永大チームの規則違反
日本リーグに所属している永大チームが、昨年度に外国籍選手を4人登録したため、規則違反で処罰された。日本リーグと天皇杯の規則には「外国籍の選手のエントリーは、3名を越してはならない」と明記してあるからである。
永大は昨年、ブラジルから連れてきたジャイロ、ジャイール、アントニオの3人を登録していた。これは明らかに外人選手である。
ところがもう1人、河本権福選手(岡山・水島工出身)が実は韓国籍だった。日本リーグのほうでは登録を受けるときに、いちいち戸籍を調べるわけではないから、これに気がつかなかった。シーズンが終わってからわかったので、規則違反をした永大を処罰したわけである。もちろん、これは選手自身には何の責任もない。
聞くところによれば永大は「河本選手が日本への帰化申請を出していたので、シーズン前に帰化できる」と見込んでいたらしい。つまり、自分のチームに外国籍の選手が4人いて、4人とも登録すれば規則違反になることを承知のうえだったわけである。厳重に処分されるのが当然である。
ただし処分の仕方には、フに落ちない点もある。
一つは、大久保監督を処罰したことである。この種の違反は、監督の責任というよりも、部の代表者つまり部長および永大から出ているリーグ運営委員の責任ではないだろうか。
もう一つ、大久保監督の処分は「無期限登録停止」となっているが、なぜ「無期限」にしたのだろうか。ふつう期限を決めない処罰は、今後さらに事情を調査する必要がある場合とか、将来にわたって本人の反省ぶりをみなければならない場合に適用するものだ。
永大の場合は、事情明白なのだから、もっとはっきりした処分をすべきだったと思う。
それはさておき、永大が処分されたのは当然にしても、規則そのものにも問題があるようだ。
国内選手権の試合に出場する外国籍選手の人数を制限しているのは、日本だけの話ではない。スペインやイタリアのリーグでは、外国選手の流入がはなはだしいので、選手数を制限するだけでなく、一時期、新しく外国選手を移入するのを禁止したこともある。もっとも、これはプロフェッショナル・レベルの話である。
外人選手を制限するのには、いろいろな理由がある。
第一に外人ばかりのチームが活躍しては国内選手権としての意義がなくなること。
第二に地元ファンの健全な支持が得られなくなること。
第三に外人選手は、オリンピックやワールドカップの代表選手に選ぶことができないから、代表チーム強化にマイナスもあること、
などである。
けれども、こういう制限の背後には、国によって、それぞれ、さまざまな事情の違いがあることを知っていなければならない。
たとえば日本では、お父さんが日本人であれば、その子はどこで生まれようと日本人である。しかし両親が外国人の場合は、日本で生まれ育っても外国籍になる。つまり国籍は親によって決まる。
ところが外国では必ずしも、そうではない。アメリカやブラジルでは、その国で生まれた子どもは、両親の国籍にかかわらず、その国の国民になる。つまり国籍は出生地によって決まる。
日本生まれには特例を
このように、国によって事情の違いがあるのだから、外人選手の制限規則も一筋ナワではいかないはずである。
この点について、日本には非常に特殊な事情がある。日本には在日朝鮮人が60万人以上いるといわれ、その大部分は二世、三世になりつつある。サッカーをやっているような若い世代は。ほとんどが日本で生まれ、日本で育った人たちだろう。しかし日本の国籍法は血統主義だから、ブラジルなどの出生地主義と違って、この二世、三世も外国籍である。
このような日本生まれ、日本育ちの外国籍の選手を、外国から移入した選手と同じに扱うことが妥当だろうか。小さいときから同じ仲間として育った友だちを、サッカー・チームの中で区別する必要があるだろうか。
国籍の問題は、民族、政治、社会のいろいろな面がかかわりあっていて非常に複雑でむずかしい。
ヤンマーの吉村大志郎君のように、ブラジルで生まれてブラジル国籍をもっていたが、日本に帰化して日本国籍をとり、日本代表選手になった例もあるが、一方同じヤンマーの小林ジョージ君や読売クラブの与那城ジョージ君のように、ブラジル国籍をもち続ける人もいる。彼らにとってブラジルは大切な祖国である。
世界には出生地主義の国が多いくらいだから、日本で生まれた外国人が日本国籍をとるのは結構だと思う。だが一方、両親の国を祖国として生きていこうとする人たちがいるのも、また当然である。
いずれにせよ、このような選択は、純粋に個人の問題であり、サッカー・チームの都合で若い選手たちに帰化を強要するようなことがあってはならない。
そういう事情を考えれば、スポーツの世界で、あまり厳重に国籍の区別をするのは弊害を伴うこともわかるだろう。
天皇杯や日本リーグでは、先にあげた理由で、ある程度の外人制限はやむをえない。しかし日本で生まれ、日本で育った外国籍の選手は5人くらいまでは認めてしかるべきだし、低いレベルの大会、あるいは少年チームや中学生チームの場合には、区別はまったく不必要ではないだろうか。 |