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サッカーマガジン 1975年8月25日号
時評 サッカージャーナル

単独チームの海外遠征

海外遠征と協会の許可
 静岡県の藤枝東高サッカー・チームが中国へ出かけた。単独チーム(クラブ)のレベルで、海外交流が盛んになるのは、時代の流れに沿ったもので、けっこうなことだと思う。  
 ところが、今回の藤枝東の中国訪問については、すこし前からあまり明朗でない噂が一部に伝わっていた。ぼくの耳にしたのは「日本サッカー協会が、藤枝東の中国訪問をやめさせようとしている」というものだった。この噂が結果的にウソだったことは、7月9日の協会理事会で、藤枝東の中国訪問が正式に許可されたことによって明らかだ。
 しかし、火のないところに煙は立たない。藤枝東の中国行きに対して、協会の一部に釈然としない空気があったのは、事実のようである。
 理事会が開かれる1週間くらい前に、噂を耳にして協会の実力者である小野卓爾専務理事を訪ねたところ、案の定、ごきげんななめだった。
 「藤枝東が日中文化交流協会を通じて、勝手に中国へ行こうとしているのは、けしからん」
 というのが、その理由である。
 小野専務理事が問題にしていた理由は、ほかにも二つほどあったのだが、すでに円満解決した藤枝東の問題をむし返すのは適当でないから、ここでは単独チームが海外に行こうとする場合の協会との関係についてだけ、とり上げることにしたい。       
 さて、藤枝東が協会に連絡しないで中国へ出かけたのであれば、小野専務理事の憤慨も理由のあるところである。10年くらい前に、神戸高サッカー・チームがインドネシアに行ったことがあり、そのときも小野さんが「協会を無視して勝手に出かけた」といって怒っていたのを覚えている。
 こういうケースは、単独クラブの交流の盛んな外国では、むかしから何度も起きていて、FIFA(国際サッカー連盟)の規則にはちゃんとこの問題が明記してある。その一部を訳して紹介してみよう。
 FIFA規則V クラブの国際試合、第9条「異なる国の協会に属するクラブ同士の試合は、関係国協会の明示された同意なしに行ってはならない。各国協会はその規則の中に、クラブがあらかじめ許可申請をしなければならない期限と、違反した場合の罰則を定めておかなければならない」
 ここに「クラブ」というのは、その国の協会に加盟登録している単独チームのことであって、神戸高サッカー部も、藤枝東高サッカー部も「クラブ」である。したがって、海外に出かけて試合をする場合には、あらかじめ日本サッカー協会に申請して、許可をもらって行くのが正しい。これから海外に出かけるチームは、ますますふえるだろうと思うが、協会への申請を書類にして、ちゃんと出しておくようお勧めする。   
 ただ、誤解のないようにつけ加えると、このFIFAの規則第9条は、海外交流の交渉をすべて協会を通じてアレンジしろ、ということではない。ヨーロッパあたりでそんなことをしていたら、協会の事務能力は、それだけでパンクしてしまうだろう。

原則はサッカー試合奨励
 そういうわけだから、10年ほど前の神戸高サッカー部が、協会にまったく連絡せずにインドネシアに出かけたのだとすれば(おそらく兵庫県協会には連絡していただろうと思う。そうだったら県協会と日本協会との間の問題である)無許可で出かけたのは、よろしくない。日本サッカー協会は、そのときに神戸高サッカー部ないし兵庫県サッカー協会に注意すると同時に、海外遠征には、あらかじめ協会の許可がいることを、全国にPRしておくべきだった。
 藤枝東のほうは日本サッカー協会に申請を出し、それに基づいて許可を得たのだから、手続き上はなにも問題はないように思われる。
 ぼくが小野専務理事に会って話をきいたときには、すでに藤枝東高サッカー部からの申請は出ていた。小野専務理事は、
 「今ごろになって、出してきたって無効だ。時宜を失している」
 といっていたが、イングランドの協会の規則ではシーズン中の外国チームとの試合の許可申請は、14日前でいいことになっている(FA規則18b)。日本には、まだそういう規則はないようだ。
 「ところで海外遠征の許可を申請して、どういう場合に不許可になるのかね」
 藤枝東のケースについて話をしていたら同僚が、こんな疑問を提出した。
 「外国では、国内のリーグやカップの試合に2軍を出しておいて1軍が海外に出るような場合が問題になってるな」とぼくは答えた。
 原則として「あらゆるレベルのサッカー試合を奨励する」(FIFA憲章第2条)のが、FIFAと各国協会の目的だから、あまり政治的な配慮などはまじえないで淡々と事務的に許可したらいいんじゃないかと、ぼくは思う。


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