ネットを破る強シュート
ソウルで行われた日韓サッカー定期戦で、日本代表チームは3−0の完敗を喫した。特派員として現地に行って試合を見てきた報知新聞の佐藤記者にきいたところでは、お話にならないくらい、ひどい負け方だったという。
「今度の韓国チームは、すごいですよ。とにかく、スピードはあるし、動きは激しい、それにシュートがすごい」
佐藤記者は、10年ほど前に日本代表チームのヨーロッパ遠征に同行したこともあるベテランだ。得点差だけに幻惑されて、試合内容の本質を見誤るはずはない。
「ふーむ、それは、たいへんだぞ」
と、ぼくは思った。「スピードがある」「動きが激しい」というだけなら、そう驚かない。韓国のサッカーはもともと、そういう面に一つの特徴があるし、しかも現在の韓国代表チームは、新しく編成された若いチームだから、速さと激しさを正面に押し出して勝負するだろうと想像できたからである。
だが「シュートがすごい」というのは、警戒警報である。シュートは、技術と力と経験の結集したサッカーの精華である。シュートのへたなチームはレベルが低い。シュートの強いチームは油断がならない、と大まかにいっても、そう見当違いではないと思う。
「韓国のシュートが、ネットを突き破って通り抜けてしまった。ネットを突き抜けたあとも、勢いが落ちないで、そのまま、まっすぐ飛んでったくらいですよ」
この話はちょっとオーバーで、ゴールネットが、お粗末だったんじゃないかと思うが、話半分にしても、恐るべきものである。
もちろん、1試合だけの結果を見て、すべてがわかるわけではない。日本チームは、オリンピック予選を目ざしての仕上げの途中だったから、コンディションが十分でなかっただろうと思う。特にベテランの体調が不十分でベストメンバーを組めなかったために、守備に甘さが出て、相手にやすやすと弾丸シュートを許しだのかも知れない。コンディションを整え、若手とベテランのかみ合ったベスト・メンバーで臨めば、こんなことはないはずだと、そういうふうに信じたい。
しかし、韓国側の関係者は、そういうふうには見ていなかったようだ。
韓国チームの団長の崔貞敏氏や監督の咸興哲氏は、自信たっぷりにこういったそうだ。
「現在の韓国代表チームの実力は、確実に日本より上ですよ。まず、負けることは考えられない。まあ、負ける場合があるとすれば試合には、運、不運もありますからね。よほど不運のあったときでしょう」
崔貞敏団長は、20年前のメルボルン・オリンピック予選で、日本と韓国が争ったころの名センター・フォワードだった。咸興哲監督は当時の名ゴールキーパーである。
いま、日本代表チームを指揮している平木隆三コーチは、そのころのバック陣のホープだった。また、長沼健監督は、メルボルン予選の日韓戦には出場していないけれども、やはり当時の日本代表の若手フォワードだった。
世代は変わって、当時の第一線プレーヤーが、それぞれチームの首脳となり、オリンピック予選で対決しようとしているわけである。
若返り成功の韓国
今年の春ごろ、日本サッカー協会がモントリオール予選の東京誘致に夢中になっていたころに、日本の強敵と考えられていたのはイスラエルで、韓国ではなかった。
韓国も、あなどりがたい相手であり、特に東京で開催した場合の観客動員の切り札は“日韓の対決”だと想定されていたけれども、大観衆の応援を期待できるのは、もちろん、地元、日本チームに勝つ見込みが、十分あってのことである。
それが、ここへ来て雲行きがあやしくなってきた。ムルデカ大会で1−3で負け、引き続いて定期戦で0−3で敗れては、「三度目の正直」も、ちょっと期待しにくいところである。
昨年の日韓定期戦では、韓国のほうが意外な完敗をしている。その韓国が今年になって急上昇しはじめたのは、思い切ってベテランを切り捨て、若手を主力に、まったく新しいチームを編成したのが、成功したものらしい。
若手主力の新チームを作ったときに、韓国のサッカー・ジャーナリズムは、その冒険主義を、ごうごうと非難したという。
非難するのも、もっともで、先日やってきた韓国のリーグ・チャンピオン浦項総合製鉄所チームに以前の韓国代表のエース李会沢がいたが、動きは衰えているとはいえ、そのテクニックとポジションのカンの鋭さは抜群だった。「あんなプレーヤーをはずすのは、もったいない。若手ばかりを使うよりも、ベテランの体調を鍛え直せ」と主張する人がいるのも当然だろう。
しかし、ムルデカ大会と日韓定期戦の結果をみて、韓国ジャーナリズムの批判は影をひそめたのではないだろうか。スポーツの世界は、しばしば「勝てば官軍」「結果よければすべてよし」である。
もちろん、これは日本代表チームにもいえることだからぼくたち日本のジャーナリストも、日本がオリンピックの出場権を獲得してくれれば文句はない。韓国チームのような冒険は、いまの時点の日本には無理だと思うから「ベテランと若手のコンビを生かす」という方針を見守って、いまはただ「がんばれ、日本チーム」と、ひたすら声援を送ることにしたい。 |