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サッカーマガジン 1979年3月10日号

時評 サッカージャーナル

優秀選手の選び方

選考の基準は何か
 正月の高校選手権大会の総評を新聞に書いた中で「優秀選手の選び方に納得しかねる点がある」と書いたら「そうだ、そうだ、同感だ」と賛成してくださった方が多かった。そこで、大会が終わって日数がかなりたったけれど「大会の優秀選手の選び方」について取り上げることにしたい。
 大会の閉会式のときに、全国大会出場の32校の中から選んだ優秀選手30人が発表された。これは毎年の例である。この中から19人で高校選抜チームを編成して、春休みに、ヨーロッパ遠征をすることになっている。
 ことし選ばれた30人が、優秀選手にふさわしくない、というつもりは、まったくないので、そこのところは誤解のないようにしてほしい。どの1人をとっても、それぞれ優秀選手に選ばれるだけの「条件」を備えている。ただ、30人全体をまとめてみると、疑問がわいてくる。「いったい、どういう基準で、優秀選手の条件を決めたのだろうか?」
 大会の優秀選手――といっても選び方は、いろいろあって、一筋縄では、いかないのだ。今回の大会の場合なら、選び方には次のような基準が考えられる。
 @この大会で勝ち進んだチームを中心に勝利に貢献した選手を選ぶ(貢献度)
 A所属チームの成績に関係なくこの大会でプレーぶりの光った選手を選ぶ(活躍ぶり) 
 B将来、日本を代表して国際試合に出場できそうな素質のある選手を選ぶ(将来性)
 C高校選抜チームを編成して海外遠征することを考慮し、すぐ戦力になる選手を、ポジション別にバランスをとって選ぶ(チーム編成上の配慮)
 D全国的なレベルアップを刺激するために、できるだけ多くの地方から、それぞれの地域で優秀な選手を選ぶ(地域的配慮)
 ほかにもあるだろうけど、以上のような基準が考えられる。
 この五つの基準は、それぞれ、もっともなもので悪くはない。ただし、この五つ全部を満たすような選手の選び方は不可能だ。だから、このうちのどれかに重点を置いて選ばなければならないのだが、今回はそのあたりが、あいまいでアブハチとらずのような感じである。
 たとえば、@の貢献度とAの活躍ぶりを基準にした場合に、浦和南の水沼貴史君が選ばれなかったのは、納得がいく。浦和南は2回戦で敗退したし、水沼君は腰を痛め、足首のねんざもあって、この大会では力を出せなかったからである。しかしBの将来性を基準にすれば、ユース代表のエースに期待されているほどのホープなんだから、当然選ばれていいだろうと思う。
 ところが、一方では、室蘭大谷の江花豊君が30人の中にはいっていない。室蘭大谷は、北海道代表として、初めて決勝に進出し、大会を盛り上げたチームである。その中で江花君は、中盤でしばしばセンスのよいパスを出して攻撃の糸口を作り、ときには勝利に直接結びつく決定的なパスも出した。@の貢献度と、Aの活躍ぶりを主な基準にするのなら、江花君は優秀選手に選ばれて当然である。
 おそらく、江花君の場合はBの将来性の点で、技術委員の先生方の目にとまらなかったのだろうと思う。身長162センチというのは、国際試合の代表になるには、いまのところ体力的に不安がある。
 水沼君の場合は、貢献度と活躍ぶりを基準に除外し、将来性は考慮されなかった。江花君の場合は貢献度と活躍ぶりは無視され、将来性を基準に除外された。これはちょっと納得がいかない。

活躍ぶりに重点を
 優秀選手による高校選抜チームを編成して、春休みに海外遠征をするのは、毎年の例だが、ことしはスイスのベリンツォナ国際ユース大会に参加する。これまでの海外遠征は親善試合だけだったが、今度は大会参加になるので、Bの「チーム編成上の配慮」が比較的重くみられたようである。
 優秀選手を選ぶときに、チーム編成のためのバランスを考慮するのは当然のことで、極端なことをいえば、いい選手が見当たらなかったからといって、ゴールキーパーを1人も選ばないというわけには、いかないだろう。
 しかし「大会の優秀選手」を選んで表彰するのだから、チーム編成の都合で“即戦力”の選手ばかりを集めるのは趣旨に合わない。チーム編成のための配慮は、最小限にとどめるべきだと、ぼくは思う。
 チーム編成の都合を重視するならば、どうしても、そのチームを率いていく監督の意見を主としてきかなければならないが、監督の主観によって、選手の選び方は、ずいぶん変わってくる。足の速い選手を集めたい人もいるだろうし、体格のいい選手でチームを固めたい人もいるだろう。日本代表チームやユース代表を率いて外国と試合をする場合には、このような監督の個性によるチーム編成でいいのだが、大会の優秀選手を選ぶときには、これは適当でない。
 今回の選考ではテクニシャンの選手は、はずされている。愛知の小池典幸君、静岡学園の成嶋徹君、宮原真司君などである。これは、ヨーロッパに行って戦うチームを作るためのチーム編成の方針に、かなり左右されたためではないだろうか。ここに名前をあげた選手は、ユース候補に名前があがっていたほどだから、国際試合に向かないタイプとはいえないけれども、個性の強い選手だけに、監督によっては、まったく「好みに合わない」ことが考えられる。
 さきにあげた基準の地域的配慮については、うれしいことに最近はあまり考える必要がなくなってきた。北国からも、四国、九州からも、技術のしっかりした優秀選手が出るようになったからである。
 最後に結論だけをいえば、大会の優秀選手は、大会での貢献度と活躍ぶりを、主な基準にして選ぶべきである。中途半端に、将来性やチーム編成上の配慮をするのはかえって弊害がある。


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