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サッカーマガジン 1979年5月10日号

時評 サッカージャーナル

遠い“自主運営”への道

さえないポスター
 日本リーグの新しいシーズンのポスターを見て友人がいう。
 「なんとなく、くすんだ感じだなあ。写真もカラーじゃないし」
 テレビも映画も、みんな大型カラーの時代に、白黒写真のポスターでは、確かにパッとしない。なんだか、日本サッカーリーグの運営そのものの低迷ぶりを象徴しているようである。
 14年前に、日本リーグがスタートしたときは、みんな「新しいことをやろう」という意気に燃えていて、ポスターだってフレッシュな感じがしたものだ。もちろんいまからみれば野暮ったいところもあるけれど、リーグのマークを公募して専門家のデザインを採用したり、それを横長のポスターに仕立てたりしたのは、当時としてはなかなか新鮮な感覚だった。
 そういう話を、現在の日本リーグ関係者にしたら、
 「うーん、そういわれても仕方のないところはあるなあ。なにしろ財政難らしくてね。新しいことをやるよりも、いままでやってたことをやめて出費を抑える考えのほうが通りやすいんだなあ」
 という。
 観客数が減った――収入が少ない――支出を抑える――仕事を減らす……つまり縮小再生産で、これでは先細りだ。
 「なんとかしなければ」というので、昨年の暮れあたりに、下村幸男総務主事のもとで、日本リーグの試合の「自主運営」を研究しはじめていた。シモさんが日本代表チームの監督になる前である。
 「自主運営」というのは、ぼくが前から提唱していたことで、一つひとつの試合の運営管理を、入場料収入の管理も含めてホームチームにやらせようというものだ。
 これは何も珍しい新アイデアではなくて、外国では、これが当たり前である。
 ヨーロッパの国で、土曜日あるいは日曜日の午後に郊外をドライブすると、河川敷みたいなグラウンドで、村と村とのサッカー試合をやっている。金網越しに試合のようすが見えるような場所で、ちゃんと入場料を取っている。
 1人数百円程度のもので、どれほどの収入になるというほどでもないだろうが、要するに地元のクラブに対する村の人たちの寄金である。このように、入場料は地元のチームが取るのが、もともとスポーツの常識だ。つまり試合の主催は、地元のチームである。
 ところが、日本では、主催は協会や連盟だということになっていて、入場料収入は協会や連盟に直接はいってしまう。したがってチームのほうは、協会と連盟がおぜん立てしてくれる日程と会場と審判にのっかって、自分たちは試合に出さえすればいい、という甘えた気持になる。
 「そういえば、協会に加盟費を払っているのに、グラウンドのあっせんも、審判の世話もしてくれないという苦情をいうヤツがいるな」
 「そうだろうな。だけど、その苦情は見当違いでね。自分たちの試合は自分たちでやるのが本筋なんだ」
 「じゃあ、協会への加盟費はなんのため」
 「これは日本のサッカー全体のための分担金でね。同窓会費みたいなもんだよ。同窓会費で卒業生名簿をつくったり、退任する校長先生に記念品を贈ったりするだろ」
 「じゃあ、協会は何をしてくれるんだ」
 「ルールブックを発行したり、コーチや審判の研修会を開いたりするじゃないか。あれで十分だ」
 「ふーん」と友人は、割り切れない顔をした。

企業努力がない
 日本リーグの場合は、試合の開催そのものは、前から自主運営でやっている。とくに東京以外の地方チームの場合は、独力で切符のもぎりから報道サービスまで、少ない人数でやっていて、その努力はたいしたものである。
 しかし、この自主運営には、かんじんなものが欠けている。それは入場料収入の自主管理である。
 外国の場合は、入場料収入は地元チームのものになり、クラブの運営費の一部にあてることもできる。だからチームは一生懸命、切符を売ろうとするし、地元のファンも協力する。
 ところが、日本では、収入をリーグが吸いあげていってしまう。その代わりに旅費、宿泊費などの面倒はリーグでみるのだが、チームとしては、リーグのおぜん立てで、自分たちは試合に出ていればいいという気になりかねない。
 「だから努力をして切符を売ろうという気にもならないし、地元のファンを開拓しようともしないんだな」
 「努力しようという気持はあるんだけどね。自分自身の商売じゃないから切実でない」
 「つまり企業努力じゃないんだな」
 これではいけない――というので下村総務主事のときに自主運営の検討をはじめ、加盟チームにアンケートを送ったりしていた。しかし、結果は、あまりはかばかしくないようだ。さる3月17日のリーグ評議員会では「今後さらに研究してみる」ということで見送りになった。
 「一応、前向きの姿勢ではいるんですが……」
 担当の常任運営委員の話も、かなり歯切れが悪い。
 「そりゃ、そうだろう。日本リーグのチームは、みんな大企業に寄っかかりの親方日の丸チームだもの。お客さんが来なくても、入場料収入が少なくとも、たいして困らない。それより労力を使わないほうが楽だもの」
 と友人は毒づいた。
 ぼくは、リーグ幹部の勉強不足もあると思う。たとえばアンケートをとったときの試案の中に、自主運営にした場合はリーグが入場料収入の30%をとる、とあったそうだ。これは非常識である。外国では1〜2%だということを知らないんじゃないだろうか。
 自主運営にして、各チームが競って美しいカラーのポスターをつくるような時代が来なくては――日本のサッカーは、いつまでたっても発展しないとぼくは思う。


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