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サッカーマガジン 1980年3月10日号

時評 サッカージャーナル

日本リーグの改革

ほんの僅かな進歩
 日本リーグの進歩について、書きたいと思う。
 ここで「日本リーグ」というのは、リーグ試合のことではなくて、1、2部各10団体によって構成されており、それぞれの評議会が決議機関になっているところの「日本リーグ」という組織体のことである。
 この「日本リーグ」が、ちょっぴり、いいことをした。ほんのちょっぴりなので「進歩」というには気がひける。「日本リーグの僅かな進歩」というべきだろう。
 1月26日に、日本リーグ1部と2部の評議員会が、東京の日本青年館で開かれ、そこで次のことが決まった。
 @入れ替え戦の方法の変更
 APK戦の廃止
 B経理処理方法の一部変更
 題目だけでは、何のことかわからない。まず「入れ替え戦の方法の変更」から解説しよう。
 これまでは、1部の最下位チームと2部の優勝チーム、1部の9位チームと2部の2位チームが入れ替え戦をして、次のシーズンの1、2部出場チームを決めていた。
 それを、この次からは、1部最下位と2部優勝チームの間では、入れ替え戦をしないで、自動入れ替えにするというのが、今回の改革である。
 これは、非常にけっこうなことだ。入れ替え戦というのは弊害の多い制度で、2部のチームが優勝をめざして必死の努力をしている間に、1部の下位のチームは、リーグ戦中から入れ替え戦のことを考えて、けが人の出ないような試合をしている。
 息もたえだえになって優勝した2部のチームを、ゆっくり休養した1部のビリのチームが待ち構えていて、こつんと叩くのだからなかなか入れ替えが行われない。そのために、1部も2部も空気がよどんでしまう。
 だいたい、サッカーの先進諸国には、入れ替え戦なんてものはないので、やっと廃止にこぎつけたのは良かった。日本リーグ1部の高橋英辰総務主事の努力を、多としたい。
 1部の9位と2部2位の入れ替え戦は、これまでどおりにやることになった。2部の下位と地域リーグとの入れ替えも、1、2部の間と同じように改正されることになった。これには別の問題点もあるのだが、長くなるから別の機会に書くことにしよう。
 第二のPK戦の廃止は、説明するまでもないだろう。
 だいたい、総当たりのリーグでPK戦をやる必要は、どこにもない。PK戦をやっても、やらなくても、リーグの順位にたいして変わりがないことは、過去2年間の日本リーグの勝敗表を調べて、計算し直してみれば、すぐわかる。
 勝ちは2、引き分けは1、負けは0というリーグのポイント制は世界の大部分の国で通用する常識なのだから、それを変えたのが間違っていた。本質的な改革には、ほとんど手をつけないくせに、本質的でないことは“思いつき”ですぐ変える。にがにがしいことだと、ぼくは内心思っていた(書いたこともある)から、誤りをはばかることなく改めたのは、これもけっこうなことだ。
 さて、第三の「経理処理方法の一部変更」は、ちょっとわかりにくい。これは、もともと議題には「自主運営について」となっていたらしい。
 「自主運営」というのは、各チームが、それぞれホームゲームの試合を、自分で開催し、入場料収入なども、自分で管理することである。
 しかし、今回の改正は「自主運営」に半歩踏み出した、という程度のものに終わった。

ごまかしの自主運営
 高橋総務主事の説明によると。次のようなふうになるらしい。
 試合の運営は、これまでどおりとし、入場券の発行も、リーグが直接行う。したがって入場料収入もリーグのものになる。
 その代わり、遠征チームの旅費と宿泊費は、規定にしたがってリーグが支給する。これも従来どおりである。
 どこが変わるかというと、リーグの経理の帳面のつけ方が変わる。これからは、収入と支出をチーム別につける。
 たとえば、東洋工業の試合でいくらの収入があったかを記入する一方、東洋工業に旅費、宿泊費などの経費として、いくら支払われたかを記入する。
 このようにすれば、どのチームに対しては黒字で、どのチームに対しては赤字かが、帳面の上では 明らかになる。
 新日鉄のように、九州にただ一つのチームは、旅費、宿泊費が多くなるから、当然、赤字も多い。そこは不公平にならないよう一定の割合で数字上の操作をするんだそうである。
 こういうふうにして、前年度の例で計算してみると、黒字になるのは三菱だけだそうだ。
 一つのチームについて、年に500万円の入場料収入があれば赤字が消え、800万円だと試合経費だけなら確実にまかなえる、というところらしい。
 入場料1人400〜500円としてホームゲーム1試合について、有料入場者が2000人程度あれば、いいわけである。
 計算は以上のような仕組みにするんだそうだが、これはリーグの帳面の上だけの話である。
 これでは「自主運営」とはいえない。評議会の席上で「単なる経理処理方法の変更じゃないか」と指摘されて、議題の呼称を変えたそうだが、当然だろう。
 あるスポーツ新聞が、これをプロ化への第一歩と書いていたが、いささかオーバーだし、誤解を招きやすい。
 本当の自主運営は、チームが自分で入場券を売り、自ら観客動員の努力をし、その代わりに経費も自分で負担して、黒字を生み出すことである。
 そういうシステムでなければ、プロが成り立たないのは当たり前だが、自主運営そのものは、アマチュアでも、サッカー以外のスポーツでも、外国ではごくふつうに行われている。


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