アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1979年12月10日号

時評 サッカージャーナル

名古屋五輪のサッカー会場

広域開催の結び目
 中国問題を討議した国際オリンピック委員会(IOC)理事会を名古屋で取材したついでに、1988年名古屋オリンピックの“会場予定地”と称するものを見に行った。IOCのキラニン会長以下理事ご一行様が、現地視察したのに、ついて行ったのである。
 名古屋が1988年大会の開催地に立候補する期限は、1981年の3月で、まだまだ時間に余裕がある。したがって、どのスポーツをどこでやるか、というような会場の配置は、本当のところは、まだ決まっていない。キラニン会長のご一行が見に行ったのは、“予定地の予定”といったような場所で、雑木ぼうぼうの丘と谷だけだった。
 そういうわけで、名古屋オリンピックの会場に注文をつける段階ではないといわれれば、それまでなのだが、ぼくは、サッカーの会場についてだけは、そろそろ日本サッカー協会と地元の関係者、専門家か連絡をとりあって対策をたてはじめても、早すぎはしないのではないかと思う。その理由を、いくつかあげてみよう。
 第一に、1988年の名古屋オリンピックは、史上初の広域開催として計画されていることだ。
 広域開催というのは、会場を名古屋市だけでなく、近くのいくつかの都市にも分散して開催することである。これまでは原則として、オリンピックは「一つの都市」で開催することになっていたが、大会の規模が、ますますふくれあがってきたので、1988年からは、ある程度、広い地域に会場を分散してもいいことに、なったのである。
 実は、サッカーの場合は、前々回のミュンヘンも、前回のモントリオールも、1次リーグの会場は他の都市に分散していた。来年のモスクワ大会でも、モスクワのほか、キエフやミンスクが会場になっている。つまり、サッカーはオリンピック広域開催の先駆者である。
 名古屋の場合には、サッカーだけでなく、他のスポーツの会場も一部を他の都市にもっていくことになるのだが、サッカーの前例は大いに参考になるだろう。
 さらに、広域開催とはいっても名古屋市を中心にしなければならないことは、はっきりしている。
 そこで、タコの足のように、ばらばらに分散した会場を、名古屋を中心に、どのようにまとめるかが問題になる。つまり、広域開催としての名古屋オリンピックのイメージを、どうつくるかである。
 そういう点でも、サッカーは一つのポイントである。16チームが4グループに分かれて。まず1次リーグの試合をする。これは各地に分かれて行われることになるだろう。
 続いて準々決勝、準決勝としぼられて、決勝戦はメーンスタジアムで行われる。これはオリンピックの恒例である。
 つまり、各地に分散して行われる試合が、名古屋での決勝戦にしぼられることになるわけで、これは、広域開催のイメージそのものだ。
 名古屋オリンピックの場合、サッカーの会場として、名古屋市のほかに、岐阜、四日市、浜松などが考えられているらしい。愛知、岐阜、三重、静岡の4県にまたがるわけだ。
 一つのスポーツを4県に分散するのは、おそらくサッカーだけだろう。サッカーは広域開催の“結び目”にならなければならない競技だといっていい。
 名古屋オリンピックのサッカー会場について、なるべく早く検討したほうがいいと思うのは、そのためである。

ナイター設備つきで
 もう一つ、はなはだ残念なことながら、東海地域のサッカー界はいささか弱体のように思われる。だから、名古屋オリンピックのサッカーの準備は、他のスポーツよりも、少し早目にスタートすべきだと思う。
 早い話が、ここにあげたサッカー会場の候補都市には、いますぐ国際試合のできるサッカー場は一つもない。しいてあげれば、四日市の陸上競技場が、なんとかなりそうなだけである。
 名古屋では、端穂の陸上競技場やラグビー場が、これまで使われていたが、この二つは施設が老朽化しているだけでなく、フィールドの広さが国際規格に合っていない。岐阜の陸上競技場も同様である。したがって、現時点で国際サッカー連盟(FIFA)が施設点検にきたら「名古屋はオリンピック開催には不適当」と不合格の判を押すことは確実である。
 いずれにせよ、サッカー場を新しく造らなければならないと思うが、それも、そうのんびりしてはいられない。
 東海地域のサッカー界の組織が弱体のように思われるので、これからは名古屋周辺で数多く国際試合をやって、地元の人たちに運営の経験を積んでもらい、地元のチームやファンに刺激を与える必要がある。しかし、会場がなくてはどうしようもないので、国際規格に合ったサッカー場を、少しでも早く造らなければならない。
 それも、外国のシーズンの関係で、向こうのチームを招く時期は5月から7月になるし、入場料収入をあげるために、日曜祭日の試合は、どうしても東京でやるから、地方で国際試合をやるためにはナイター設備が必要である。
 しかし、地元にとっては、ナイター設備つきの新しいサッカー場を早目に造るのは、相当の難問だろう。だからこそ、日本サッカー協会があと押しして、強力な準備態勢を、いまからつくらなければならないと思うわけである。
 最後に、名古屋地域に強いチームがないこと、これも問題だ。トヨタが転落してから日本リーグ1部のチームが一つもない。地元のサッカーの関心を高めるためにも、観客収容能力のある新しい施設を将来とも使っていくためにも、地元に強力なクラブがなければならないと思う。
 あれこれ考えれば、名古屋オリンピックの話をするのは、現在でも、むしろ遅すぎるくらいのものである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ