日本リーグのまね
10月10日の体育の日に、僕の勤めている新聞社の社内サッカー大会があった。久しぶりに、1日中ボールと遊んで楽しかった。
毎度、毎度、日本代表チームのふがいなさを嘆き、サッカー協会の不手際を責めていては肩がこるから、今回は草野球ではない、草サッカーを1日楽しんで気がついたことを書き並べてみょう。
まず第一は、グラウンドが、すばらしかったこと。
場所は埼玉県の荒川の河川敷で僕の住んでいるところからは、かなり遠い。電車やバスでは適当な便がなく、行きは車で1時間半、帰りは2時間かかった。しかし河川敷でも、ちゃんと砂利敷きのパーキング・スペースがある。
このあたりは、見わたす限りスポーツ施設で、やはり野球場が多いが、サッカーのゴールも、いくつもある。そして、すばらしいのはフィールドが芝生だということである。それも、ぜいたくなことに、ヒメコーライ芝で、国立競技場よりもずっといい。
都心からちょっと離れると、これだけのものを造って維持できるのだから、各地に、もっともっと芝生のスポーツ広場ができるように、打つ手はあるはずだと思う。大衆のための広場がたくさんあれば、観客席のついたスタジアムは大衆のスポーツの模範になるようなトップクラスの競技会のために、荒れないように管理できるはずである。
もっとも、お天気に恵まれたから良かったので、雨にでも降られたら、どうしようもない。
河川敷だから法律による制限があって、恒久的な建造物は造れない。したがって、近くにクラブハウスがない。雨でびしょぬれになっても、熱いシャワーを浴びて着替えをするのは、難しい。
それでも、近くに売店が出ていて、冷えたビールやジュースを売っている。試合が終わって、芝生に円陣をつくって、きゅーっとノドをうるおす。青空クラブも、また楽し、というところだ。
さて試合は、編集局、広告局というように、部門別にチームをつくり、まず2グループでリーグ戦をして、各組1位同士で決勝戦という仕組である。
いつも、サッカーをやっている連中の集まりではない。広く社員に楽しんでもらおうという趣旨だから、15分ハーフの短い試合である。リーグ戦で、どのチームも、1日のうちに少なくとも2試合をする。
そういう程度だのに、ちゃんと「引き分けの場合はPK戦。順位は勝ち点による」と規則ができていた。勝ちは4点、PK勝ちは2点、PK負けは1点、日本リーグと同じである。
この勝ち点のつけ方は、日本リーグ独特のもので、国際的なやり方ではないが、日本リーグがやることは、底辺の中の底辺の草サッカーでも、すぐまねをするわけである。
だから、トップクラスの試合のやり方は、十分に考え抜いて決めなければならない。思いつきばかりやられては、影響が大きい。
とはいえ、PK戦は、草サッカーでは、なかなか面白いことがわかった。試合の中では、なかなかシュートのチャンスはないが、PK戦ではゴールを狙う楽しみを味わえるからである。
ただ、正式の試合と同じように5人ずつでやったので、どうしてもサッカーの経験者が先にけることになった。草サッカーの場合は11人全部の対決にしたらどうだろう。ただし、時間がかかるのは欠点である。
ワンツーをやろうぜ
試合をやっていて面白かったのは、若い連中が「おい、ワンツーをやろう。ワンツーだ」
と声をかけながら攻め込んで、実際にゴール前のゴチャゴチャの間を、壁パスで突破してみせたことだ。
読売新聞社の社内大会だから、日本リーグの読売クラブの試合を見たことのある若い連中が多い。そこでラモスや与那城がやっている密集突破のワンツーを、見よう見まねでやってみるわけである。
これも、トップクラスの試合が底辺に大きな影響を与える一つの例である。壁パスのまねなら結構だけれど、審判に苦情をいったりファウルに挑発されて報復したりするようなことを、まねされては困る。トップクラスは、あらゆる面で底辺のお手本であってほしい。
ワールドカップで優勝したアルゼンチンのチームや、読売クラブの外人トリオがよくやっている密集突破のワンツーは、スピードも精度も高く、難しそうに見える。しかし 草サッカーでも、やればやれることもわかった。
もちろん、常にうまくいってゴールに結びつくわけではないが、それはアルゼンチンや読売クラブだって同じことである。
この前に書いたように、10歳から12歳くらいの少年たちに「戦術を教える」という表現には、ぼくは賛成できない。
少年たちの戦術的感覚は、見よう見まねで、ゲームをやって楽しんでいる中から、自然に芽生えてくるのが、いいのではないか。
そのためには、子供たちがゲーム中に「ワンツーやろうぜ」と面白がってやるのに、大人のコーチが干渉しないほうがいい。つまり野放しのほうが、ヘタに教えようとするよりもいいと思う。
この前の号に、日本サッカー協会の平木隆三技術委員長と日本ユース代表の松本育夫監督の発言を引用して、以上のような趣旨のことを書いたが、社内の草サッカーで若い連中の“ワンツーごっこ”を見て、ますます、その気持を強くした。
ついでに書き加えると、前号の記事を読んで、平木技術委員長が次のように言ってきてくれた。
「表現が誤解を招いたかもしれないが、ぼくたちも、牛木さんの意見と同じですよ。少年たちを型にはめて教えこもうとは思いません。少年たちが戦術的な感覚を伸ばせるように、環境づくりをしてやりたいというのが真意です」
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