サッカー通の盲点
「サッカーのことなら、任せとけ」というような顔をしている人でも、案外、盲点があるものだ。とくに審判のやり方については、審判員の人たちの間では、常識になっていることが、奇妙なくらい周知徹底されていない。
それに、審判法は少しずつ変わっていく。10年前といまでは、かなり違うやり方がある。選手も、コーチも、スタンドのファンも、ときどき知識をチェックしておいたほうがいい。
そこで、いささか固苦しくて恐縮だけれども、今回は読者に、頭の体操のつもりでQアンドAを提供したい。
<Q1>
図1でAからBにパスが出たとき、Bはオフサイドではないが、Cはオフサイドの位置にいる。主審は笛を吹くだろうか。
<A>
(イ)パスを受けたBはオフサイドの位置にいないから笛は吹かない。
(ロ)Cは直接ボールを受けていないが、チーム全体のプレーに影響を与えていれば、笛を吹く。その判断は審判員に任されているが、図1のようなケースは笛を吹く可能性がある。
(ハ)Cの位置は、パスの方向とは違うからプレーに影響を与えていないとみなして笛は吹かない。
<Q2>
Dがゴールライン近くまでドリブルでもち込んで、ゴール前ヘパスしたが、ボールは相手のバックにクリアされた。しかし再び味方がとり、Dはそのままだとオフサイドになって、チャンスをつぶすおそれがある。そこで図2のように、ゴールラインの外に出て、プレーが一段落するのを待った。これは許されるか。
<A>
(イ)主審に無断でフィールドの外に出るのはルール違反だから許されない。
(ロ)ゴールラインの外にいる限り、オフサイドにはならない。
(ハ)外側にはっきり出て、しゃがむなど、その場面で再びプレーに加わらない意思を明確に態度で示していれば、オフサイドにならない。しかし、単にラインの外に立っているだけでは、オフサイドをとられても仕方がない。
<Q3>
フリーキックのとき守備側が10ヤード(9.15メートル)より近くに壁を作った。主審は、どう処置すればよいか。
<A>
(イ)けるのを待たせて、守備側をさがらせる。
(ロ)自由にけらせるが、けったボールが壁に当たって、攻撃側に不利になったときはフリーキックをやり直す。
(ハ)攻撃側から、壁をさげてほしいと要求された場合には、けるのを待たせて守備側をさがらせる。
以上3問。「ちょっと、やさしすぎるんじゃない」といわれるかもしれないが、いずれも最近の試合に出てきた場面でスタンドの仲間たちが、わいわいがやがや、あげつらっていたケースである。
主審の判断の基準
正解は、このページの末尾につけてある。
けれども、だいじなことは、実際の試合で、この問題と似たようなことがあった場合、個々のケースの判断と処置は「主審に任されている」ということだ。
サッカーの試合で生まれる状況は千差万別で、まったく同じ場面ということは、ほとんどあり得ない。だから、さまざまなケースについて、一つ一つルールに書いておくなんて、できっこない。
サッカーのルールブックにはゲームの進め方と、大まかな解釈の考え方が示されているだけである。具体的な判断については主審に任されており、それが最終決定である。
Q1の、パスを受けない選手のオフサイドについては「サッカー競技規則」第11条の本文の終わりのほうに書いてある。
また、Q2の、オフサイドを避けるためにラインの外に出ることについては、競技規則の「巻末の質問と解答」(第11条の1)に出てくる。
疑問のある方は、だからルールブックを読み返していただきたいが、どちらの場合も結局は「主審の判断」によることになっていて読んだだけでは、ここにあげた問題に対する正解は出て来ない。
Q3の、フリーキックのときに守備側が10ヤード離れない場合の処置については、競技規則第13条の本文と公式決定事項に明記してある。
ところが、実際の試合では、必ずしも規則に書いてあるとおりに、しゃくし定規に処置するのが正解とは限らない。というのは、アドバンテージの問題が生じるからである。
ルールを守らせようとして、フリーキックを遅らせ、その間に守備側が守りを固めて有利になるようでは、ルールの趣旨に反する。そうかといって、むやみに早くけらせるのが、いつの場合にも適切であるとは限らない。そこで、ここでも、状況に応じて「主審の判断」が必要である。
「そうむやみに、主審の判断を乱発されちゃ困るな。人によってやり方が違うんじゃ、選手はやりきれないよ」と思われるかもしれない。
そうならないように、審判員の判断を統一するための、ある程度の基準がある。
その基準を、審判員の人たちはみな常識として知っているのだけれども、審判員以外の人、つまりコーチや選手や新聞記者やファンに周知徹底させるために、サッカー協会は、もっと努力をする必要があると思うが、どうだろう。
〔問題の答〕Q1(ロ)、Q2(ハ)、Q3(ハ)
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