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サッカーマガジン 1979年3月25日号

時評 サッカージャーナル

ヤマハの昇格祝賀パーティーで

1部も2部も同じリーグ
 先日、ヤマハ発動機の日本リーグ2部昇格祝賀パーティーがあって、浜松まで出かけた。ご存じのように、ヤマハの監督は、あの黄金の足、杉山隆一君である。杉山君に、個人的におめでとうをいいたいと思ったから、ヤマハの会社にも、サッカー部にも、たいして義理はなかったけれど、休みをとって東京−浜松を日帰りで往復したわけである。「お前なんか出席してもしなくても、どうってことはないよ」なんていわないでもらいたい。枯木も山のにぎわい、ということがある。
 パーティーはなかなかの盛会で楽しかった。日本サッカー協会の長沼専務理事が、あいさつの中で本誌に連載中の『メノッティ1353日の闘い』を引用して、自分自身のサッカーを貫き通すことが大切だと述べた。また日本オリンピック委員会の岡野俊一郎総務主事が「ひとくせも、ふたくせもある選手たちを、まとめあげて」静岡リーグ2部から5年間で、ここまで駆けあがった杉山君の手腕をたたえた。長沼、岡野両氏は、日本代表チームの監督、コーチを務めて杉山君を育てた“恩師”である。
 そういうふうで、ぼくは杉山君に個人的にお祝いを言いたいと思って出かけ、パーティーも杉山君を中心に楽しいムードだったのだが、いろいろな人の話を聞いているうちに、このパーティーには、もっと大きな意味があるような気がしてきた。
 日本リーグの2部に昇格したぐらいで、東京からお客さんを招いて大パーティーを開くのは、大げさなような気もするが、これは日本リーグが、2部も1部も区別なく、ともに日本のサッカーのメジャー・リーグとして評価されていることの証拠でもある。ヤマハはメジャー・リーグの仲間入りを祝ってパーティーを開いたわけである。
 話はとぶようだけれど、数年前に日本リーグ1部の表彰式のあとのパーティーで、ある人がスピーチに指名されて、場違いにも、1部最下位になったチームを「入れ替え戦でがんばれ」と激励したことがあった。「1部の仲間として、2部のチャレンジに負けないようにがんばってほしい」という趣旨だったのだけれど、そのパーティーには2部チームの関係者も出席していたから、場はすっかり、しらけてしまった。
 こういう妙なスピーチが飛び出すのも、1部だけが本当のメジャー・リーグで、2部はマイナーだという間違ったナワ張り意識が、あるからではないだろうか。
 現在、日本リーグの1部と2部は、形の上で別組織になっていてそれぞれ別に評議会(決議機関)を持っているが、本来、日本リーグは一つの組織でなければならないと、ぼくは思う。
 ヤマハの「日本リーグ入り祝賀パーティー」は「1部も2部も同じ日本リーグだ」ということを印象づけた点で、とてもよかった。
 ついでに、付け加えると、日本リーグの1部と2部との間の入れ替え戦は、早急に廃止しなければならない。日本リーグと他の地域リーグとの間の入れ替えと、日本リーグ内の1、2部入れ替えは、まったく性質の違うものである。これまで何度も書いたことだから詳しい説明はここでは遠慮するけれど、日本リーグ関係者は、外部の人の声に、もっと耳を傾けてほしいものである。

地元との結びつきを
 ヤマハのパーティーで、ちょっと良かったことが、ほかにも二つある。
 一つは、磐田市の山内市長が、わざわざ出席して祝辞を述べたことである。パーティーは、新幹線でくるお客さんのことを考えて浜松市のホテルで開かれたが、ヤマハの本拠地は、天竜川をはさんで浜松の東側の磐田市。地元の市長さんが、地元のチームを盛り立てようという趣旨のスピーチをされたのは、うれしかった。
 もう一つ良かったのは、ヤマハ発動機サッカー部の後援会長さんのお話だ。「これまでは、低いレベルにいたということで、後援会も社内の有志だけで、一般の方には参加呼びかけは遠慮していたのですが、日本リーグに昇格したので、今後はひとつ、地元の皆さんをはじめ、できるだけ多くの方のご後援をいただきたいと思っております」
 これはいい。ぜひ、そうあってほしいと思う。ヤマハは、静岡県をフランチャイズにするチームとして、社員だけでなく、地元県民の支援を得て、がんばってほしい。
 ところで、いま日本リーグ1部で試合の自主運営が問題になっている。自主運営というのは、一つひとつの試合の運営、管理を、すべて、その試合の地元チームに任せよう、ということである。
 特に入場料収入の管理を、地元チームに任せてしまおう、というところが大きなポイントである。
 これは外国では当然のことであって、サッカーだけでなく、ラグビーでも、陸上競技のような個人競技でも、入場料収入は、試合や競技会を開催した地元のクラブがとるのが原則である。収入が自分のものになって、クラブ運営の経費の全部とまではいかなくとも、一部を埋めることができるから、地元チームは一生けんめい切符を売り、観客を増やそうとするわけである。
 日本でも、この自主運営のやり方を見習ってほしいと思うのだが、実は、幸いにして日本リーグの2部では、すでに自主運営が採用されている。いまのところ、2部の試合は観客が少ないので、あまり役立っていないだけである。
 日本リーグ2部に昇格したヤマハは、ぜひ、この自主運営を活用してほしい。地元の試合を、自分たち自身の工夫と努力で盛りあげて、観客を集めてほしい。
 大企業のヤマハにとって、入場料収入などは取るに足らないかもしれないが、ファンから集めた入場料収入は、湯水のように使われる宣伝費とは重みが違う。ファンの出したお金をサッカーのために使うことによって、チームと地元の結びつきは、ぐんと強まるはずである。


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