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サッカーマガジン 1980年5月25日号

ビバ!! サッカー!!

技術委員長はどうする
モスクワ予選敗退による二宮前監督への道義的責任!

 「ビバ!サッカー!だなんて年がいもなく若者にこびてるみたいで、みっともないぞ。前みたいに、いやみたらしく悪口を書いているのが分相応である――」
 良薬は口に苦く、忠言は耳に痛しだね。友人の忠告に従って、また少し悪態をつくことにする。
 クアラルンプールのモスクワ・オリンピック予選で、わが日本代表チームは、宿敵韓国に勝てなかった。優勝したマレーシアに引き分けたのがわずかに救いだと思ってたら、聞くところによると、このときマレーシアは、メンバーを落としてたんだってね。救いがないなあ。ビバ!サッカー!どころではない。
 そこで悪口屋としては、「監督、コーチの責任問題だ」とわめかなければならないところだけれど、今回はちょっと事情が違う。
 というのは、下村監督、渡辺コーチは、敗色濃しとみたベンチが1年前に急ぎ送り込んだピンチヒッターだからである。ピンチヒッターが逆転ホーマーを打てなかったからって責任を追及するのは酷である。代打者はあくまで代打者で、レギュラーの4番バッターではない。
 それでは、本来レギュラーだった二宮前監督の責任かというと、もちろん、そんなことはない。
 4番打者二宮は9回裹まで、がんばるつもりだったのだが、オープン戦で三振したために、公式戦では打席にはいる前に引っこめられてしまったのだ。チャンスを奪っておいて責任だけ追及されてはかなわない。
 「それじゃあ、だれにも責任はないのかヨ。納得できねえなあ」
 愛国心に富む友人が口をとがらせた。
 「おれは、日本サッカー協会の会長以下、全役員に総辞職してもらいたい気持だね」
 ごもっとも。気持はよくわかる。
 「うん、ぼくも技術委員長は、辞めるべきだと思うね」
 現在、日本協会のあらゆる仕事を背負って奮闘している平木隆三技術委員長の顔を思い浮かべると、こういうことを書くのは非常に辛い。
 しかし、モスクワ予選を9カ月後に控えて(当時の予定では予選は10月だった)二宮寛監督に辞任を求めたとき、直接の責任者である技術委員長として「この敵前旋回が成功しなかったときの責任は自分がとる」とハラをくくっていたはずである。そうでなければ、男でない。
 1年前、二宮監督はアジア大会で振るわなかった責任をとり自ら辞任した。しかし、自発的辞任は表向きであって、モスクワまでやるつもりだった二宮監督が、断腸の思いで辞めたことは、明らかだと思う。
 あの時点で、日本代表チームの監督を交代させたのは、理由のある決断だった。ぼくが技術委員長でも、そうしたかもしれない。
 それでも、結果が悪かったとき責任をとるのは、二宮前監督に対する道義の問題だと、ぼくは思う。

水口洋次君、がんばれ
松下電器のサッカーが、スタートで直面したトラブル

 正月の高校サッカー選手権のときのことである。都内のホテルに泊まり込んでいたら、朝、食堂で水口洋次氏に、ばったりあった。
 暮れの天皇杯を最後に、ヤンマークラブが廃部になる、というニュースが流れて間もなくだったから、さっそくきいてみた。
 「天皇杯じゃ、せっかくいい試合をしたのに、チームがなくなるのは残念だね」
 「ええ、これが最後だっていうので選手たちも、がんばってくれました」
 「選手たちの処遇は決まったの?」
 「いや、若手は1軍のヤンマーディーゼルに上げてもらえるらしいんですけど、その他は結局サッカーをやめて仕事に専念ということでしょうね。まだだれが1軍に上げてもらえるのかは決まってないんです」
 「監督の君は、どうするの、円満退社できそうなの?」
 「うーむ。むにゃ、むにゃ」
 当時、水口氏は口をつぐんで何もいわなかっだけれど、ぼくたち一部のマスコミ関係者は、大手電器メーカーの松下電器が、サッカーに乗り出そうとしていること、ヤンマークラブの廃部を知って、水口氏を新チームの監督に引っぱり出そうとしていることを、すでにかぎつけていた。
 それをすっぱ抜かなかったのは、新聞に出たために話がこわれて、ニュースがニュースでなくなることをおそれたためである。
 2月になって、ヤンマーの1軍に上がる選手が決まったあとも「松下がサッカーに進出」というニュースは、なかなか記事にならなかった。
 1軍に上げてもらえなかった選手たちを連れて水口監督が松下に移ることに、ヤンマー側が、なかなかうんといわない、という話だった。
 第三者であるぼくたちは、ヘタに記事にして話をぶちこわし、あちこちを傷つけるのは本意でない。ヤンマーと松下の間で、円満に話をつけてほしい気持だった。
 そのうちに、もう一つ、別の問題がうまくいかない、というウワサが流れてきた。
 それは、松下電器が新チームを作っても、出場するリーグが決まらないという問題である。本社のある大阪の社会人リーグ2部に、松下系の会社チームがあるので、そのチームを母体にしようとしたのだが、反対する人がいるということだった。
 大阪リーグは5部まであるから、新チームとして登録加入すると、目標の日本リーグ1部入りには、とんとん拍子にいっても、関西リーグ、日本リーグ2部を経て8年かかる。気の遠くなるような話である。
 あれやこれやで、サッカー担当記者が記事にするのを見送っているうちに、このニュースは、4月7日付けの日本経済新聞に出てしまった。
 選手の移籍について規則や慣例がしっかりしていないこと、リーグの組織が不合理なことなどを、この間のいきさつは示している。
 ともあれ、スタートの困難を乗り越えて、水口監督がいいチームを育ててくれるよう祈りたい。


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