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サッカーマガジン 1978年1月10日号
時評 サッカージャーナル

大学サッカーの改革案

組織が間違っている
 「日本のサッカーは、なかなか強くならないなあ」
 と友人が嘆いた。
 そこで、ぼくがきいてみた。
 「毛利元就の三本の矢の教えを知ってるかね」
 「知ってるさ。だけど三本の矢がサッカーに、どんな関係があるんだ?」
 戦国の武将、毛利元就が病床に3人の子供を呼んで遺訓をのこした。まず、一本ずつ矢を渡して折らせると、みな簡単に折れた。次に三本の矢を束ねて渡すと、力いっぱい折ろうとしても折れない。つまり、一つずつに分かれていると弱いが、三つ力を合わせれば強い。三人兄弟が力を合わせて敵に当たるべし、という教えである。
 「日本のサッカーには残念ながらトップ・レベルの選手が少ない。その少ない人材を、ばらばらに分けて鍛える組織になっている。つまり、三本の矢を束ねないで、わざわざ弱くしてるわけさ」
 ぼくのいうのは、たとえば日本リーグと大学リーグの関係にあてはまる。
 ユース候補になるような、高校サッカーのトップ・クラスの人材は、卒業すると、ほぼ半数は大学に進学し、半数は日本リーグのチームにはいる。そして日本リーグのチームと大学チームが試合をする機会は、めったにない。公式のタイトルマッチは、天皇杯の1回戦に、せいぜい4、5試合ある程度である。
 つまり、18歳から22歳くらいまでの伸び盛りの時期に、それでなくても少ない人材を、2つのグループに分けて、おたがいに腕を競い合う機会を、わざわざ少なくしているわけである。
 日本リーグのチームの場合は、まだしもである。チームの中に22歳以上の経験を積んだ選手が多勢いるから、レベルは比較的高い。大学にくらべれば、リーグの試合数も多く、経験を重ねるチャンスにも恵まれている。
 ところが大学チームは、ふつうは22歳くらいまでの選手しか使えないから、レベルの高いチームを作ろうとしても限度がある。そのうえ強いチーム同士の試合の機会といったら、関東大学リーグのチームの場合、上位同士の2、3試合と天皇杯の地域大会でて2試合、決勝大会に勝ち進んだとしても、せいぜい、さらに1試合。合計で年にせいぜい5、6試合くらいのものである。同じくらいの年齢のヨーロッパの選手だったら、強いチーム同士の激しい試合を、年に40試合以上やっている。これでは人材が育たないのもあたり前である。
 大学チームの試合の機会を増やそうというので、春には大学の春季対抗戦をやり、夏に総理大臣杯の全日本大学トーナメント大会をはじめた。これが、ぼくにはよくわからない。全国大学サッカー連盟の首脳部は、何を考えているのか不思議である。
 大会をやるのは必ずしも悪いことではない。レベルの低いチームや相手チームの少ない地方校にとって刺激にはなる。
 しかし、大学のトップ・レベルのチームにとって、また日本のトップ・レベルを目ざす人材にとって、このような大会が何ほどのプラスになるだろうか。
 必要なのは強いチーム同士のきびしい試合の経験あって、弱いチームを相手にした親善試合ではない。
 法大、筑波大、早大、大商大など、高校サッカーの育てた有望な素材を集めているチームは、日本リーグ・レベルの相手と競い合って腕をみがく機会を持たなければならない。

長沼専務理事の私案
 関東大学リーグの試合をいくつか見たが、内容の貧しいのに涙が出そうになるくらいだった。「これじゃ、日本リーグの2部にも勝てないよ」といっていたら、本当に天皇杯の関東大会では、中大が読売クラブに、日体大が日産自動車に、筑波大が住友金属に、枕を並べて討ち死にした。早大だけが古河千葉に勝ったが、これとても決勝大会で多くを期待できそうにはない。
 この状態を放っておいたら、日本のサッカーはいつまでたっても強くならないだろうと思う。有望な素材の半分以上が大学に進んで伸び盛りの4年間を過ごすのだから、大学のサッカーを改革しなければ、日本のサッカーは強くならないはずである。
 日本サッカー協会専務理事の長沼健さんは、この問題について思い切った考えをもっている。
 「大学の卜ップレベルは、日本リーグにはいることですな」
 日本リーグに入れるといっても今となっては、法大や大商大でも1部にはいる力はない。天皇杯関東大会の結果を見れば、2部に割り込ませるのだって問題である。
 そこで長沼健さんのアイデアはこうである。
 日本リーグの1部10チームは、そのままにしておいて、2部10チームを5チームずつ東西2ブロックに分ける。そのうえで東西に5チームずつ新チームを加える。そこに現在の大学リーグ上位校がはいれるようにする。つまり2部のチーム数を増やして、東日本と西日本の2ブロックに分けるわけである。
 この長沼私案は、いいアイデアだと思う。だが、これだけでは十分ではない。
 2部リーグに加わった大学チームは、必ずしも1年生から4年生までの学生だけでチームを作る必要はないことにして、大学院の学生や研究生やOBを加えたらどうだろう。どういう顔ぶれでチー厶を構成するかは、そのチーム自身が決めることだから、大学チームにOBがはいったって、日本リーグの規則には反しない。
 モントリオール・オリンピックのレスリングで金メダルをとった高田裕司選手は、世界選手権にも勝って4年連続世界一になった。この高田選手は、日体大を卒業したあと「研究員」という名で大学に残ってモスクワ・オリンピックを目ざしている。大学チームが日本リーグにはいったら、サッカーでも同じような形で、大学に残る選手が出てくるのではないか。


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