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サッカーマガジン 1980年1月25日号

時評 サッカージャーナル

びっくりスポーツ大賞

協会の見識を疑う
 「れれっ!」
 一瞬、わが目を疑ったね。
 話というのは、こうである。意見の違う人もいるだろうけど、ひととおり話を聞いてもらいたい。
 ぼくの勤めている新聞社で毎年『日本スポーツ賞』を選んでいる。いろいろなスポーツ団体からアマチュアの優秀団体、または優秀選手を一つずつ推薦してもらって、その中から、さらに一つだけを選考して、その年を代表するアマチュア・スポーツの業績として表彰する仕組みである。
 サッカーの場合は、日本サッカー協会に依頼して、優秀選手または優秀団体を「日本スポーツ賞候補」として出してもらう。
 これは『日本スポーツ賞』の候補を推薦してもらうのではあるけれども、各競技団体の推薦して下さった団体や選手には、それぞれトロフィーを贈っている。いわば部門別表彰もある。
 したがって『日本スポーツ賞』を受賞する可能性はなくても、そのスポーツで、その年度を代表するような業績を残した団体や人物であれば、幅広く考えて推薦して下さるように、お願いしている。
 さて、前置きが、くどくなったけれど、ぼくが「れれっ!」と驚いたのは、1979年度の、この日本スポーツ賞候補に、日本サッカー協会が、あの「ワールドユース日本代表チーム」を推薦してきたからである。
 8月〜9月に日本で開かれた第2回ワールドユース・サッカー選手権大会で地元のわが日本ユース代表チームは、1次リーグで2引き分け1敗、最低の目標としていたベスト8にも進出できなかった。一つも勝つことができず、目慓を達成しなかったチームを、その年度のサッカーを代表する業績として推薦してくるなんて……。
 日本サッカー協会は、本気なんだろうか。
 誤解のないように、付け加えておくけれど、松本育夫監督と若い日本の選手たちの才能と努力を、ぼくは高く評価している。
 だから、ワールドユースで日本がベスト8進出を逃したとき、新聞には同情的な記事を書いた。そのために「甘すぎるよ」と仲間に笑われたくらいである。
 日本のユースが勝てなかったのは、相手のレベルが高過ぎたからである。プロ・レベルの外国チームを相手に、現在の日本の大学や高校の選手で勝とうとするのは、戦車にライフル銃で立ち向かうようなものだ。
 それを思えば、2引き分けでも良くやったほうだ――と、ぼくは思っている。サッカー協会の推薦理由にも、そういう趣旨のことが書いてあった。
 しかし――である。
 外部のジャーナリストが「残念だったが良くやった」と同情するのはともかく、チームを編成して出場させた当事者である日本サッカー協会が自ら「良くやったほうでしょう」と名乗り出るのでは見識を疑わざるを得ない。
 スポーツは勝負の世界である。
 勝負の世界は、きびしいものであり、業績は結果によって問われるのだ。
 この「日本スポーツ賞候補」の推薦の締め切りは11月末日だったが、体操では協会がとくに締め切りを延ばしてくれと申し入れてきた。12月初旬に、アメリカのフォートワースで世界選手権が開かれるからだった。
 この世界選手権で日本の男子体操はV11を目標にしていたが、ソ連に優勝をさらわれた。それでも銀メダルだが、体操協会は推薦を辞退してきた。
 長年のサッカー担当記者としてぼくは、穴があったらはいりたい気持だった。

反省はないのか
 「サッカーも、今回は辞退すべきだったんだ。ワールドユースを盛りあげた、スタンドのファンの声援にならトロフィーをやりたいけど、不特定多数を表彰するわけにはいかないしなあ」
 こういって、ぼくが嘆息したら仲間の1人が意見を出した。
 「日本リーグ選抜でもよかったのに。とにも、かくにも、1979年の日本のサッカーの話題になったんだから」
 しかし、親善試合のための、その場限りの寄せ集めチームでは、やっぱり気がひけるだろう。
 別の人が別の意見を出した。
 「茨城県サッカー協会というような団体ではいけないの? 正月の高校選手権では、古河一高が優勝し、夏の高校総体では水戸商が優勝している。その背景には、古河や日立の少年サッカーの普及もあるし……」。
 これは、いい考えである。
 せっかくのトロフィーだから、なるべく辞退しないで、励みになるように活用しようというのは、一つの見識だと思う。
 優秀選手か優秀団体ということになっているが、1958年度には、当時の名審判員だった村形繁明氏に贈った前例がある。多くの人の意見を聞いて、広い視野で考えれば、もっといいアイデアが出たはずである。
 どういうふうにして、日本サッカー協会は、日本ユース代表チームを推薦することを決めたのだろうか。専務理事の長沼健さんに聞いてみた。
 「これは、もちろん、理事会で意見を聞いたんでしょ?」
 「うーん。ただ、やっぱり、技術委員会の考えを尊重したものでして……」
 これを聞いて、ぼくは、いっそう落胆した。最近のサッカー協会は、技術屋さんが、自分たちの狭い知識と見識だけで、ものごとを決める傾向があるんじゃないだろうか。それに、協会の技術委員会が、日本ユースの試合ぶりを高く評価しているのだったら、それはそれで、また別の重大問題ではないだろうか――。
 なぜなら、日本ユース代表の良かった点は、主として「よくがんばった」という精神面であって、テクニックや戦術やチームのつくり方など技術委員会の関係する面では、むしろ反省すべき点が多かったと、ぼくは思うからである。
 以上は、まったく、ぼくの個人的意見である。


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