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サッカーマガジン 1978年10月25日号

時評 サッカージャーナル

日本代表チームの風当たり

欧州遠征の成果は?
 このところ、ぼくの友人たちの間で、日本代表チームへの風当たりが強い。来年のモスクワ予選を心配するあまりのことだが……。
 「ムルデカ大会は、ひどかったよな。8チームの中で5位だろ。もうちょっとはやれると思ってたんだけどな」
 「韓国に0−4の負けは、問題だよ。モスクワ予選は見込みないんじゃないの」
 「ムルデカのあと、そのままヨーロッパヘ行って、いったい何をしてたんだか。さっぱり新聞にも出ないしな」
 ヨーロッパ遠征の結果が日本の新聞に出ないのは、なにも二宮監督の責任ではないが、ファンがやきもきする気持は、よくわかる。帰国した二宮監督の報告によるとヨーロッパヘ行った日本代表チームは、8月上旬の10日間は西ドイツでキャンプを張って主として練習だけ。8月10日に近くのクラブチームと練習試合をして4−2で勝ち。14日にイギリスへ行ってコベントリーに0−2で負けたあと、ベルギーでプロのクラブチーム相手に3試合をして1引き分け2敗たったそうだ。
 強化キャンプのために出かけたのだから、試合の成績は、それほど問題ではない。問題ではないがはたして、貴重な時間とお金を使って、ヨーロッパに出かけただけの効果があったのだろうか。
 「ヨーロッパヘ行っても、なかなか相手をしてくれるところがなくて試合のアレンジに苦労してるって話だよ」
 「ちゃんとした相手と、ちゃんとした試合をできないんだったら日本で合宿したほうが、よっぽどいいんじゃないの?」
 「これ、前に聞いた話だけど、日本代表に選ばれてヨーロッパヘ行って、ビールの飲み方だけ覚えて帰ってきた、なんていってた人がいる」
 友人たちの話は、また聞きで、聞きかじったようなうわさだから、たいして根拠はないが、そういう話の出どころは大方の見当がつく。「ビールの飲み方……」というのは話に尾ひれがついたものにちがいないが、代表選手たちの所属している日本リーグや大学のチームの監督さんたちの中に、夏のトレーニングの大事な時期に、2カ月近くも選手を持っていかれて、おおいに不満を持っている人もいるようだ。
 「選手を提供させておいて、大学はコーチが悪いから選手がダメになるなんていわれる。こっちにいわせれば、全日本に行ってきた選手は、しばらくの間は使いものにならん。テングになって帰ってくるだけだ」
 「鼻が高くなるだけならいいけど、ひざを痛めたり、腰を悪くしたり、シーズン直前に、こわして返されるんだから、かなわん」
 こんな苦情なら、ぼくも直接、耳にしている。今回の遠征でも、三菱の斉藤和夫、法大の楚輪、東京農大の長沢などが負傷して帰ってきた。こういう選手の所属チームの監督さんたちが、内心、腹立たしく思っているにしても不思議はない。
 もう一つ付け加えれば、選手自身に「代表になってヨーロッパヘいって良かった」という感激がなくなっているような気がする。近ごろの代表選手ともなれば、海外遠征は、もう何度も経験していて珍しくない。代表チームにはいったからといって、特に新しい技術や練習法や考え方に、お目にかかれるわけでもない。「全日本でやるより自分のチームでやるほうが、よっぽど楽しい」と、あるベテランの選手がいっていた。

監督を替えるべきか
 「ふーん。そんなんならヨーロッパ遠征なんか、やらないほうがいいな」
 「だいたい、二宮監督がよくないんじゃないの? 監督を替えるべきだよ」
 ぼくの話を聞いて、友人たちはたちまちエキサイトした。
 「まあ、まあ、待て、待て」
 と、ぼくは押しとどめた。
 たしかに、ことしの日本代表のヨーロッパ遠征は、失敗だったのではないかと、ぼくは見ている。昨年のヨーロッパ遠征のときは、1FCケルンやボルシア・メンヘングラッドバッハなど西ドイツの一流のクラブのキャンプに、日本の選手たちが分散して加えてもらった。スペインの国際大会にも初めて参加させてもらった。どちらも選手たちにとって珍しい、新しい経験だった。ことしはそれがない。なんとなくヨーロッパに行き、ようやく相手を見つけて試合をさせてもらったような感じである。
 「しかしだよ」と、ぼくは友人たちに説明した。
 「スポーツの監督やコーチたちに求められているのは、試合の結果なんだ。今度の二宮全日本のヨーロッパ遠征の成果を、うわさ話の印象だけで判定するのは、どうかと思うな」
 そういうわけで、ぼくは中国の北京チームとの試合に注目したいと思う。ヨーロッパ遠征に成果があったのなら、必ず、それはこの試合の中にあらわれるはずだ。もちろん、これは友好試合であって「勝敗第一」というわけではない。しかし、相手は同じアジアの、それも単独チームである。しかも、日本の地元に迎えての試合である。試合に勝って、成果を示してくれておかしくない。
 「するてえと、なにだな、北京に負けりゃあ、監督はクビだな」
 アンチニ宮の友人は、なかなかホコ先を収めない。
 「そりゃ、内容がよほど悪けりや日本サッカー協会も考えるべきだろうな。少なくとも12月のアジア大会で成果をあげられないようなら決断しなきゃあな」
 「お前、はじめて良いことをいった。その意見をちゃんと原稿に書けよ」
 ここで良識派の友人が口をはさんだ。
 「だけど、そんな悪口を書いたら、今後の取材に差しつかえるから、サッカー・マガジンで載せてくれないんじゃないのか?」
 マガジンの編集部は、それほど臆病ではないし、日本のサッカーマンは、それほど狭量ではないとぼくは信じている。


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