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サッカーマガジン 1978年5月10日号

時評 サッカージャーナル

プロの足音が聞こえる

プレーヤーズ制度
 日本にも、プロ・サッカーの時代が近づいている。その足音はまだかすかではあるが、確実に大きくなりつつある。
 昨年、奥寺康彦君が日本人のプロ・サッカー選手第1号として西ドイツのケルンに行ったとき「やがて日本にもプロの時代がくる」という予感がした。奥寺君が向こうで結構、活躍しているニュースを聞くと、この予感は、ますます確かさを増したような気がする。
  そして、さらにこの3月、プロ・サッカーへの道を大きく切り開くニュースがあった。それは日本体育協会が「テニスのプレーヤーズ制度を認めた」というニュースである。
 「テニスとサッカーと、どんな関係があるんだ」と思う読者がいては困るから、くどくなるが少し詳しく説明することにしよう。
 テニスの「プレーヤーズ制度」とは、プロの選手を庭球協会に登録させることである。世界のテニス界では、各国の庭球協会に登録する選手を「アマチュア」と「プレーヤー」に分けているが、簡単にいえば「プレーヤー」とはプロ選手のことで、「プレーヤーズ制度」の趣旨は「プロ選手をアマチュアと同じ協会で管理して弊害を防ごう」ということだ。
 この「プレーヤーズ制度」を日本のテニス界ではこれまで公然とは採用できなかった。その理由は、日本庭球協会が日本体育協会に加盟していて、日本体育協会のアマチュア規定にしばられていたからである。体協のアマチュア規定では、体協の加盟団体は、プロの競技者を登録させてはいけない決まりになっている。
 それが、この3月に、体協がテニスの「プレーヤーズ制度」を認める――つまり日本庭球協会がプロ選手を支配下に置くことを認める――ことになった。体協が規則を変えたわけではなく、テニス界の現実をしぶしぶ認めざるをえなくなった形だから、まだあいまいな点は残っている。しかし、ともかく体協の方針はがらりと変わったわけである。これは将来、日本のスポーツの構造を大きく変える可能性のある“大事件”だとぼくは思う。
 ところで、サッカーの場合も事情はテニスとまったく同じだ。
 国際サッカー連盟(FIFA)の規則では、各国のサッカー協会は、アマチュアもプロも登録させて、同じように一つの協会のもとでコントロールしなければならないことになっている。一方、日本サッカー協会は、日本庭球協会と同じように、日本体育協会の古くからの加盟団休である。
 ただ、テニスの場合は、日本ですでにプロが現実のものになっているのに対し、サッカーは、まだ、そうなっていないという違いはある。
 ともあれ、日本にプロ・サッカーが生まれる場合に、体協の方針がもとの建前のとおりだったら面倒なことになるにちがいない。したがってテニスのプレーヤー制度は、将来のサッカーのプロ選手登録のために貴重な先例になるだろうと思う。庭球協会にプロの登録を許して、サッカー協会には許さないというわけには、体協としても、いかないだろうからである。
 体協では、とりあえずテニスと卓球について「プレーヤー」を認め、根本的な規則の再検討は「モスクワ・オリンピックのあと」まで見送ることにしたらしい。だがいったん動き出した歴史の歯車を逆にまわすことは不可能である。
 モスクワのあと、1980年代には、日本にもプロ・サッカーの時代がくる―――と見てもよさそうだ。

協会も研究と準備を
 さて、まわりの条件が整ってきはじめたのだから日本のサッカー界もプロ導入のための研究と準備をしておく必要がある。
 ぼくがいいたいのは、プロにふさわしい試合ができるようにチームを強くしろとか、観客が少なくてはプロが成り立たないから人気を集める方策を考えるとか、いうようなことではない。
 レベルの向上も人気の振興も大事なことにはちがいないが、プロの問題とは次元が別である。下手で人気がなければプロは成り立たないだろうけれど、そうならば無理をしてプロにすることはない。
 問題点は別にある。
 日本のサッカーにプロを取り入れる条件が熟してきたときに、日本サッカー協会の物の考え方や体制が整っていなければ、大きな混乱と弊害の生まれる心配がある。そのことを、いまのうちから考えておいてもらいたい。
 この点については。すでにテニスは苦い経験をしている。
 さきに説明した「プレーヤーズ制度」は、外国のテニス界では早くから採用されていたが、日本では国内的には施設できなかった。体協のアマチュア規定が障害になっていたのは説明したとおりだが、日本のテニス界の長老の人たちの保守的な考え方も、世界の流れを理解するのを妨げていた。
 しかし現実には、日本の選手は外国にいってプロのトーナメントに出るし、外国の選手が日本にきて賞金つきのトーナメントが行われる。それを日本庭球協会が力ずくで抑えることは不可能だった。
 一方、日本庭球協会はそのころ、プロ、すなわちプレーヤーの登録を認めていないのだから、プロ選手やプロの大会をコントロールすることができない。日本の国内に日本庭球協会とは別にプロテニス協会がつくられ、国内でプロの大会を主催するのを、手をこまねいて見ているほかはなかった。
 ことし、ようやく「プレーヤーズ制度」を採用することになったが、既成事実となってしまったプロテニス協会との間に、すでにトラブルが起きている。
 似たような混乱が、オランダやアメリカにプロ・サッカーが生まれたときにも起きている。日本にプロ・サッカーが生まれるときに、このような誤りを繰り返してはならない。
 権力ずくで流れをせき止めようとしても、渦巻きを大きくするだけである。流れに沿って堤防を造るのが賢明なやり方であることをあらかじめ学んでおいてほしい。


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