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サッカーマガジン 1978年6月25日号

時評 サッカージャーナル

代表チームの監督の座

二宮対渡辺の勝負
 「日本チームのメンバーは、どうやって選ぶのかね。あの顔ぶれには納得できんな」
 うるさ型の友人が、しつこく文句をいっている。アムール・ブラゴシュベンスクとの試合のときもそうだったけれど、今度のジャパン・カップでも、日本の2チームの編成に、おおいに意見があるらしい。「日本のサッカーが強くなってほしい」と熱望している熱血漢なんだけれど、日本のサッカーの内情にそうくわしいわけじゃないから、見当違いをいうことも多いんで、ときどき閉口する。
 しかし、今回は同じような考えの読者からのお便りを、いくつかいただいたので、取りあげてみる気になって、新たに技術委員長になった平木隆三氏に聞いてみた。
 「日本代表のメンバーは、みな二宮君が選びますよ。病気や負傷で来られない選手は別として、みな二宮君が決めた顔ぶれです」
 「でも、日本サッカー協会の技術委員会で討議して承認するんでしょ?」
 「形の上では、そうだけれど、二宮監督がリストを出して、選んだ理由を説明するだけでね。技術委員会で変更させたことはない」
 「それじゃ意見は出ないわけ」
 「いや、委員の中から意見も出るし、質問も出ますよ。でも押しつけることはない」
 「マラハリム・カップに選抜チームが遠征していたけど、そっちのほうに欲しい選手を出しているなんてことは………」
 「それはない。今度のジャパン・カップは“日本代表”を最優先です。残りの選手から“日本選抜”も、マラハリム・カップのメンバーも決めている」
 ついでに、渡辺正監督の率いる“日本選抜”の決め方も聞いてみた。
 「これはね、基本的には渡辺監督が選ぶわけだけど、二宮監督のほうから、これを入れてくれと注文は出る。これから代表のほうに上がってくる候補が多いんだから、それにユースのほうからも、この選手を使ってみてほしいという話がある。ワッタン(渡辺監督)は広く見て歩いているわけではないから他の技術委員の推薦を聞いたりもする。でも自分でも、かなり試合を見て歩いてますよ」
 なるほどよくわかりました――とぼくは納得した。代表チームのメンバーは、最終的には監督の全責任で選ぶべきである。そのかわり、結果についても、監督が全責任を負っている。
 平木委員長の話をきいたのは、日本代表と日本選抜が合宿にはいる前日だった。
 「あすから、二宮と渡辺の勝負ですな」
 平木委員長はニヤリとした。
 二宮全日本のほうが、渡辺選抜よりも、優先的に、希望どおりの選手をもらっているのだから、これはハンディつきの勝負である。
 これで二宮全日本のほうの成績が悪かったら、監督はカナエの軽重を問われるだろう。    
 一方、渡辺選抜のほうも、結果はともあれ試合ぶりに「やるな!」と思わせるところを示してもらわなければ話にならない。なにせ、渡辺監督は、メキシコ・オリンピッグ銅メダルの名選手ではあるが指導者としてチームを育てた実績はほとんどないのだ。ここでコーチとしての才能のカケラぐらいを見せないことには、この人物を監督に指名した協会の技術委員会の鑑定眼が疑われる。
 そういうことなら面白い。サッカー協会の日本チーム編成のやり方は、やっぱり間違っていないなと、感心したのだが、がんこな、ぼくの友人は納得しなかった。

技術委員会の責任
 「それじゃあ、なにかね、二宮や渡辺が、勝手に自分の好みで日本チームをつくって負けるのを、ほかの人間は地だんだ踏みながら見てなきゃいかんのかね。モスクワ・オリンピックに行けないことが、はっきりしたあとで、いやあ、残念でした、ご苦労さんですむのかね」
 熱情はわかるが、がんこな友人の意見には間違った点がある。
 第一に、二宮全日本にしろ、渡辺選抜にしろ、負けると決まっているわけじゃない。第二に、自分の好みでチームをつくるのは当然で、意見は十人十色なんだから、みんなの意見をきいて、妥協してチームをつくって、うまくいくわけがない。そして第三に、監督をかえるのは、別にモスクワ・オリンピックの予選がすむのを待たなければならないわけではない。
 「ほう、そうかね。じゃあ、二宮監督には、すぐやめてもらいたいな」
 と友人は、ますます、意固地になっている。
 ぼくは、それほど極端には考えない。ぼくの考えでは、二宮監督は、日本代表チームを引き受けてから、少なくとも二つの点で実績を残している。
 一つは、奥寺康彦君を一昨年のムルデカ大会の得点王にしたことであり、もう一つは、藤島信雄君を、いわゆる“中盤の底”(ディフェンシブなハーフ)に使って、彼の新しい才能を引き出したことである。
 奥寺君はプロになったので、残念ながらモスクワ予選には使えないが、藤島君の場合は「彼がリンクマンをやらなきゃならないようじゃ日本チームはダメだ」と思っていたので、最近の彼のがんばりにはシャッポを脱いでいる。日本リーグで鋼管が前期5位の成績を残したのも、今季から藤島君が、鋼管でも“中盤の底”をやるようになったためである。
 そういうわけで、二宮君には明らかに監督としての資質はあると思うのだが、そうであっても、もしジャパン・カップで日本の成績がひどいものであれば、あるいは技術委員会と二宮監督の考え方に食い違いがあるのであれば、協会はいつでも二宮監督をクビにしていいと思う。
 1970年のワールドカップで優勝したブラジルは、大会の3カ月前に監督をかえ、マリオ・ザガロを起用して成功した。これも一つのやり方である。ただし、その場合の責任は、監督をかえた協会の技術委員会のほうにある。


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