釜本だ。
 「絶対!」と思われた、みごとなシュートが、少なくとも3本あった。そのうちの2本は、読売クラブのゴールキーパー高田の好守によって止められ、もう1本はクロスバーに当たった。
 そして最後に、手もとの時計では90分を過ぎ、負傷者の手当てなどでロスした時間を主審がみて試合時間を延ばしている間に、決勝点がはいった。
 残り時間がほとんどないときに、バックをかわし、ゴールキーパーをかわして、確実にゴールをねらう。そのボールコントロール、その落ち着き。しびれたねえ。
 「釜本は、ゴールをねらってシュートするんだ。だからはいるんだ」
 と、ぼくが友人にいった。 
 「誰だって、シュートのときにはゴールをねらうんだろ?」
 と友人が反論した。
 「シュートのときは、ゴールをねらうさ。平凡な選手はね。シュートすべきときに、ボールをもらう。ボールが来たらゴールをねらう」
 「釜本は、そうじゃないのか」
 「釜本は違う。いつもゴールをねらっている。ボールをもらう前からゴールをねらっている。だからボールが来たからって、あわてない」
 「へ理屈いうなよ」
 へ理屈じゃないんだけどな。わかってもらえないかなあ。
 ごく、ごく単純にいえば、釜本は生まれながらのストライカーだ。いつでも、点をとることを考えていればいいんだ。
 こっちは年だから、つい古い話を思い出す。
 京都の山城高のエースとして、全国高校選手権大会に出て来たとき、前線にぶらぶらしていて、チャンスになりそうなときだけ走るものだから、役員席での評判は、その点では概して良くなかった。 しかし、試合時間中フルに走りまわっていては、ゴールをねらうことを忘れてしまうものである。        
 メキシコ・オリンピックで得点王になったときには、クラーマーさんから「前のほうにいて、ゴールをねらうことだけ考えてろ」と特別に指示が出ていたそうである。
 いま、監督兼プレーヤー。勝つためには、自分が点をとらなければならない。しかし、36歳だから若い選手といっしょに90分間走りまわるのは無理である。
 そこで、走りまわるのは諦めてゴールをねらうことだけを考えるようにしてるんじゃないか。だから、あんなにすばらしいシュートが、できるんじゃないか――とぼくは思う。

日本リーグのPR
思いつきのアイデアで、基本的問題をごまかすな!

 日本リーグに広報企画委員会なるものができて、その委員会のアイデアで、おかしなことをやっている。
 試合を見に来てくださったお客さま先着何名様に選手のサイン入り色紙をプレゼント、ご希望の選手との記念撮影に応じます、といったたぐいのことである。
 「新聞社の皆さまにも、ぜひPRに、ご協力をお願いします」
 と丁重にあいさつされたけど、応対に窮しちゃった。というのは、ぼくは、広報企画委員会なるもののあり方にも、そのアイデアにもまるで不賛成で、協力する気になれないからである。
 ただ、その熱意と善意は、ひしひしとわかるので、ただ、あいまいに「はあ」と返事するしかなかった。
 誤解されないようにお断わりしておくが、選手にサインさせたり、ファンと記念撮影させたりすることが、アマチュアリズムに反するとか、スターシステムでけしからんとか、というつもりはない。
 選手たちは、少年たちにサインを求められたら、事情の許すかぎり、気持よく応じてやってほしいと思う。
 「いっしょに写真撮らせてください」
 と頼まれて、仲よくファインダーに納まるのも結構である。
 しかし、そういうことは、サッカーを盛んにするための、選手個人の心がけの問題である。早く来た人だけにサービスするというアイデアそのものが、ちょっと狂っている。
 もっといけないのは、こういった思いつきのアイデアでごまかして、基本的な問題を放置していることだ。広報企画委員会のねらいは、観客動員にあると思うが、お客さんが来てもらえるようなサッカーをするためには、リーグの運営組織そのものを変えなければダメである。
 たまたま、電車の中で「日本サッカー狂会」の幹事の1人である池原謙一郎氏に会ったので、この件について苦情を申し立てた。池原氏は、この広報企画委員会のメンバーだからである。筑波大学の先生で、国際的に有名な造園家である池原氏は、温厚な人だから、すぐカッとなる新聞記者をもてあまして苦笑いした。
 「いやあ、私も少し抜本的な対策が必要だと思いましてね。考えを述べたんですが、あまり高級なことをいわれては困るといわれまして……」
 池原氏は、あとで、ちゃんとプリントしたご自身の提案を届けてくださった。その内容は、もちろん単なる思いつきではなく、小手先だけのごまかしでもなかった。しかし、これは、日本リーグ広報企画委員会では検討してもらえなかった提案のようだ。たいして学識も経験もない人物の思いつきだけが採用されるようでは困ったものである。


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