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サッカーマガジン 1979年6月10日号

時評 サッカージャーナル

楽しみな“日本リーグ選抜”

サッカーはいろいろ
 日本サッカー史上最強軍!
 ある朝、スポーツ新聞をめくったら、こんな大見出しが、目に飛び込んできた。
 「なんだい、こりゃあ」と思ってよく見たら、
 釜本プラスブラジル勢の…… 
 と添え書きがしてある。
 6月上旬に、韓国リーグ・チャンピオンの韓国農協チームが、日本にやってくる。そのときに対戦する「日本リーグ選抜」チーム編成の話だ。
 ヤンマーの釜本邦茂監督兼選手を中心に、ブラジルから来ているフジタのカルバリオや、読売クラブのラモスやジョージ与那城を加えた選抜にするのだという。
 これを「史上最強」というのはいささかオーバーだし、考えようによっては情けない気もするが、アイデアとしては悪くない。
 「日本リーグ選抜」という名称のチームを編成したことは、過去にも2、3回、例があったけれども、今回はいささか事情が違う。
 というのは、6月中旬には、ソウルで日韓定期戦があり、日本代表チームは、強化合宿中だろうから「日本リーグ選抜」は、代表メンバー以外の顔ぶれで編成されることになるからである。
 そうなると、代表を退いて3年目になる釜本選手と外人勢が中心になるのは当然だろう。この「リーグ選抜」と、下村監督の率いる「日本代表」のどちらが強いだろうか、などという野暮な詮議は別にしても、今度の「リーグ選抜」は、これまでの全日本とは違った新しいスタイルのチームになるだろうと、いまから楽しみである。
 「サッカーは一つでない」というのは、長い間、サッカーを取材してきた、ぼくの結論である。
 サッカーにはいろいろあって、このサッカーは正しく、あのサッカーは間違っている、というものじゃない。「日本代表」が一つのサッカーをやり、「リーグ選抜」が、もう一つ、別のサッカーをやる。いろいろなサッカーを見るのが、ファンの楽しみである。
 これも、スポーツ新聞で読んだ話。
 日本リーグ前期の試合で、三菱が読売クラブに3-2で逆転したあと、三菱の落合主将が、こう語ったという。
 「三菱のサッカーが間違っていないことを証明するためにも、勝ててよかった」
 ぼくは、この三菱対読売クラブの試合を見に行っていたが、落合主将の談話を直接取材はしなかった。翌日のスポーツ新聞で読んだだけだが、面白いと思った。
 落合主将は、サッカーには、いろいろあることを、知っているわけである。そして、もちろん、三菱には「三菱のサッカー」があることを自覚しており、「三菱のサッカーは間違っている」という悪口も耳にしているらしい。
 さらに推測すれば「三菱のサッカー」のアンチテーゼとして「読売クラブのサッカー」を考えて、ライバル意識を燃やしているようにも、読みとれた。
 ぼくの持論からいけば、サッカーには、いろいろあって、あれが正しく、これが間違っているという性質のものではない。したがって、勝ったサッカーが正しく、負けたサッカーが間違っているとはいえない。勝敗を左右するのはいろいろ、からみあった別の要素である。
 ともあれ、いろいろなサッカーが互いにライバル意識を燃やして、ぶつかり合えば、リーグは面白くなる。その意味で、今季の日本リーグは、開幕前に予想していたより、はるかに面白い。三菱、ヤンマー、フジタ、読売クラブ、日立などのチームの個性が、かなりはっきりしてきたからである。

“強化第一”の日本
 三菱対読売クラブの試合は、読売クラブが、前半と後半のはじめにそれぞれ1点をあげ、三菱は、そのリードに2度追いついて、最後に逆転したという経過だった。
 読売クラブの2点は、センターフォワードのラモスのトリッキーな足わざを軸に、すばやく、大きな壁パスで、三菱守備の正面を完全に突破したものである。こういう攻めは、これまでの日本のチームでは、あまり見られなかったものだから、これは「読売クラブのサッカー」だといっていい。
 三菱の3点は、いずれも読売クラブの守備の不用意なプレーから生まれたものだった。したがって「三菱のサッカー」がものをいった逆転勝ちとは必ずしもいえないのだが、相手のミスにすばやくつけこむ鋭さと、落合主将などの守備ラインからの攻め上がりの良さは、やはり「三菱」である。
 このように、チームにはそれぞれ、チームとしての個性があり、違った個性のからみ合いで、試合は面白くなるし、選手も伸びてくるのだと思う。
 釜本プラスブラジル勢の「日本リーグ選抜」は、そういう意味で、新しい個性を持った一つのサッカーを見せてくれるだろう。釜本選手が「リーグ選抜」の監督も兼ねるらしいが、日本で生まれ、日本で育った釜本が、ブラジル育ちのジャジャウマたちを、どう手なづけるかにも興味がある。
 この「日本リーグ選抜」が、5月のジャパン・カップにも出ればもっと面白かったのだが、そうはならないらしい。
 ジャパン・カップの「日本選抜」は、はじめは、8月にメキシコで開かれるユニバーシアードに備えて「大学選抜」を出すつもりだったのだそうだ。
 この「大学選抜」は、インドネシアのマラハリム・カップに出場するが、帰国してすぐジャパン・カップ、さらにユニバーシアードでは、日程がきつすぎるという苦情が出てジャバン・カップは別の編成の「日本選抜」にすることになるようだ。
 それなら釜本プラスブラジル勢の「リーグ選抜」にすれば良さそうなものだが「それでは強化の役に立たない。若手中心のBチームに国際試合の経験を」という月並みな考えに落ち着くところが、「強化第一」それも「集めて鍛える」主義の日本サッカーらしいところである。


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