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サッカーマガジン 1978年4月10日号

時評 サッカージャーナル

モスクワ目指す強化合宿

フジタの4選手が不参加
 「モスクワ・オリンピック強化候補選手選考合宿」とものものしいタイトルをつけた合宿が2月17日から21日まで5日間、干葉の東大検見川グラウンドで行われた。合宿といっても、参加者をグループに分けて毎日、練習試合をして、その中から有望選手を探し出したのだそうだ。その結果、31人が選ばれて「モスクワ・オリンピック第1次候補選手」に決まった。
 さて、この検見川の合宿に参加するように指名された“候補選手の候補”は52人だった。これについて、ぼくの周辺の自称サッカー通どもは、なかなか手きびしい。
 「いまごろ52人も集めて、この中から有望選手を探すなんて手遅れじゃないかね」
 「顔ぶれを見たって、だいたいどの程度の選手かわかっている連中ばかりだよな。いまさら新たに日本代表候補に加えるのは、おかしい年齢の選手もいるし……」
 「若手だけを集めて、ジュニアの代表チーム強化を兼ねて選考するというならわかるけど、高校生から30代の選手までとりまぜて“候補の候補”だなんてずれてるよ」
 いいたい放題である。
 ところが議論をしているうちに話は妙な方向にまがっていった。
 「それで52人の選手たちはみな検見川に集まったの?」
 「いや、けがしているという理由で7人が来なかった。しかも奇妙なことに、そのうち4人はフジタの選手だった」
 「天皇杯と日本リーグに優勝して、ほっとひと息ついたところに“候補の候補”の合宿じゃ、たまらんよな。気持はわかるよ」
 「案外、合宿をボイコットしてスキー場で羽根伸ばしてるんじゃないの――なーんちゃって」
 「ぼくは、けしからんと思う。候補の候補だって、オリンピック代表に選ばれるチャンスなんだ。名誉に思って、少しくらいのけがでも、はせ参じるのが本当だ」
 「そりゃ古いね。オリンピック至上主義じゃないの。いまどきの若い者に、お国のためだというのは通じませんよ」
 だんだんテーマが本筋からそれていっちゃいそうだけど、フジタの選手が4人そろって不参加だったとは異常である。これは調べてみなくちゃいけない。
 52人のリストを見ると、天皇杯と日本リーグの2冠をとったフジタの選手は6人はいっていた。そのうち、合宿にこなかったのは脇、古前田、小滝、佐々木の4人である。あとの2人、今井と園部は、第1日の集合に遅れたけれども、ちゃんと参加している。フジタがチームとして「オリンピック強化候補選考合宿」を、ボイコットしたのではないらしい。
 フジタの石井義信監督にもきいてみた。
 「いやあ、参加しなかった4人は、本当にけがですよ。古前田はもともと身体に故障があったのを無理させていたんですから……」
 「ただ、連絡は悪かったと思います。2月12日に日本リーグの試合が終わったあと16日まで休みにした。その間に休暇をとってくにへ帰ったり、遊びに行った選手もいたから連絡が不徹底だった。私自身、広島に行っていて、そういう合宿をやることは、前にリーグのほうから聞いてはいたけれど、うちから6人もはいるなんて知らなかった。4人の不参加は18日に二宮監督に伝えたんですが……」
 これ以上ほじくり返しても、はじまらないから、石井監督の説明を額面どおり受けとっておくことにしよう。技術委員会が開かれたのが13日、52人の名前が発表されたのは15日だったから、連絡をとる時間の余裕が、あまりなかったことは本当のようだ。

胸の日の丸に感激を
 このフジタの4選手のケースはこれ以上追及する必要はないと思うけれど、一般論としては、これから、いろいろ考えてみなくてはならない問題をふくんでいる。
  日本サッカー協会に対していえば、ナショナル・チームの強化スケジュールを組むときに、クラブの事情や選手の都合を、もう少し思いやっても、いいんじゃないかと思う。
 一つは合宿の時期の問題だ。長かったリーグが終わって、ほっとするひまもなく、たちまち協会から招集がかかる。若い選手ならともかく、ベテランは「しんどいな」という気持になりがちではないだろうか。
 いまはナショナル・チームの強化責任者である二宮監督が、三菱の監督だったときに、こんなことをいっていたことがある。
 「ヨーロッパのプロの一流選手はシーズンが終わると地中海でヨットに乗って遊んだりして、パァーッと気分を発散させる。その点、日本の選手は、サッカーを離れるときがほとんどないのが、かえってマイナスになっている」
 これは、まったく、いい意見だと思う。そうであれば、この時期は、少なくとも日本リーグのレギュラー級には、サッカーを忘れる期間をつくってやってもよかったのではないだろうか。
 とくに今回は、有望選手を見つけるための“候補の候補”の選考合宿だった。そこに、たとえばフジタの脇主将を入れるのが適当だろうか。脇主将はすでに28歳。実力の程は、十分にわかっているはずである。日本代表には、これまで一度もはいったことはない。本人も「何をいまさら」という気持がしたのではないだろうか。
 一方、日本代表あるいは代表候補に選ばれた選手と、その選手の所属クラブ(チーム)は、代表に選ばれることの意義を、もっと大事にしてほしいと思う。都合で参加できないことがあるのは、やむを得ないし、また選ばれても辞退する権利があるのは当然である。 しかし協会の組織に属している以上、参加できないときには、きちんと礼を尽くして辞退するのが本当だろう。
 若い選手たちが、日の丸を胸につけるチャンスに目を輝かせて合宿に来るようであってほしい。そうするのは、協会とクラブ・選手の両方の責任である。


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