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サッカーマガジン 1980年5月10日号

ビバ!! サッカー!!

高校選抜チーム万歳!
ヤングスターたちよ!より高い世界を目指せ!

 正月の全国高校選手権の優秀選手で編成した「日本高校選抜チーム」が、ヨーロッパに遠征した。出発前に、その壮行会が、東京の日本テレビ放送網のビル内で開かれたんだけど、壮行会が終わって、ビルの玄関を出たとたん、びっくりしたなあ、もう。女子中学生が30人くらい、玄関の前に、たむろしているのダ。
 三浦友和か郷ひろみでも待っているのかと思ったら、そうじゃないんだよね、これが。みんなサッカーの選手たちを待っているのデース。
 「それぐらいで、驚いてるようじゃ古いぞ。千葉の検見川で合宿してるときは、日曜日には100人ぐらい来てたぞ」
 2年連続、ヨーロッパ遠征選手団の団長を務める松浦利夫先生の話。
 「ちゃらちゃらするなッて、一喝すればいいのに」
 「いや、おれは、やさしいから、そういうことはしないんだ。サッカーが好きな女子生徒が増えて、ありがたいことだと思ってるんだ」
 松浦団長は、高校体育連盟(略してコータイレン)の長老で、なかなかコワーイ先生だというウワサもチラホラなんだけどね。意外に、さばけたとこがあるらしい。
 学校の先生には、堅いご仁も多くてヒーローやヒロインのインタビューにいくと「特定の個人をスター扱いにしないでくださいッ」 と一喝されることがある。     
 そんなわけで、名取篤君や川添孝一君がスター扱いで、女の子に「キャーッ」と騒がれても、平然としていられる松浦団長や帝京高の古沼監督は、たいしたものだと思った。
 「うちの生徒は、それぐらいのことでテングになったり、ちゃらちゃらしたりはしない」
 と自分の指導力に自信がなければ、できないことだ。先生のプロだったら、当然のことかもしれないけど――。
 杉山、釜本、がヒーローだったころに、あるコーチが、こんな話をしていた。
 「杉山や釜本は、日本でいくらスター扱いされても、テングになる心配はないんだ」
 「どうして?」
 「なにしろ、毎年のようにヨーロッパ遠征しているからね。向こうには、自分たちくらいのプロの予備軍が、わんさといることを身にしみて知っている」
 名取篤君や川添孝一君が、ヨーロッパのサッカーを見て、さらに高い世界を目指す気持で帰ってきてもらいたいと思う。

外人コーチの利点
クアラルンプールに集まった3人の外人監督の横顔!

 クアラルンプールで開かれたモスクワ・オリンピック予選(アジア第2組)に出場した6カ国のうち、3カ国の監督は、外人である。
 マレーシアのカールハインツ・バイガング監督は西ドイツ出身で、以前は南ベトナムのコーチだった。もともと、技師としてアジアに来たのだが、サッカーをコーチして成功したので、いったん西ドイツへ帰ってコーチの勉強をして、アジアへ舞い戻って来たのだという話だ。
 今回のモスクワ・オリンピック予選でのマレーシアの試合ぶりを見ると、なかなかの手腕家であることがわかる。
 インドネシアのフランス・ファン・バルコム監督は、読売クラブが日本リーグ2部にいたころ監督だった。読売クラブを2部で優勝させたのは彼である。      
 読売クラブを辞任して香港のナショナル・チームの監督になり、シンガポールで開かれた前回のワールドカップ予選(アジアのサブグループ)で香港を優勝させて名をあげた。その後、イランのクラブチームに行ったという話だったから、革命の混乱でどうしているかと思っていたら、ちゃっかりインドネシアの監督になっているのには驚いた。オランダ人だが、コーチとしての勉強は、西ドイツでしている。
 もう1人、フィリピンのベルナード・ズゴル監督も西ドイツ出身である。
 フィリピンは、今回のモスクワ予選の直前に、いったん参加を取り消して開催国のマレーシアをあわてさせた。
 これは、フィリピン・オリンピック委員会の1人の副委員長が、予選参加に必要な書類にサインしなかったために起きた騒ぎだった。
 この副委員長は「レベルの低いスポーツは国際競技会に出るなというのがマルコス大統領の方針である」とがんばったらしい。結局フィリピン・オリンピック委員会は臨時総会を開いて、この副委員長の決定をひっくり返した。
 この件についてズゴル監督の感想は「あれは1人の人物をめぐる内紛だよ」というものだったと、外電が伝えている。
 外人監督のいい点は、こういう国内の内紛や過去のいきがかりに超然として、チームづくりに専念できることである。
 日本でも、外人コーチの輸入をまた考えてみてもいいと思う。


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