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サッカーマガジン 1978年7月25日号

時評 サッカージャーナル

ワールドユースへの心配

マルデルプラタで
 ブエノスアイレスから南へ400キロ。大西洋岸の港町マルデルプラタで、この原稿を書いている。いうまでもなく、ここはワールドカップの会場地で、優勝候補のブラジルは、ここに居すわって1次リーグの3試合をした。だから町の中は、ブラジルから来た5000人を超す応援団と新聞記者であふれている。
 スタジアムの記者席でブラジル人の記者2人に話しかけられた。
 「フニオール・ムンディアル。どう?」       
 「フニオール? ああ、世界ユースのことね。来年8月に日本でやるんだ」
 「会場はいくつの都市を使うのかね。トオキョウ、オオサカ、二つだけ?」
 「いやいや、まだ決まってないけど、8つくらいの都市でやる予定だ」
 「おお、楽しみだね」
 「お前、日本に来るのか?」
 「おお、もちろん。おれはFIFAのアベランジエ会長の友達なんだ。だから必ず行けるんだ」
 大金持のアベランジュ会長のアミーゴだとは、とても思えない風態だったが、ともかく、来年8月〜9月に日本で開かれる第2回コカ・コーラカップ世界ユース選手権大会に大きな関心を持っていてブラジルから日本へ取材に行こうとしていることは確かである。
 ブエノスアイレスのプレスセンターでは、ウルグアイの記者からインタビューを受けた。新聞記者が新聞記者から取材するわけで、国際大会ではよくあることだ。
 ウルグアイの記者の知りたがっていたのは、世界ユースの日程や会場や準備状況などだった。ぼくはあいにく資料を持っていなかったので、知っていることだけを簡単にしゃべり、日本から来ているサッカー協会の役員のホテルを教えて「詳しく知りたければ、そちらへ行け」といっておいた。
 こういうふうに、来年の世界ユースヘの関心が意外に高いのを知ると、こちらはちょっと心配になってくる。競技場の施設は大丈夫なんだろうか? チームや外国から来る報道関係者の宿舎や交通手段は確保されているのだろうか? 報道サービスのことを日本サッカー協会は考えているのだろうか?
 不安なことがいっぱいある。
 いま、ぼくが滞在しているマルデルプラタの町は、人口40万人の小都市だが、町の中には安くて設備のいいホテルがたくさんある。というのは、ここは海水浴場として世界的に有名な観光地で、夏には外国からのお客さんが延べ600万人も来るからである。
 南半球のアルゼンチンは、いま冬である。だから海水浴場であるマルデルプラタのホテルは、がらがらに空いている。ワールドカップのブラジルの試合の会場地に、ここが選ばれたのは、そのためだ。ブラジルのチームには、5000人以上の応援団がついて来ていた。地方の町で、これだけの外国人のお客を受け入れることのできるところは他にはない。
 ホテルの問題だけじゃない。ブラジルからは350人もの新聞記者がこの町に来ている。大会期間中に彼らはそれぞれ、毎日4ページ以上を埋める記事を送らなければならない。毎日、毎日のテレックス量は膨大なものである。それを処理する国際通信の設備と技術者を用意しなければならない。マルデルプラタでは、海に臨む豪華なホテルを全部借り切ってプレスセンターにあて、国際電信電話だけで100人以上動員され、24時間オープンしていた。

施設、運営は大丈夫か
 冬のマルデルプラタは、雨が多くかなり冷え込む。ブラジル・チームにとっては不利だったが、以上のようなわけで、ここで試合をせざるをえなかった。一方、アルゼンチンとしては、適切に会場を選び、必要な準備をちゃんと整えていた、ということができる。
 アルゼンチンの大会運営の不手際を伝えるニュースが一部に流れている。日本の新聞にも、あるいは載っているかもしれないが、しかし、そのニュースは間違っている。
 全体的に見れば、アルゼンチンはよくやっている。ぼくの知っている限り、これまでの大きな国際スポーツ大会で、もっとも運営の良かったのは、1970年のメキシコ・ワールドカップだったが、アルゼンチン大会は、これには及ばないけれども、他の大会、たとえばモントリオール・オリンピックや前回の西ドイツ・ワールドカップにくらべ、運営はまさるとも劣らない。
 ただ、お国ぶりの違いというものはあるし、一部だけをとれば手違いがあるのも、やむをえない。
 外国から来た人間が、たまたま自分たちのやり方と違うやり方にぶつかって腹を立て、ちょっとした手違いに目くじらを立てるのは見当違いだろう。
 雨と寒さのマルデルプラタでブラジルが3試合させられたことについて「ライバルを不利にさせるためのアルゼンチンの陰謀だ」といった人がいた。それが、とんでもない言いがかりであることはここに説明したとおりである。
 ブエノスアイレスで大会前に開かれたFIFA総会のときに、日本サッカー協会の役員に会ったらやはり何か手違いにあったとみえて「運営だけなら、日本は、うまくやるんですがねえ」と不平をいっていた。
 「とんでもない」とぼくは思う。
 東京でアジア・ユース大会をやったときには、各国チームは狭くて寒い宿舎に入れられて不満は爆発寸前だった。あの東京オリンピックのときにも、記者席の割当が不公平だとフランスの記者団が日本の組織委員会を非難するキャンペーンをはったくらいだった。
 ついこの間のジャパン・カップだって、報道サービスはむちゃくちゃで、香港まで来ているボルシアMGの来日予定が、協会発表と外電とで食い違い、結局外電のほうが正しかった例がある。
 こういう前例にくらべれば、アルゼンチンは、施設、運営とも立派なものである。それだけに来年の世界ユースがうまくいくかどうか、ますます心配になってきた。


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