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サッカーマガジン 1976年3月25日号
時評 サッカージャーナル

ソウルでの対イスラエル戦

東京開催断念の真相は?
 「結局のところ、イスラエルとの試合は、日本ではできないわけだな」と友人がいう。「最初から、東京でやるつもりはなかったんだろ? え、そうじゃないのかね」
 いうまでもなく、サッカーのモントリオール・オリンピック予選の話である。
 アジア第3組の予選の日程が発表になったが、それを見ると2次予選が日本、韓国、イスラエルの総当たりになる場合、日本−イスラエルのカードは、韓国のソウルでやることになっている。
 この予選はホーム・アンド・アウェーが原則だから、日本とイスラエルとのカードは、一つを東京で、一つをテルアビブでやるはずのものだが、そのうちの東京の試合をソウルに持っていってやるわけである。
 友人が問題にしているのは、この試合の東京開催を日本が断念したのは、本当は、いつだったのかということである。
 サッカーのオリンピック予選はもともと昨年10月に、東京でやることになっていたが、イスラエルのチームに対する警備に万全を期しがたいことも大きな理由となって中止された。これはよく知られているとおりである。
 その後、ホーム・アンド・アウェーによる現在の方式に変わったのだが、この新しい方式でも、イスラエルの試合を一つは日本でやらなければならないことは、わかっていたはずである。
 日本サッカー協会は、その対イスラエル戦1試合を地元でやるために、どんな努力をしたのだろうか。実際には、たいした努力をしないで断念してしまったのではないか。友人は、そういう疑いを持っているわけだ。
 同じ疑問を、ぼくも持たざるをえない。というのは、2月15日に日程を正式発表するまで、日本サッカー協会は、国民に対して何ら事情を明らかにしなかったし、ぼくたち報道関係者に対しても、積極的に理解を求めようとする努力は一度もしなかったからだ。
 そこで、ぼくの持っている情報を読者のために、ここに提供しておくことにする。
 日本サッカー協会は、少なくとも1月10日には、すでに対イスラエル戦の東京開催を断念している。日本はこの日にAFC(アジア・サッカー連盟)のテオ・チャイ・ヒン名誉主事あてに、試合日程の日本案を送っているが、それによれば、4月11日(日)にイスラエル−日本をやって、4日後の15日(木)に日本−イスラエルをやることになっている。これは日本がテルアビブへ行って、2試合とも向こうでやってしまおう、という案である。
 イスラエルもAFCに案を出しているが。これはイスラエルがこちらへきて、東京とソウルでアウェーの試合をして帰ることになっている。
 テオ・チャイ・ヒン氏は、どちらの案もダメだとして、別にAFC案を作り、1月21日付でFIFA(国際サッカー連盟)に送っているが、これでは、日本がテルアビブに行って2試合をやるというアイデアは無視されていて、イスラエルの極東遠征については、イスラエル案が採用されている。
 このほかに、韓国サッカー協会ものちに独自の案を出した。日本がソウルで対イスラエル戦をやるという最終案は、この韓国案を修正したものらしい。その大筋は、ブルガリアとの国際試合のとき来日していた韓国サッカー協会の金潤河会長との間で取り決められている。
 残念なことに、こういう情報のほとんどは、まず外電などによって外から伝えられたものである。
 日本サッカー協会は、日本の報道機関を通じて国民の理解と協力を求めようという努力を、まったくしなかった。そういう面での協会の機能は、最近ほとんどマヒしている。

ソウルで最善の努力を
 友人は「イスラエルとの試合を東京でやらんのは、けしからん」と憤慨しているのだが、その点については、ぼくは意見が違う。
 反イスラエル派ゲリラの襲撃などの起きる可能性は、それほど高くはないかもしれないが、万一に備える警備に万全を期しがたいと主催者が判断すれば、あきらめるのもやむをえない。サッカー協会は民間の団体にすぎないから、機動隊や軍隊を思いのままに動かす力はないし、また、そんなものものしい事態のなかで試合をすれば、ほかにも余分な問題が起きるおそれがある。
 したがって、今回の予選のやり方は、最善の策ではなく、次善ともいえないにしても、三善か四善の案ではないだろうか。そういう目で見ると、なかなかよくできている案である。
 最初に3月中旬から東京シリーズがあり、ついで4月上旬にかけてソウル・シリーズがある。そして最後に、4月中旬までにテルアビブ・シリーズを終わる形である。
 日程上、日本はいささかの不利を免れないが、著しく不利だとは、ぼくは思わない。平木コーチや選手たちも、不利だと考えないでほしい。東京からソウルに行くのは、時間的には国内旅行と変わりない。
 日韓戦はすでに終わっているので日本が韓国に大勝していないかぎり、ソウルの観衆が一方的にイスラエルのほうを応援することはないだろうと思う。
 ただ、日本チームがソウルでリラックスして宿泊や練習ができるように、日本サッカー協会は最善の努力をしてもらいたい。協会は最近、財政難のようだけれど多少の経費は惜しまないでもらいたい。今となっては、これが協会へのただ一つのお願いである。


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