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サッカーマガジン 1980年3月25日号

時評 サッカージャーナル

サッカー後援会の実態

ファン・クラブではない
 正月の高校選手権決勝戦の日に千駄ヶ谷の駅から国立競技場に向かっていたら、前のほうを古河の金子久選手が歩いていた。あの巨体だから、すぐわかる。
 国立競技場で、金子君は日本サッカー後援会の窓口に向かった。ここで会員証を見せて入場券をもらう。しかし、そのまま入場口のほうには行かずに、正面スタンド裏で試合前のウォーミング・アップをしていた帝京高のところに行って、古沼監督にあいさつをした。
 金子君は、2年前に、帝京高が優勝したときのキャプテンだからこれは当たり前である。
 「ふーん」
 と、ぼくは感心した。
 なにに感心したかというと、社会人になって、まだ2年目の金子君が「日本サッカー後援会」に、ちゃんと入会していることに、感心したのである。
 その後、日本サッカーリーグ2部の総務主事をしている田辺製薬の芳賀研二さんに聞いたところによると、古河電工のサッカー部では、部員全員が後援会にはいっているのだという。
 芳賀さんは、日本サッカーリーグの加盟チーム全部に通達を出して、選手たちに後援会入りを勧めるように要望するのだと、いっていた。
 「日本サッカー後援会には、サッカーの選手、というよりも、まず、かつて選手だった人たちにはいってほしいですね」
 これは、なかなかいい話だと思う。
 日本サッカー後援会を、ファンのための会だと思っている人が多いんじゃないか、だから、学生のころに自分でボールをけったことのあるような人は、案外、入会してないんじゃないか――そんなふうな気がしていて、そうだとすれば後援会のあり方は間違っている、と、かねがね思っていたから、金子君が、後援会にはいっていることにも、芳賀さんの意見にも、感心したわけである。
 後援会が、ファンの会だという印象を与えるのは、年間1万円の会費で入会したら、サッカーの試合がタダで見られるというPRをしているからである。
 それに会員証のカードを見たら表に横文字で「ジャパン・サッカー・サポーターズ・クラブ」と書いてある。イギリスでは、アーセナルやスパーズのファンの会を、それぞれのクラブの「サポーターズ・クラブ」と称している。これでは、ファン・クラブと思われるのも無理はない。
 ファン・クラブだったら、ファンのために、サービスをしなければならない。カレンダーを作って送ったり、スター選手を招いてファンの集いを開いたりしなければならない。それをしないから、バカバカしくなって、退会する人もいるという話を聞いたことがある。
 しかし、もともと、日本サッカー後援会は、そういう趣旨で設立されたものではない。
 これは、日本サッカー協会の財政難を救うためにつくられた団体で、いわば「金集め」の手段である。集めたお金は、日本サッカー協会に渡り、日本代表チームの強化などに使われる。
 そういうわけだから、年間1万円の会費は、日本サッカー協会に対する「寄付」のようなものだと思う。
 寄付だとすれば、見返りを期待するのは間違っている。
 国際試合のとき、後援会員の席の場所が悪いという不満を聞いたことがあるが、ぼくにいわせれば、会員になれば、入場無料というのが間違っている。

会員は2500人
 と、まあ、こんな具合に考えていたのだが、最近届いた日本サッカー協会の機関誌「サッカー」の最新号を眺めていて、ぼくの考えにはちょっとカン違いのあることに気がついた。
 協会の機関誌は、後援会の会員になると無料で送ってくる。これも特典の一つである。
 この雑誌に、後援会の会員の名が8ページにわたって、ずらりと載っている。個人会員が約2500人、法人会員が約160社。サッカーの普及度の割には少ないと思う人もいるだろうが、ぼくはスポーツ記者として、他のスポーツの、この種の会の実態をいくらか知っているから、これは悪くない数字だと思う。ただし、この数字が、この年度限りのものでなく、ずっと続くとすればの話である。
 さて、2500人の名前を眺めてみて、会員の多くは、やはりサッカーマンであることに気がついた。
 金子久君の名前は、神奈川県のところに載っていた。そのあとに石井茂巳、清雲栄純、前田秀樹……と古河電工の選手の名前が続いているから、チームとして、まとまって入会したのだということがわかった。
 日本サッカー協会の平井富三郎会長の名前も、もちろんある。その他、ぼくの知っているサッカー協会の役員や選手の名前が、たくさんある。
 「サッカー関係者はやっぱりちゃんとはいっているんだなあ」
 と見直した。
 女性の名前もかなりある。だからファンの人も、かなり入会しているのだろう。もちろん、それもけっこうなことだ。
 協会の役員も、ファンも、選手も、みな同じように、サッカーの発展に協力しているのだ、ということを示すことができれば、後援会は、一つの役割を果たしたことになる。
 そういう意味でサッカー協会の雑誌に、全会員の名前を載せたのは、意義のあることだった。
 入場無料については、ぼくはあまり賛成じゃないが、あえて無料にするのであれば、現在のように「本人に限る」というのは、おかしいではないか。
 年間5枚なら5枚の入場券を送って、実際に入場するのは、会員でなくてもよいことにしては、どうだろう。
 そうすれば、国際試合を見る機会の少ない地方在住の会員は、切符を東京の親類の子供に贈って、サッカー普及に一役買うことも、できるわけである。


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