A級国際試合とは
「ジャパン・カップ」がようやく実現した。まあ、結構なことであると思う。できることなら、地元の日本チームが優勝を争うような大会であってほしい。だけど無理だろうな。
このところ日本代表チームについては、いささか気になることが多い。だいたい「日本代表」という呼び方からして、ひっかかる。
ジャパン・カップに出場する日本チームは「日本代表」と「日本選抜」になっているが、この名前もぴったしじゃないんだな。
ほんとは、FIFA「国際サッカー連盟」の公認する正式の国際試合に出るチームだけに「代表」の名称を使ってもらいたい――とぼくは思っている。そういうけじめはつけられないもんだろうか。
「日本代表」の名前を乱用されると、ぐあいの悪いことがある。たとえば、次のような例も、その一つである。
アムール・ブラゴベシェンスクが来日したときのプログラムを見て気がついたのだが、日本チームのメンバーのところに、次のように書いてある。
藤島信雄 A(129)
永井良和 A(118)
落合 弘 A(91)
………
Aというのは、日本代表のAチームという意味で、数字は、Aの代表で出場した試合数を示しているものらしい。
これは困るんだなあ。
代表チームの選手として国際試合に出た回数を、英語では「キャップ」といって、一つの記録として大事にしている。
これまでの「キャップ」の世界最高はイングランドのボビー・ムーアの108回である。
西ドイツのフランツ・ベッケンバウアーは103回の記録をもっている。いずれも「A」、つまり代表のAチームとして国際試合に出た同数である。
これと並べて、藤島信雄129回というのは、ぐあいが悪いんじゃないか。藤島君は、世界記録保持者なのか?
ボビー・ムーアやベッケンバウアーの記録は、FIFAの公認した正式のA級国際試合だけを数えたものである。A級国際試合は、両国のサッカー協会同士でアレンジされ、地元側が最強メンバーの代表チームを出したときだけに認められる(FIFA規則第三条)。ワールドカップの予選も含めて、すべてA級国際試合だが、日韓定期戦のような試合もA級として申請できる。この場合、審判員は第三国から招き、試合収入の2%をFIFAに納めることになっている。A級国際試合は、例外なく代表チーム同士の試合である。
ところがだ。
日本サッカー協会の作っているプログラムに書いてある数字には要するに「日本代表」と称して出場した場合は、みそもくそも、みな含めてあるらしい。早い話がソ連の3部リーグのクラブを相手に負けた試合も「A」というわけである。「これは日本の習慣だ」と強弁するなら仕方がないけれどサッカーは世界のスポーツなんだから、国際的習慣を大事にしたほうがいいんじゃないか。
FIFAの規則では、地元チームが「代表」であれば、A級として認めることになっているが、ふつう相手が「代表」でなければ、こちらも「代表」とはしないようである。
そういうときに、よく“選抜”という名目が使われる。東南アジアの国では、地元チームが“プレジデント・セレクション”などと名乗っていることがある。大統領の選抜という意味だろうが、中身は代表チームの顔ぶれと、ほとんど変わらない。
内容にも異議はある
「それじゃ、正式のインターナショナルの試合だけ日本代表と呼ぶことにして、そのほかの場合は何かニックネームを使ったらどうだろう。前に韓国が代表チームのAとBを、青竜、白虎と呼んだことがあっただろ」
と友人が提案した。
「花の名前なんかどうかね。キクとサクラとか。山の名前で富士と高千穂もある」
「やまと(大和)、やしま(八洲)もいいぞ」
「ますらお、もののふ、はどうだ」
どれも、ぴったしかんかん、とはいかないようだ。発想で当人の年齢が知れそうである。
もっとも、相手と内容はともあれ、藤島君が百数十回も“日本代表”として試合に出ているのは、たいしたものである。それはそれとして記録しておくのは結構だ。
ただ、代表の「A」「B」「ジュニア」「ユース」というのは、国際的にちゃんとした定義のある分類だから、勝手に日本風に使わないほうがいいと思うわけである。少なくとも非公式のAと公式のAとに分けておいてもらいたい。
「それにしても、お前はつまらんことを気にするな。問題は名前より内容じゃないか」
と友人が、からんできた。
「アムール・ブラベシェンスクとの試合ぶりなんて、どう転んでも日本代表の名前には値しないよ。日の丸つけて、あんな試合をしてほしくない」
「そうだ、そうだ。バックの斉藤和夫を、ぶっつけ本番でストライカーに使って、テストだなんてバカにしている。あれで金とって試合を見せてるんだから、ひどいものだ」
「ヨーロッパあたりだったら二宮監督は、とっくにクビだな」
「ブラジルだったら射殺されてるよ」
どうも友人たちは、悪酔いしてきたらしい。
ぼくだって、名称より内容のほうにもっとたくさん異議がある。
日本代表と銘打って、有料の国際試合であんな、ぶざまな試合をしたら、監督を交代させても、おかしくないと思っている。
協会の技術委員長が、今度、岡野俊一郎氏から平木隆三氏に代わった。岡野氏が多忙なためで、責任問題とは関係ないようだが、平木−二宮の新体制のお手並みはジャパン・カップでとくと拝見したい。
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