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サッカーマガジン 1979年6月25日号

時評 サッカージャーナル

審判割り当てには慎重に

先入感で笛を吹くな
 「審判に甘いお前も、今度は怒っただろう」
 と友人がいう。
 話はちょっと古いけど、4月29日に東京の駒沢競技場で行われた日本リーグの読売クラブ対ヤンマーの試合のことである。
 この試合で読売クラブのラモス選手が前半の警告のあと後半退場になり、ほかに3人が1度ずつ警告を受けた。合計5回、主審がポケットからカードを引っぱり出したわけである。
 主審が、赤いカードや黄色いカードを、何度振りまわそうが、選手たちが、ルールに違反し、警告や退場に値することをしていたのなら、やむをえない。しかし、主審が必要以上に神経質になったため、せっかくの好ゲームが台なしになっては、腹立たしくなる。読売クラブ対ヤンマーの試合のときが、まさに、それだった。
 この試合で、主審は試合のはじまる前から、「選手たちが悪質なことをするのではないか、いや、するに違いない」と信じ込んで、グラウンドに出てきたふしがあった。全部で5回も出したカードのうち、最初の黄色いカードに、それが表われていた。
 この最初のカードは、読売クラブが2点目をあげたすぐあと、前半31分に出された。
 ちょっとしたもめごとが起こりかけたところへ、ラモスが両手をあげて、止めにはいった。スタンドから見たところでは「まあ、まあ、気を鎮めて」と、なだめにはいった感じのゼスチャーである。
 そのとたんに、主審はポケットから黄色いカードを引っぱり出した。あとで聞いたら「ラモスがつめを立てて、ヤンマーの選手の顔をこづいたものと認めた」のだという。スタンドからは、そうは見えなかったし、そんな険悪なムードでもなかった。主審が、なにかカン違いをして、カードを出したとしか思えなかった。
 結論として、スタンドで見ていたぼくたちの印象は、次のとおりである。
 主審は、はじめから「読売クラブの選手は、何かやるんじゃないか、とくにラモスは注意して見とかなくちゃいかん」という考えにとりつかれて、笛を吹いていた。
 そこのところへ、ちょっとしたもめごとがあり、カッと頭に血がのぼった。大男のラモスが、手をあげて割り込んでくるのが目にはいった。「やったなっ!」――そんな感じで黄色いカードを出したんではないだろうか。と、まあ、こういう印象である。
 主審が先入感にとりつかれていたかどうか、他人の心の中まで読めるわけじゃないから確かではない。ただ、今回の場合は、主審が先入感ないし偏見をもっているのではないか、という印象を与える条件が、そろいすぎていた、という背景がある。
 というのは、1年4カ月前、昨年1月14日に、2部リーグの日産自動車対読売クラブの試合でラモス選手が退場になったときの主審が、今回の主審と同じ人物だったからである。
 1年4カ月前の退場のとき、ラモス選手は、相手の選手とトラブルを起こして、1年間の出場停止処分を受けた。この処分は、主審の報告を基礎にして、2部リーグの運営委員会とサッカー協会が決めたものである。
 あの処分は過酷であり、またやり方も間違っていると思うが、すでに過去のことだし、今回のケースとは直接の関係はないから、処分については、ここでは、これ以上は触れない。
 ただ、こういう過去のいきさつがある場合、主審や選手たちが、お互いに先入感を持たないようにするのは生身の人間である以上、むずかしいことだろう。

無視された意見
 1年4カ月前のトラブルのあと次の週の読売クラブの試合の主審は、日産との試合で線審を務めた人だった。そのあと読売クラブは1部に昇格したが、1部での最初の試合で主審を務めたのも、同じ人だった。
 線審の場合は、主審ほどトラブルにかかわりはないから、影響は少ないかもしれない。しかし、トラブルのすぐ次の試合とか、多くの人の注目を集める1部デビュー戦には、できれば、誤解をさけるため、他の人をあてたほうが良かったのではないか。同じ日の別の試合の主審と振り替えればすむのだから、そうむずかしいことではないように思う。
 以上のような趣旨の意見を、そのころ、ぼくは審判関係者に対して個人的に述べたことがある。
 ところがだ。
 ことしのリーグの開幕戦、読売クラブ対古河電工の試合を、千葉県の市原まで見に行って驚いた。
 この試合は、出場停止になっていたラモス選手が久しぶりに公式戦に復帰し、1部リーグにデビューした試合だった。その試合の主審が、なんと2年3カ月前にラモス選手を退場させた主審だった。 驚くべき無神経な審判割り当てではないか。ぼくが個人的に述べた意見は、まったく無視されている。
 この試合では、何も問題は起きなかったけれども、選手と主審がおたがいに相手を意識していることは、見た目にも明らかだった。 選手は、おびえており、主審は神経質になっていた。
 そのようすを見て、前に述べた審判割り当てについての意見を、ぼくは再び審判関係者に個人的に伝えておいた。新聞や雑誌に書かなくても、内部で処理すればすむ問題だと思ったからである。
 にもかかわらず、同じ主審がまた読売クラブの試合を担当した。
 そして、今度は無事ではすまなかった。
 読売クラブ対ヤンマーの試合の後半には、22分にラモス選手が退場になったあと、読売クラブが1人、ヤンマーが2人、警告を受けた。どの場合も、審判技術上、問題があったように思えた。試合後の主審は、顔がひきつっていた。
 先入感(予断)をもってグラウンドに出るのはトラブルのもとである。それを防ぐためには、審判割り当てをもっと慎重にやってもらいたいと思う。


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